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国際物流強靭化
この連載では、「可視化からはじめる国際物流DX」というテーマのもと、国際物流DXにまつわる様々なポイントに触れていきます。国際物流に実務で携わる方を想定読者としていますが、出来るだけ平易な表現を心がけていますのでそれ以外の方にも気軽に読んで頂けると幸いです。
初回である今回は「そもそも国際物流DXとは何か」「なぜ可視化から始まるのか」「なぜ今注目すべきなのか」といった点についてご説明します。
そもそも国際物流DXとは何でしょうか。
「国際物流」とは貿易(輸出入)時の貨物の輸送です。例えば日本発着のサプライチェーンを想定すると、日本は島国のため海か空で運ばざるを得ませんから、海上輸送か航空輸送を伴う海外発着の物流となります。
海上輸送や航空輸送を行う場合、運賃見積り、ブッキング、貿易書類作成、通関、動静管理(※1)…と付随する様々な業務を行う必要がありますが、これらの業務のうちどこまでがデジタル化されているでしょうか。
所属する組織によって状況は異なるでしょうが、B/L(=船荷証券 ※2)のデジタル化率はグローバル平均で1.2%(※3)というデータもありますから、恐らく多くの方が未だにアナログな業務と戦っていると想像できます。
アナログなままになっているということは、非効率が残っているということです。例えば公共交通機関でオートチャージの交通系IC等を使わず、毎回現金で乗車券を購入し続けることを考えると非効率がイメージしやすいでしょう。そのような国際物流の業務をテクノロジーを使ってデジタル化していくことが国際物流DXなのです。
ここで「DX」について改めて考えてみましょう。
DigitizationとDigitalization、DX(=Digital Transformation)の違いについては様々なところで整理がなされていますのでここでは詳細には触れませんが、簡単に説明すると図のようになります。
DXには「Transformation(=変革)」という単語が使われていますから、事業や組織の変革を伴うレベルの活動なのです。ただし、「事業や組織の変革」といっても、事業や組織によって現在の状況も様々ですし、変革の程度も当然異なることになります。そのため、何をどこまでやればDXなのかという明確な定義を求めるよりも、自社の状況を見て何をゴールとするか考える方が有意義でしょう。
DXのゴールについて考える際の参考までに、Googleにはイノベーションを促進するカルチャーの1つに「10 倍のスケールで考える」、すなわち「10X」という考え方があります。自社でデジタルテクノロジーを活用した変革を検討する際にも、部分的な改善ではなく事業や組織を10倍変えるようなスケール感でゴールを設定してみてはいかがでしょうか。
DXのゴールについてはもう1つ、多くの専門家が、デジタル技術の導入や業務改革だけでなく、データを中心とした新しい価値創出の実現が重要と指摘します。なぜなら、データは現代のビジネスにおける最も重要な資産とも称され、それを適切に利用することで競争力を高め、新たな事業(ビジネスモデルやサービス等)を生み出すことができるからです。
特に国際物流領域においては、国境を越えた貨物の輸送や通関などの複雑なプロセスが絡み合っています。これらのプロセスに関連するデータを適切に収集、分析、活用しようとしているのが例えばFlexportやShippio等の所謂「デジタルフォワーダー」と呼ばれる新興企業ですし、その他にデータ自体を提供するようなサービスも生み出すことが可能かもしれません。
つまり、DXの真の目的は、単に技術やツールの導入に止まらず、データを核とした組織全体の変革と、そのデータを基にした新しい価値創出にあるのです。このように考えると、DXの究極の目的はデータ活用と言ってもよいのではないでしょうか。
データ活用のステップは「KKD(勘・経験・度胸 ※4)→可視化→分析・予測→…」となりますが、DXがTransformationであったことを思い出すと、個人や小さなチームの単位に閉じた活動ではなく、組織全体に広がっていく活動となるはずです。従って、個人や小さなチームでのデータ活用から、他部署や社外ともデータ基点での会話・意思決定が定着していく、以下のようにDXの全体像を捉えることができるでしょう。
ここまで見てきたように、国際物流DXの最初のステップは、アナログなままKKDによって動かされる現場を可視化(データ化)することから始まります。つまり、可視化が最初のステップとなるわけです。
なぜ可視化が重要なのでしょうか。 それは可視化によって現状把握や改善度合の定量化が可能となるからです。身近な例で考えてみると、例えば体重を減らしたい場合には、みなさん定期的に体重を測ることでしょう。
