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国際物流強靭化
「可視化からはじめる国際物流DX」という大テーマのもと、前回(第2回)は「国際物流DXの成功事例に学ぶ!DX成功要因と船社・海外荷主の動向」というテーマで背景としての船社動向と海外荷主のDX事例を見ていきました。
第3回の今回は、フォワーダーを利用されている荷主のケースを想定し、フォワーダーのデジタル化動向にも触れながらフォワーダー利用時のDXの考え方や始め方、物流パートナー選定のポイントについてご紹介します。
前回は「船社のデジタル化により荷主のDXのチャンスも広がっている」という話をしました。荷主の物流パートナーである船社のデジタル化が進めば、例えばブッキングやトラッキングの自動化を進めやすくなる等、荷主にとっても国際物流DXを進めやすくなります。ただし、もう少し詳細に書くと、実際のオペレーション上は下図のように荷主が直接船社とやり取りする場合とフォワーダーを通す場合があり、前回の話は前者により当てはまりやすい(想像しやすい)話になっていました。
後者の場合、荷主と船社の間にフォワーダーが入ってきますから「船社のデジタル化よりもフォワーダーのデジタル化が重要なのでは?」等の疑問も出てくるでしょう。これはその通りです。DXを既存の業務フローの整理から始める場合も、関係するのは船社より主にフォワーダーでしょうし、自社の状況をよく理解してくれているであろうフォワーダーがサポートしてくれるのであれば、現状あまり関わりのない船社と関係構築から開始するより手間もかからないため実行の難易度は低いでしょう。
そこで今回は、主に後者のフォワーダーを利用しているケースにフォーカスして、この場合の自社DXの考え方や進め方等を詳しく見ていきたいと思います。
前回は船社のデジタル化動向を見ていきましたが、同様にフォワーダーのデジタル化動向を見ていきましょう。フォワーダーのデジタル化動向を語るうえでデジタルフォワーダーの存在は無視できませんので、まずはご存じない方のためにデジタルフォワーダーについて簡単に説明します。
そもそもデジタルフォワーダーとはどういった企業でしょうか。日本のデジタルフォワーダーであるShippioによると、デジタルフォワーダーは以下の通り定義されています。
<デジタルフォワーダーの定義(以下抜粋)> 輸出入案件を管理するシステムを提供して、荷主業務の効率化に貢献する、世のデジタル化の流れに対応したフォワーダー。荷主が輸出入案件をデジタルフォワーダーに依頼をすると、見積もりや本船動線の確認、タスク管理、コミュニケーションの課題などの貿易業務を効率化するツールを使用することが可能。
デジタルフォワーダー台頭の経緯を簡単にご説明すると、2013年創業のFlexport(アメリカ)がクラウドサービスを顧客向けに構築・提供したのがデジタルフォワーダーの始まりでした。その後、ドイツのForto、中国のYunQuNa、日本のShippioなど世界各国でデジタルフォワーダーが誕生してきました。
ここでデジタルフォワーダーに馴染みがない方のために、従来のフォワーダーとデジタルフォワーダーの違いについて、他業種の旅行会社を例に説明したいと思います。
図のように、従来の旅行代理店では、例えばツアーを予約しようと思ったら店舗に足を運び、紙のパンフレット等で複数ツアーを比較して自分に合ったツアーを選び、窓口の列に並んで予約し、予約内容等の記載された資料は紙で保管していました。こういった予約をする機会が減った昨今ではもはや信じられないようですが、アナログなプロセスには非効率が多く「店舗に足を運ぶ手間がかかる」「紙のパンレットでは比較しにくい」「列に並び時間がかかる」「紙の書類保管は手間がかかりかさばる」等わずらわしさを感じていた人も少なくないでしょう。
これが今ではBooking.comのようなサービスによってデジタル化され、ユーザーはインターネットのブラウザを開けばウェブサービス上でツアーの検索から比較、ブッキングまでシームレスに行うことができ、書類はわざわざ発行することもなく、デジタルデータとして持ち運びができるようになりました。
デジタルフォワーダーも基本的には上記Booking.comのような存在とイメージすると理解しやすいでしょう。デジタルフォワーダーが何をやってくれるか(どういった機能を提供しているか)を整理したものが下図になります。
代表的なデジタルフォワーダー数社の主要な提供機能を整理しました。いずれの企業も主要な全機能を提供しており、同じ「ブッキング」と言っても「どの程度使いやすいか」「細かいところで何ができる/できないか」等詳細レベルでは各社で違いがあるものの、似たようなサービスラインナップとなっています。
