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国際物流強靭化
「可視化からはじめる国際物流DX」という大テーマのもと、前回(第3回)は「「フォワーダー任せ」でも物流DXは推進可能?国際物流パートナー選定のポイント」というテーマでフォワーダー利用時のDXの考え方や始め方、物流パートナー選定のポイントを見ていきました。
第4回の今回はもう少し具体的なアクションに踏み込み、国際物流DXの実施にあたってはまず可視化から着手すべきこと、特に3つの観点での可視化にまず取り組むべきであるといった話をさせて頂きます。
さて、DXの第一歩が可視化であることは第1回で触れました。ダイエットをしようとして全然体重計に乗らずランニングばかりする人も少ないですよね、という話です。(まだ読んでなくてご興味おありの方は第1回も是非ご参照ください)
一方で、何でも可視化すればよいということでもありません。「国際物流のコストもリードタイムも輸送/サービス品質もCO2排出量も全部可視化して…」というのは非常に非効率ですし、可視化できても残念ながらアクションに繋がらないというケースが多いです。例えばコストを可視化して「アジア発北米向けの海上輸送費が特に大きい。なかでも最も割合の高い船社Aの海上輸送費が昨年から10%上がっている」ことがわかっても、これだけでは「弊社のビジネスはアジア発北米向けが多いので当然か。海上輸送費の増加も市況の変化によるもので、例年担当者が限界まで運賃交渉を頑張っていることもわかっている。何もやれることはなさそうだ…」となってしまうことが多々あります。
まずは可視化の目的の整理が重要です。可視化する目的がなければ非効率、あるいは意味のない「可視化が目的」の可視化になってしまいます。
可視化の目的を整理するうえでは一度「DXとは何だったか」に立ち返ってみることがおすすめです。DXとはDigital Transformation(デジタル変革)、変革なのでした。つまり、従来の改善活動の延長線上のような取り組みではなく、既存のビジネスモデルや組織を抜本的に変えるようなインパクトのあるものです。そしてDXは大きく社内向けと社外(顧客等)向けの2つに分類することができます。前者はデジタルを前提として社内の業務プロセスを抜本的に見直すもの、後者はデジタルを前提に顧客体験・顧客への提供価値を抜本的に見直すもの、といった具合です。
上記等を参考に、どの領域のDXに取り組むのか優先順位をつけておきましょう。会社の事業戦略や国際物流の所管組織の戦略でDXが掲げられていれば、まずはそれに合わせた領域に取り組むのも1つの手です。会社や組織の戦略というトップダウンでの方向づけがあると、異議を唱える人も少なく社内を動かしやすくなるでしょう。
上図1から3のような優先度の高い目的をしっかり整理したら、次はいよいよ可視化に取り組んでいきましょう。と言っても「全社の国際物流コストを漏れなく洗い出そう!」「今年度の海上輸送のリードタイムの予実をすべて洗い出そう!」「昨年度の全輸送のCO2排出量を洗い出そう!」といったアプローチはおすすめしません。これをやっていると、結局目的を整理した意味がなくなってしまいます。
弊社としては、上記のようなQCDE(E:Environment)でのデータを使った可視化の前に、以下の3つの観点での課題の整理、すなわち貴社の現状の「可視化」に取り組むことを推奨します。
まず、どこから着手すべきか優先順位をつけましょう。優先順位づけにあたっては、「ドメイン」と「業務」の全体像の可視化から始めるのがおすすめです。
国際物流といっても見積り、ブッキング、トラッキング、書類作成/通関、支払い、レポーティング…と様々な領域があります。「ドメイン」とはこうした「どの領域か」という観点です。もう1つは業務の観点です。例えば見積り領域にフォーカスするとして、船会社との年間運賃交渉プロセスの業務効率化、船会社からのスポット運賃取得プロセスの業務効率化、取得後の運賃データ管理・活用、…と様々な業務があります。
まずはドメインを縦軸に、業務を横軸として国際物流業務の全体像を可視化してみましょう。企業や部署によって「国際物流」といってもミッションやスコープは様々ですが、上記の整理をしておくことで自社/自部署のスコープに関しては全体像を俯瞰して見ることが可能になり、社内外関係者と認識を合わせるうえでも役立ちます。
しっかりやろうとすると「本当にこれで全部だろうか…」と気になってくるかもしれません。漏れなく全体を捉えることは重要ですので、可能であればこういった抜け漏れチェックは数回繰り返して、より完成度の高いものにしていく方がよいでしょう。一方で、抜け漏れのなさにばかりこだわってしまい先に進めないのも問題ですので、ある程度全体像を描けたと思ったら一旦次のステップに進みましょう。あとでまた戻ってくることも可能です。
後続プロセスはニーズの整理になりますが、ニーズに移る前にまずは優先順位のあたりを付けておきましょう。書き出した全体像に沿って1つずつニーズヒアリング・整理を進められれば有用な情報が得られるでしょうが、目的の達成にあたってはこれもやはり非効率ですし、広く浅いヒアリングになるとアウトプットも浅いものになってしまいがちです。先にこれまでのご自身の経験や見聞きした情報を元に、「ここが課題が大きそう」「ここはあまりニーズがなさそう」といったあたりを付けていきましょう。そうして優先度をつけたうえで、優先度が高いものについては「原因はきっと現場の業務フローが…となっているからに違いない」というように仮説を立てられるとなおよいですね。より価値あるヒアリングが可能になります。
この時点で優先順位をつけ切ることが難しければ、ニーズを整理しながら優先順位をつけていくこともOKですが、恐らくまったく優先順位をつけられないということは稀なので、自信をもって優先順位づけしてみてください。