同様に国際物流においても、例えばリードタイムや遅延日数等のデータを可視化することによって現状把握や予実分析が可能になり、自社国際物流・サプライチェーンの目指す姿から逆算して「ボトルネックを特定し適切な改善施策を打つ」「改善の進捗度会度合を管理する」等のアクションを取ることができるようになります。
国際物流が担当者のKKD(勘・経験・度胸)によって動いていると揶揄されることが多い領域であることを考えても、アナログでKKDに頼った国際物流を可視化し、データに基づいて現状把握、議論ができるようになれば、それは効率化やDXを進めるための大きな第一歩となります。
最後に、国際物流のDXや可視化に「なぜ今取り組むべきなのか」という点に少し触れたいと思います。
まず国際物流の観点では、コロナ禍の危機的状況からは回復しつつありますが、ロシアのウクライナ侵攻や米中対立等の国際情勢、港湾等へのサイバー攻撃の増加、不定期ですが度々起こる船舶の事故等、所謂VUCA(※5)の時代と呼ばれる状況は今後も続くでしょう。
そのような環境のなかで、変化を予測して事前に動くことができればベストですが、予測まではできなくとも変化が起こった際にすぐ察知し対応できるかどうかは企業の競争力に直結します。可視化は「コロナ禍の混乱が収まったから不要」ということではないのです。
逆に言えば、コロナ禍においても国際物流のデータ化・可視化を進めていた企業は、当然本船遅延や抜港等影響を避けられない部分はあれど、海上輸送のリードタイムや遅延日数の変化を早期に捉え、「在庫担当や出荷担当に情報共有し在庫影響を軽減する」、「営業や顧客に情報共有し顧客満足度維持を図る」等の対応を取ることによって混乱の影響を軽減することができていました。
コロナ後の現在も、データ化・可視化に基づきより高度なDXを進めることで、それらの企業はますますサプライチェーンを強化し競争力を増していくことでしょう。したがって、まだ可視化できていないのであれば早期のアクションが必要でしょう。
もう1つDXの観点では、貿易書類のデジタル化率の低さには冒頭触れましたが、別のデータで、日本の物流企業においては社内にデータサイエンティストが存在する割合が4.5%(※6)という数字もあります。つまり国際物流におけるデータ活用という点においては、多くの日本企業がまだ取り組めておらず、先行してデータ活用、DXを進めることによって競争力を上げることができると考えられます。
ChatGPT等、AI関連のニュースを聞かない日がないほどAI周辺は盛り上がっていますが、テクノロジーの進歩は急速であり、テクノロジーを活用してやれることは今後もますます広がっていきます。過去に「それが実現できたら凄いのはわかるけど難しいんだよね」と諦めたことが、既に実現可能になっているかもしれません。
言い方を換えれば、そのように過去解決を諦めてしまった大きな課題に再チャレンジできるチャンスが来ている、そういう可能性に満ちた稀有な時代に生きていると考えることもできます。
テクノロジーを活用して一緒に国際物流を変えていきましょう!
今回は「そもそも国際物流DXって何?なぜ今注目すべきなの?」という観点で全体感を書きましたが、次回以降より各論で深い話にも触れていきたいと思います。
※1 貨物の位置や到着日の追跡・監視 ※2 Bill of Lading。船荷証券。貿易における船積書類の1つで、荷送り人と船会社が運送契約を結んだことを証明する証拠書類 ※3 出典:DCSA、2022(https://dcsa.org/newsroom/resources/beta-releases-of-standards-for-the-booking-process-1-0-and-the-bill-of-lading-2-0/) ※4 勘・経験・度胸の頭文字を取ってできた言葉で、トラブルが起きた際には長年の経験と勘により打開策を見つけ、度胸によって施策を実行すること。KKDで動く現場はアナログな事が多いため、アナログな現場の代名詞のように使われることも多い ※5 Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)という4つの単語の頭文字をとった言葉で、目まぐるしく変転する予測困難な状況を意味する ※6 出典:データサイエンティスト協会、2022(https://www.datascientist.or.jp/dssjournal/2023/10/17/dodv47/)データは日本の「運輸・物流・海運」業におけるデータサイエンティストの存在率であり国際物流に絞ったデータではないが、似た状況と考えられる。また、多くの場合データ活用、DX推進にはデータサイエンティストが必要であることから、その存在率の低さはデータ活用、DXへの取り組みが進んでいない日本企業の多さの現れであると考えられる。
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