ここまでデジタルフォワーダーの台頭について見てきましたが、それでは既存の大手フォワーダーはどの程度デジタル化しているのでしょうか。大手フォワーダーのDX動向として数社の取り組みを簡単にまとめたのが下図です。
大手フォワーダーもデジタルフォワーダーに追随する形でデジタル化(デジタルフォワーダー化)を推進しています。どの機能・サービスから提供開始するかは各社で異なりますが、上記デジタルフォワーダーの例同様、運賃見積りやブッキング、トラッキング等、基本的には機能レベルでは同じものを提供しようとしています。
もっとも、デジタルフォワーダーと呼ばれる企業の多くが所謂スタートアップであり、そもそもデジタルを前提として会社を設立しているのに比べ、大手フォワーダーの場合はアナログからデジタルに転換する、まさにDX、デジタルにトランスフォームする必要がありますから、「社内にデジタル化を推進する人材がいない」「開発したシステムが業務上使われるためのプロセス整備が難しい」等大手企業のDX特有とも言える問題に直面していることでしょう。そのため、実際に業務で利用する際のユーザーエクスペリエンスとしては各社かなりの差が出ていますが、業界全体としてはフォワーダーのデジタル化がどんどん進んでいます。
中堅以下のフォワーダーはどうかというと、ここは各社の投資余力やトップのDXの必要性への理解等に依存してきます。DXを進める、デジタルフォワーダー化を進めるためにはシステム開発等小さくない投資が必要になりますので、それだけの投資余力がない企業はまだDXを進められていませんし、投資が必要なこともあり、トップが「アナログなままではなぜダメなのか?」という企業もまだまだ多く、大手に比べるとDXの推進度は低い状況です。
今後どうなっていくかで言えば、上手くDXを進めているフォワーダーとそうでないフォワーダーとでますます二極化が進んでいくと考えられます。
荷主企業のフォワーダーに対するデジタル化ニーズは確実に高まっています。デジタルフォワーダーや大手企業のデジタルソリューションを体験する荷主が増えてきたなかで、「御社も同じことをやってくれないんですか?」とフォワーダーが荷主から聞かれることは増えていると聞きますし、その温度感も、コロナ禍での国際物流の混乱等を受けて、可視化等のニーズとともに高まっています。デジタル化をフォワーダー選定時の必須要件とする荷主企業は年々増加しており、今後もその傾向は強まっていくことでしょう。
一方で、DX推進には少なくない投資が必要ですし、経験豊富な人材も必要です。中途半端な投資、中途半端な人材では失敗に終わることは目に見えていますから、組織を動かせる適切な人材・チームを登用し、十分な予算を確保する、まさにフォワーダーのDXへの本気度が試されます。
「DXにヒト・モノ・カネをどれだけ投資できるか/していくか」「DXによって荷主にどれだけよい体験を提供できるか」が今後ますますフォワーダーの事業戦略上の重要論点になってきますし、DXにどれだけ本気で取り組むかという各社のスタンスによって、これまで以上に二極化が進んでいくでしょう。このあたりは2024年、2025年あたりで着目すべきトピックの1つだと考えています。
ここまで新興/既存両方のフォワーダーのデジタル化動向を概観してきましたが、以降ではそういった流れも踏まえた荷主としてのDXの進め方について考えていきましょう。
結論から言えば、以下の2つの視点で荷主の国際物流DXを進めるよい時機だと言えるでしょう。
自社が利用しているフォワーダーのDXが進めば、そのデジタルサービスを使ってみることで基本的に自社で大きな投資をすることなく、「どのようなことが可能になるか」「どれだけの価値に繋がるか」といったことを小さく実験することができます。まずはフォワーダーにデジタルソリューションの提供有無やその詳細を確認してみましょう。そして提供されているものがあれば是非使ってみましょう。
実際に業務上使ってみることで「何ができるか/できないか」といった理解が深まっていきますし、フォワーダーのデジタルソリューションでできること/できないことへの理解を深めながら、「自社の国際物流DXにどう活かせるか」「実現したいことから逆算してフォワーダーのソリューションは十分か」といった議論も社内で行っていくことで、自社の国際物流DXのイメージがよりクリアになっていきます。また、「システムにも投資して国際物流DXを大きく進めよう」等決めた場合にも、小さく実験していることで無駄な失敗を減らし効率よく進められます。
もし自社の国際物流を「フォワーダー任せ」にしてきてしまったようでしたら、こちらも非常に取り組みの価値が高い大きなチャンスです。「フォワーダー任せ」にして国際物流がブラックボックス化(=業務の詳細がわからなくなってしまっていること)してしまっているということは、「現状がよいのか悪いのか(何かアクションが必要なのか)」さえ判断が難しくなってしまっているということですが、デジタル化は「データで可視化(し改善可能に)すること」とも言えます。したがって、ブラックボックス化した業務の改善と相性がよいですし、中身の見えない度合いが高いほど、大きな改善が見込めるポテンシャルを秘めている可能性があります。
