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国際物流強靭化
「可視化からはじめる国際物流DX」という大テーマのもと書いてきた本コラムも、いよいよ最終回となりました。集大成とも言える今回は、過去5回の内容を少し振り返りつつ、実際に国際物流DXのアクションを取って頂けるように自社に合うはじめの一歩やパートナーの選び方について説明していきたいと思います。
過去5回の内容を簡単にまとめると以下の通りです。見逃した回や忘れた回があれば、是非この機会にそちらも読んでみてください。
国際物流DXとは何であり、今取り組むべき理由としてどういったトレンド等があるのか、そして取り組みを開始するうえではまず何が重要か、成功事例や失敗事例からどういったことが学べるか、といったことを説明してきました。
本連載(コラム)は「読者のみなさまの会社でも国際物流DXに着手して頂きたい!」という思いで執筆しました。しかし特に第4回や第5回の内容に関しては字数の制限もありすべては触れきれず、実際のアクションに繋げて頂くためにはもう少し補足説明しておいた方がよいかなと思う点もありました。今回はその補足すべきと思った2点について説明していきたいと思います。
1つ目は可視化の目的、ゴール設定の部分です。ゴール設定が大事ということはわかっても「どうゴールを決めるのか/1つに絞るのか」に悩む方もいらっしゃるかもしれませんし、「本当にそのゴールでよいのか?」という観点では、例えば「社内稟議を通るのか?」「ROI(投資対効果)が出るのか?」といったところに悩んでいるというお話も多数伺います。
2つ目はパートナーの選び方・向き合い方についてです。国際物流DXのような大きな取り組みを自社だけで進めることは多くの場合において困難ですので、パートナーになり得る候補としてはどういったタイプの企業があるのか、候補からパートナーを選ぶうえではそれぞれどういったメリット・デメリットがあるのかという点がある程度わかっていると、より動き出しやすくなるでしょう。
過去の(第4回の)コラムでは、国際物流DX成功への第一歩をどうすべきかという観点で、「まずは可視化のゴールを明確化し、その後3つの観点での可視化を行うことで効率よく国際物流DXを進めましょう」と説明しました。一方、もう少し具体的には、ゴールやゴールを実現するための施策は複数候補がある場合も多いですし、実行するもの/しないものの判断や優先順位づけはどう行うとよいのでしょうか。基本的には「(実行するもの/しないものを判断するための)評価の基準を決める⇒その基準で順位づけをする」という順番になるでしょう。評価の基準としては、例えば以下が挙げられます。(必ずしもすべての観点で評価する必要はありませんし、むしろそうすると非効率な場合もあります。自社にとって重要と思われる、必要と思われる観点を取り入れてみてください。)
ROIはあくまでこれらの基準の1つです。例えば、実現できた時に非常に高いROIが見込めても、技術的なハードルが高く実現可能性が限りなくゼロに近い施策を実行するかというと見送る方は多いでしょう。施策の優先順位づけを行う際には、ROIだけでなく様々な観点でしっかり評価して決めることが重要です。しかし一方で、社内の承認を取るうえでROIの算出に苦労されている方をよく見かけますので、以下でROIについて少し説明したいと思います。
いきなり「ROI」といっても考えるのが難しい/悩む場合は、まずはそれぞれの施策に見込まれる効果を挙げていきましょう。例えば見積り取得なら「見積り取得業務の工数削減」「運賃データ分析によるコスト削減」等が期待できますね。「見積り領域に取り組むと何が期待できるか」のように、候補として挙げたそれぞれの領域で期待できることを考えてみてください。取り組みによって期待できることを定量化したものがROIと考えることもできます。「ROIが見込めるかわからない」「ROIをどう計算すべきか悩んでいる」というご相談を頂くこともありますが、計算自体は比較的シンプルです。
イメージは上記のようになります。実際に計算するうえでは、計算式に自社サプライチェーン(以下、SC)のデータを入れていくことになります。この点について少し見てみましょう。
例えば、年間物量(輸送量)が100コンテナなのか1万コンテナなのかによって、オペレーションに必要な人員数、オペレーションの工数、トータル物流費等も異なりますから、見込まれるROIも変わってきます。
また、SCの複雑さも大きく関わります。シンプルなSC、例えば日本から中国への輸出のみを行っている企業と、工場も倉庫(納品先)も世界中に多数あり、ポートペア(輸出港と輸入港の組合せ)が数百に及ぶ企業とでは、国際物流のDXに関する課題の多さや改善できた際のROIの高さは異なるでしょう。複雑なほど難易度が高い分、改善できた時のROIは大きなものが見込まれますが、シンプルなSCの場合は(フォワーダーを利用しているなら)まずはフォワーダーのソリューションを活用すれば十分かもしれません。
自社SCの構造およびその現状によって期待できるROIが変わり得る項目としては、他にも例えば以下があります。
まとめると次のようになります。
ROIについて考えることは社内稟議を通すためだけでなく、「ここまでやれないとROIが出ない⇒逆説的に、将来的にここまで行くことを目的とした活動にしなければならない」「業務効率化観点だけでなくDET/DEM削減まで見込めないとROIが出ない⇒DET/DEM削減を実現するには●●のデータが入手可能なことが条件となるため、システム/パートナー選定においては●●データ入手可否が重要な評価項目の1つとなる」といった、取り組みの方向性や注意事項、制約事項等を洗い出すことにも繋がり、国際物流DXの失敗率を下げることができます。