社内向けであろうと社外向けであろうと、DXの種がどこから出てくるかというとユーザーニーズからです。ニーズと書くと「●●したい」というようなものを想像するかもしれませんが、「〇〇がしたいが●●がないので困っている」というようなユーザーペイン(痛み)と捉えた方が理解しやすいかもしれません。またニーズ/ペインには強弱もあり、「●●がしたい!(まぁなくても大丈夫だけどあると嬉しい)」なのか「●●がなくて本当に困っている!」なのか、つまりNice to haveなのかMust haveなのかを見極めることも重要です。
優先度の高いところから、社内担当者の不満や要望、顧客や営業担当者の不満や要望を集めましょう。1つ1つの不満や要望にもそれぞれに強弱がありますから、不満や要望の強さ、そうなっている原因までできるだけ定量的に、事実ベースで整理できるとよいですね。例えば以下のようなイメージです。
ニーズ/ペインが整理出来たら、次はそのニーズが満たされた状態/ペインが解消された状態(=理想形)を言語化していきましょう。例えば以下のようなイメージです。
理想形が描けていることで、以下のようなメリットがあります。
上記はDXのような取り組みにおいていずれも非常に重要です。取り組みを進めるなかで関係者が「共通認識を持てているようで実は細かいところで異なるイメージを持っていた(ため議論がかみ合わなかった)」という事例は本当に数えきれないほど目にします。また後者の観点でも、理想形が描けておらず何を実現したいかが曖昧なため、ソリューション導入検討時にプロバイダーに対して通り一遍基礎的なことは大量に質問しているものの肝心のところを深く聞くことができておらず、結果適切な評価ができない(よって最後は「値段やブランドで…」とほぼ評価の意味なく決めることになる)という企業も多いです。
ここまでできれば、DXを進めるうえでのソリューションの候補がかなり見えてきているでしょう。 さらにその後のステップは、着手する施策の優先順位づけです。優先順位をつけるうえでは、ROIの観点やフィージビリティの観点が重要になってきます。それらをある程度整理できたら、実際にソリューションプロバイダーに話を聞く等してみるとよいでしょう。優先順位づけの前から様々なソリューションプロバイダーの話を聞いてみて多くの情報を集めるのもよさそうですが、個人的にはあまりおすすめしません。多くの場合それぞれのセールストークを受けるだけでApple to Appleでの比較はできませんし、自身のなかで比較すべき重要項目が見えていないと大したヒアリングもできません。(かなり的を絞って具体的に聞いていかないと、重要な点こそなかなか開示してくれない企業も多いのが現実です。)よほどソリューションのイメージがわかない場合は1、2社話を聞いてみてもよいかもしれませんが、そうでなければまずは自社内でしっかり優先順位づけをするのが重要と考えます。
フィージビリティに関しては、DXにおいては特に「理想の状態を実現するためにはどのようなデータが必要か」という観点が重要です。例えば海上輸送の動静可視化であれば「Booking Noと船社名があること(ないと動静可視化できないため)」が必要ですが、「海外拠点が管理している分はBooking Noが一元管理されていない(つまり3割程度は手元にない)」というような場合には「7割だけ可視化できればOKとする」のか、あるいは「海外拠点管理分もBooking No等入手可能にする(それが可能かどうかも確認する)」のかといった検討が必要になります。データに関する条件も挙げだすと非常に多岐に渡りますが、この段階では最低限着手すべき施策の優先順位をつけることが重要と考えると、まずは理想形を実現するために必要なデータ(やその状態)を整理出来ておけばよいでしょう。
※ここではフィージビリティの説明を簡単にするため、どのソリューションを選ぶ際にも共通して必要となるハイレベルなデータ項目の整理にとどめています。例えば上述のBooking Noの例について、ソリューション候補として①外部のSaaSを利用②RPAで対応③フォワーダーのシステム利用の選択肢がある場合、③は「House B/L Noがないと利用できない」等の条件があるケースがありますが、本コラム内ではソリューションの選択条件となるデータ項目にまで踏み込むと細部になりすぎてしまうことから、ソリューションに依らず必要となるものについて整理しています。
後々優先度高く取り組む領域が決まり様々なソリューションを検討するなかでは「ソリューションごとの条件(必要データ)」も出てくるでしょう。それらもソリューション選定においては重要な観点ですので、そのタイミングで整理していきましょう。
ここまでの説明においては、冒頭攻めと守りの2つのDXを挙げたうち、どちらかと言えば後者の守りの(社内向けの)DXのイメージで書いています。 攻めの(社外向けの)DXについても基本的には同じですが、社外の場合はより「顧客体験」にフォーカスすると上手く整理できます。顧客はどのような方(ペルソナ)で、一連のプロセスのなかのどのタイミングでどのような行動をし、貴社とはどういった媒体を通してやり取りし、どういった感情を抱いているかといった具合です。インターネットで「カスタマージャーニーマップ」と検索すればテンプレートやその使い方の説明等も多数の文献が出てきますので、是非参考にしてみてください。
今回はDXの第一歩としての可視化にフォーカスし、目的の設定に加えて3つの観点で貴社の現状を「可視化」することが重要であると説明してきました。簡単にまとめると以下の通りです。
今回は可視化における推奨アクションについて述べましたが、次回は逆に、DXの失敗事例や失敗から学ぶべきポイントについて触れたいと思います。
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