アクションとしては上記1同様「まずはフォワーダーのデジタルソリューションを使ってみましょう」です。フォワーダーが提供してくれているソリューションを使って、自社の国際物流の中身をクリアにしていきましょう。複数船社を併用しているケースを例に考えると、例えば、フォワーダーの可視化ソリューションを活用して「当初計画通りの割合で船積みされているか」をデータで確認し、予実間に乖離があればその理由を特定していくことでサプライチェーンの見通しをより立てやすくなるかもしれません。
データも提示しながら原因をフォワーダーに確認することで、「計画がフォワーダー社内で現場に上手く伝達されていなかった」といったような原因が見つかり改善に繋がるかもしれませんし、フォワーダーへのパフォーマンスのフィードバックにもなります。必ずしもフォワーダーへの改善要望ばかりでなく、業務の中身がクリアになればなるほど、問題点が「自社の改善ポイントなのか」「フォワーダーの改善ポイントなのか」といったことも明確になり、フォワーダーと協力して自社のサプライチェーンを改善するためのより明確なアクションが見えてきます。
こういった会話を重ねていくことがフォワーダーとのより強固なパートナーシップにも繋がることでしょう。フォワーダーが可視化等デジタルソリューションを提供してくれることは、荷主にとってブラックボックス化してしまっていた国際物流の業務プロセスを把握可能にし、それによって非効率な部分の特定や改善ができるチャンスなのです。
ここまで「現状取引のあるフォワーダーのデジタルソリューションをまずは使ってみましょう」という話をしてきました。そうやって小さくトライアンドエラーを繰り返すことで「何ができるか/できないか」「自社の国際物流DXにどのような価値をもたらすか」「自社の国際物流DXには何が必要か」といったことが具体化されていきます。
次のステップとしては、より幅広く、現状取引のないフォワーダーからもDXの観点で情報収集してみましょう。
まずはデジタルサービスの有無を確認しながら、「具体的にどのような機能があるか」「他社と比較してどこが優れているか」等聞いていくことでより理解が深まりますし、できないと思っていたことも他社であれば実現可能ということがあるかもしれません。機能的にはどこも類似しているという話をした通り、表面的にはどこも横並びに見えるものですが、具体的に深く質問していくことで細部の違いが見えるようになり、自社DXにとってより適した機能はどちらか判断できるようになるでしょう。
例えば、「輸送状況を可視化してくれる顧客向けのシステムはありますか?」と聞くとどこも回答は「あります」かもしれませんが、「(船の発着や積卸し等)どのような輸送のイベントを可視化できますか?」「制約はありますか?」等深く具体的に質問していくことでできる企業とできない企業が明らかになり、「国際物流DXを進めて〇〇を実現するためにはA社のソリューションでは実現可能だがB社では現状不可能」といったことが見えてきます。これは国際物流DXを進めるうえで非常に重要な情報です。
こういった取り組みを継続するなかで「価値あるDXを進められそうだ」という認識が強まってきたら、業者選定時の評価観点としてDXの面を入れるのもよいでしょう。業者選定/運賃交渉時の評価観点として加えることでフォワーダーに対して国際物流DXへの本気度が伝わり、そういった荷主のフィードバックを通してフォワーダー側もよりデジタルソリューションの高度化に投資する、結果的に荷主としてもよりよい体験を提供してもらえることが期待できます。
また、評価観点に加えることで「具体的にどのような観点が重要か」「優先順位はどうか」といったことを社内で話す機会にもなります。これは副次的なことのようで、実は多くの企業がなかなかできていない重要なことでもあります。
まとめると「まずは現在利用しているフォワーダーのデジタルソリューションを使ってみる→他のフォワーダーからも幅広くDX観点で情報収集してみる→業者選定/運賃交渉時の観点としてDXの項目を加える」といったことが、自社DX推進のはじめの一歩としてはおすすめです。
今回は、フォワーダーのDX、デジタルフォワーダー化の動向に触れながら、それがフォワーダーを利用している荷主にどのようなチャンスになっているのかを見てきました。簡単にまとめると以下です。
次回はより具体的に「国際物流DXの何から着手すべきか」といった点を書きたいと思います。
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