次にパートナーの選び方・向き合い方についてです。DXを進めるうえではシステム的な話が不可欠なため、自社開発するか外部のクラウドサービス等を活用する、あるいはフォワーダーのデジタルソリューションを活用するといったことが必要になるでしょうし、どの方法で進めるか考えなければなりません。
以下は国際物流DXを進めるうえでパートナーシップとしてどのような選択肢があるか、簡単に表にまとめたものです。
まずはこの程度の粒度で構いませんので、それぞれの選択肢にどういったメリット・デメリットがあるかを理解しておいてください。(あくまで一般論ですので、実際には例えば同じ「SaaSベンダー」や「フォワーダー」に分類される企業間でも異なる点が出てきます。パートナー候補との会話の中では、同じ分類の企業であってもそれぞれの項目ごとにどう異なるのかを含め、1社1社より細かく見ていく必要があります。)
パートナー候補のタイプごとの違いを理解したうえで、各社との会話における注意点にも触れておきたいと思います。特に以下の点は気を付けるべきだと考えています。
まず大前提として、相手の主張を鵜呑みにしないのは重要です(前回のコラムでも書きましたが、改めて強調しておきたいと思います)。相手企業にとっては営業ですので、多少セールストークが入ってくるという点は当然割り引いてみるべきでしょう。実現したいことから逆算して必要な/重要な要素は何か、それをどのように質問してどのような回答が得られれば白黒はっきりするか、質問の回答に少しでも「おやっ?」と思うところはないか、と考えてみてください。よいパートナーシップを構築してよい取り組みとするためにも、自身でしっかりと考えてもやもやした点が残らないようにすることが大切です。
次に、不可逆なこと、後戻りできない/しにくいものほどしっかり考えておくことが重要です。例えば国際物流DX領域でよく出てくる話題に、外部システム連携があります。外部のシステムを利用し、自社のユーザーがそのシステムにログインして使うだけでなく、EDIやAPIによってシステム連携することで、そのシステム内のデータを自社基幹システム等に取り込み基幹システム内のその他データと組み合わせて分析等行いたい、というようなケースです。
システム連携する際には、相手の仕様に応じて自社システム側も開発が必要になります。SaaSベンダーや貿易プラットフォーム、フォワーダー等、国際物流領域のシステムすべてのAPI等の仕様が共通であればよいのですが、残念ながら各社異なる点が結構あります。DX実現に向けてSaaSベンダーやフォワーダー等のパートナーを選定し取り組みを始めたものの、このシステム連携で失敗した、数年手こずっているという話は悲しいほど多く伺います。各社仕様が異なるなかで、一度1社の仕様に合わせて自社システムに開発を加えてしまうと、「やはり成果を得るために重要な●●の部分で使えなかったので他社に切り替えよう」と思っても「システム連携の部分を変更する追加コスト(費用・時間)が大きい…」といった点がネックとなり、諦めざるを得なくなってしまったというケースも多いです。API等によるシステム連携における注意事項やあとで困ることとしては、例えば以下があります。
API利用する場合は自社システム側も追加開発が必要なケースが多く、後戻りしにくいことだからこそ、最初にしっかりと検討しておくべきです。手間がかかるからなどと相手に嫌がられても気にせず、納得のいく結果が得られるまで「質問を繰り返す」「テストを行う」「データをもらう」等のアクションをやりきってください。
もう1つ、国際物流業務に関わるシステムを自社開発されるケースもしばしば伺いますが、自社開発も後戻りしにくい選択肢の1つです。数年かけて頑張ったが結局業務上使えるレベルのものにはならないと判断して諦めたという話も聞きますし、膨大な時間と費用をかけて何とか作り切ったが結局社員は1、2割しか活用していない(成果は出ていない)という話も少なくありません。この場合も事前に十分検討したうえで進められることをお勧めします。 自社開発にするかどうかを決めるにあたっても
といったこともお勧めです。外部企業は自社でシステムを作っているわけですから、会話を通して「そこはまだ技術的に実現が難しい」「●●の点に気を付けるべき」等のヒントが得られることもありますし、そういった会話を通して「やはり自社開発より外部のSaaSを活用した方が安いし、成果も大きなものが見込める」といった結論に至ったとすれば、それ自体がROIの高い活動だったと言えるでしょう。会話を通して不安要素が払拭され「やはり自社開発しよう!」となれば、それはそれでリスクを下げながら納得感をもって進めることができます。
※外部のSaaS等の利用ついては、API利用等システム連携まで行うと後戻りしにくくなりますが、システム連携しない範囲においては比較的解約も容易ですのでPoC的に使ってみるということも成り立つと考えています。
今回は6回連載の最終回として、過去5回の内容を簡単に振り返りながら、国際物流DXのゴール設定、推進におけるパートナーの選択肢・選び方といった点を説明してきました。簡単にまとめると以下の通りです。
6回にわたって国際物流DXの主要論点を説明する形で書いてきましたが、本当に簡単にしか触れられていない点もありますし、「このあたりをもう少し詳しく聞きたい」等あれば、以下(あるいは弊社ホームページ)からいつでもお問い合わせください。
読者のみなさまにとって少しでも得られるものがあれば嬉しいですし、このコラムを読んで「国際物流DXに取り組もう!」と思う方が一人でもいらっしゃれば嬉しい限りです。
そして所々に「最初の一歩」と書いてきましたが、最初の一歩ではなく既に取り組んでいて困っている、暗礁に乗り上げて悩んでいるといった方がいらっしゃれば、いつでもお気軽にご相談ください。
一緒に国際物流のDXを進めて、業界全体を変革していきましょう!
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