本文へスキップします。
協会紹介
会員
情報提供
その他
教育研修
交流会
講演・発表会
展示会
調査研究
テーマ研究
表彰制度
ライブラリ
2024年問題
2024年4月から始まる、自動車運転業務における時間外労働時間の上限規制に端を発する物流の「2024年問題」。物流や自動車運転業務に関わる企業が、この問題をどのように捉えているのか。アサヒロジスティクス株式会社で、人財本部 採用育成グループ グループ長を務める井上健氏に話を聞きました。
アサヒロジスティクス(株) 人財本部 採用育成グループ グループ長 井上健氏 1999年にドライバーとして入社、営業所長を経て、2014年より人財育成担当 JILS「物流企業のHRM推進研究会」幹事メンバー
―─アサヒロジスティクスが手掛ける仕事はどのようなものですか。
井上健氏(以下、井上) 私たちの会社は食品物流に特化したサードパーティー・ロジスティクスを行っています。常温、チルド、フローズン全ての領域を取り扱うことが可能です。毎日約17,500箇所を超える物流拠点や店舗様へ食品の供給を行い、約500万人の食生活を担っています。
当社は1980年代から運送業に加えて、倉庫業にも進出をしました。自分たちで倉庫内の運営からお届けまで、自社オペレーションを徹底していることが強みです。そうして蓄積してきたノウハウが、今の繁栄発展の原動力になっています。
売り上げは毎年増えており、平均すると115%くらいの伸長率です。私たちの会社には基本的に営業部隊がいませんが、お客様からご要望をいただいて物流センターの数が増えていっています。
――「2024年問題」にどのような対応を進めていますか。
井上 「本当に待ったなしだから集中力を高めてやっていこう」と社内の会議などでも言われています。具体的にはトラックドライバーを増やすことに力を入れています。当社の場合、毎年売上が伸びていくにつれて仕事量も増えています。事業の拡大と2024年問題への対応の両面から、トラックドライバーを増やす必要があります。そのため、速度を上げて採用活動を進めています。
2023年度は、退職を差し引いた純増分でトラックドライバーを200人増やすことを目指しています。例年、年間450人くらいのドライバーさんに入社いただいていますので、いかに定着率を上げていくか、全社を挙げて取り組んでいます。
――トラックドライバーを増やすための具体的な取り組みを教えてください。
井上 2017年に滑川福田センターという研修センターでトラック専用の訓練コースを設けました。S字コース、クランク、坂道、仮想のバースなどをつくり、新入社員の教習を行っています。トラックドライバー未経験の方でも入社いただける環境が整えられています。
現在は新しく入社するトラックドライバーの40.6%が未経験者の方です。ドライバーさんにインタビューをすると、「トラック運転の研修センターがあるから安心して応募できました」とか、「他社にはない魅力でした」などの意見が多くいただけています。トラックドライバーを増やすうえで当社の強みの一つです。
また、2022年に川越自動車学校をグループに迎えました。運転免許を取る人が少なくなると、トラックドライバーもその影響で少なくなります。例えば、当社に入社いただければ、運転免許の取得からトラックドライバーになるまでの教育をワンストップでできる。そうしてトラックドライバーのなり手を増やす狙いです。
現在、自動車学校は今まで通りの運営をしていますが、いずれは教習用のトラックを増やすという話をしています。また、今年入社をいただいた高卒のドライバー3名は、川越自動車学校に通って運転免許を取得して入社していただいています。
その他には、求人方法の研究を進めていて、ホームページやSNSを積極的に活用しています。SEOやリスティング広告など、今まであまり着手していなかったデジタルの部分に力を入れて露出を増やしています。
――女性トラックドライバーを増やす取り組みを進めているとお聞きしています。
井上 クローバープロジェクトという名称で、2019年から女性が働きやすい環境を整えようと取り組んでいます。例えば、女性に合った専用の車両を開発したり、他人にサイズを知られずに女性専用のユニフォームをWeb申請できる仕組みを導入したり、あるいは、女性が業務の悩み等を相談できるホットラインを設けました。
女性ドライバーの人数は5月末で144名、全体の6.1%が女性ドライバーの割合です。業界の女性ドライバーの割合が2.5%ですので、少しずつ女性ドライバーの入社も増えています。
――「2024年問題」に向けて取引先と協働して取り組んでいることはありますか。
井上 コンビニエンスストア様との事業で、当日受注、当日出荷だったものを、受注から24時間空けて出荷するというテストを行っています。時間を空けることで翌日の荷物が確定をするため、事前にトラックドライバーの人数を調整することができます。
また、物価が上がったから取引先様に値上げをしてほしい、ということは極力しないようにしています。当社はお客様の物流パートナーとして新たな提案を行い、両社がWinWinな関係になることを目指しています。
――「2024年問題」では、トラックドライバーの給与が下がるとの見方もありますが。
井上 当社は3年前まで、トラックドライバーの給与は基本給と1本走ったらいくら、という給与体系でした。現在は、基本給を上げて、時間外は1分単位で働いた分だけお支払いする給与体系になっています。これにより、給与が安定をしていると思います。
2024年問題では、時間が減ったとしても給与が落ちないようにというのが会社の方針です。減ってしまったから我慢してね、というのは本来の姿ではありません。今の水準通りに給与が確保できるように、なるべく無駄なものを減らし、自分たちで得た利益を分かちあおうと言っています。
――アサヒロジスティクスの取り組みの背景となるものはありますか。
井上 経営理念の1つに「物流業界を誰もが働きたいと思える憧れの業界にします」と掲げています。経営理念をしっかり軸に据えて事業展開をしています。研修センターにトラックの専用コースを設けたり、自動車学校と一緒になったり、働きやすい環境を作ることの軸になっています。
今年度のスローガンは「働きやすさを高めよう!」です。職場環境の整備や福利厚生の充実、作業負荷軽減の取り組みに力を入れていきます。快適職場プロジェクトという名称で、トイレなどを綺麗にすることから取り組みを始めました。自分が勤めてる職場が綺麗になり、より働きやすくなったらやっぱり嬉しいですよね。
――物流業界を憧れの業界にするための会社の考えを教えてください。
井上 会社全体として取り組むのは、やはり業界のイメージアップ。例えば、綺麗なトラックに乗る。マナーをよくする。ときには学校と連携して子どもたちに物流の大切さを教える。物流業界をリードするために、まずは私たちの会社がお手本になろうと取り組んでいます。
業界を良くしていこうというのは、創業者から言っていた言葉です。運送業の社会的地位を向上していこうと、ずっと言われ続けてきました。社内研修でも管理職以下しっかり教えられていて、業界の地位を向上していかないと良い業界にならないと考えています。
人手不足の時代の中では、働く環境整備をしっかりとやっていくことで人の集まりが良くなるという想いがあります。今後とも会社の目指すべき方向に向けて取り組んでいきたいと思います。
(インタビュー・書き手 日本ロジスティクスシステム協会 坂口 陽)
「2024年問題」物流企業の声を聴く─適切な賃金でドライバーをやりたい仕事に
一覧へ戻る