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「2024年問題」物流企業の声を聴く─適切な賃金でドライバーをやりたい仕事に

2024年問題

2024年4月から始まる、自動車運転業務における時間外労働時間の上限規制に端を発する物流の「2024年問題」。物流や自動車運転業務に関わる企業が、この問題をどのように捉えているのか。ドライバー派遣と自社での運送を手掛ける株式会社プラウドの石山光博社長に話を聞きました。

プラウド石山光博氏
石山光博社長
大手宅配企業などを経て2000年に(株)プラウドを創業、ロジスティクス経営士

――プラウドが手掛ける仕事はどのようなものですか。

石山光博社氏(以下、石山) プラウドはドライバー派遣と自社運送部門での貨物運送事業を行っています。ドライバー派遣は、引き合いのあった仕事をホームページに掲載し、登録ドライバーや新規応募者とマッチングをします。ドライバー派遣では人の送迎まで含めた幅広い仕事を仲介します。運送部門では郵便関係の仕事や飲食店への配送業務などを手掛けています。

ドライバー派遣では、社員が引き合いのあった仕事の現場に赴き、実際に業務を行うか綿密なヒアリングをするのが特徴です。仕事の手触りを分かったうえで賃金を決めて、応募者と面接を行います。その仕事をいくらの賃金ならやりたいと思えるのか、という価値観に基づく値付けが強みです。これにより、働く人の要望と仕事のミスマッチを防ぎます。

ドライバー派遣は、解禁がされた2000年から本格的に事業を行ってきました。ドライバー派遣の仕事はいくらにしようか、というところから始まっています。それ以前の派遣といえばオフィスワーカーが中心でしたから、その人たちより良い賃金と決めて始めたのです。それ以来、適切な条件でドライバーをマッチングすることで業績を伸ばしてきました。

――物流の「2024年問題」で受ける影響はありますか。

石山 ドライバー派遣の仕事は、顧客と事前に条件をきちんと詰めて、残業そのものがないようになっているため影響がありません。ただ、ドライバーになりたいという人はそんなに多くありません。2t車以上の仕事は取りにいこうと思えばいくらでもありますが、ドライバーが増えなければ仕事を受けるわけにはいきません。

ドライバーの応募者の年齢を見ると、会社が始まった頃に応募が一番多かったのは40代の方々でした。今はもう50代が一番多く、続いて60代です。20代、30代は希少な存在となっています。若年層が少ないのは、免許制度の変更の影響が大きいと思います。

自社の運送部門は影響があります。過去の実績では残業月80時間の平均はクリアしています。しかし、社員の勤務日数を1日から2日ほど減らさなければならないケースがあります。昨年度までは新型コロナウイルスの影響でドライバーの発熱時の対応も関係しました。

自社の物流はドライバー派遣と比べると、しょうがない、しょうがないと先送りになってしまうことがありました。2024年4月からの基準には、あと1歩のところなので、出勤日数を減らすようにすれば、だいたいの数字はクリアできます。

一方で、稼ぎたいから、必要だからたくさん働こうという人もいると思います。今までは金額を量で埋めていたわけですが、それが駄目だというのが2024年問題です。労働環境を整えた結果、働きたい人の給与が減るようになってしまえば、ケアを考えなければなりません。

――物流の「2024年問題」にどのような対応を進めていますか。

石山 労働市場の変化への対応、人材調達力向上などを目的に、昨年度からすべてのお客様に値上げの申し入れをしていきました。去年の5月くらいはまだ弱気でしたが、今はすごく追い風です。ドライバー派遣の事業では基準時給を約15%~20%見直しました。それでも引き合いがきます。

これまで、自分の手の離れたところでは、ドライバーがやりたいと思える賃金を、という理屈が崩れてしまうこともありました。競合があるみたいなことを考えてしまうんですね。そういったことも踏まえて、条件面まで含めて見直しを行いました。

また、稼働の数値は1日ごとにすべて管理をしています。1日の売上、労賃の比率、油代、外注費用、稼働人員、販管費など、すべての数字を把握したうえでシミュレーションをします。ちゃんと計算をすれば数字は嘘をつかないから、ちゃんとした数字がでてきます。

だから、仕事を精査して適切な値段を設定し、見合わなければ仕事を選ぶこともできます。2024年問題に限りませんが、どれだけ数字で把握して管理できるのかが重要です。

――物流の「2024年問題」をどのように捉えていますか。

石山 2024年問題は定義をしっかりしないと駄目だと考えています。物流に関わる立場で何が問題なのかが違います。2024年問題をきっかけに、荷待ち時間を減らしたり、附帯作業を見直したりと、物流の効率化を進めるのはとてもよいことです。できること、やれるかもしれないことだから努力をするのがいいでしょう。

ただ、根本原因は違うのではないかと。ドライバーになりたがる人が増えない。その原因の一つはドライバーの給与です。極端なことを言ったら1.5倍の給与を払えばよい。しかし、物流企業が荷主からいただいている運賃では多くの会社がもたないでしょう。

それでも、仕事に見合う適切な給与でドライバーを増やしていかなければなりません。そもそも運送の仕事をやりたくないと思われてしまうのが問題です。綺麗でも格好よくもなくて、儲からないのならいいところがない。それに尽きます。

適切な給与で募集をすればドライバーが集まるのは、自社のドライバー派遣の事業で証明されています。ただ、世の中ではそれが簡単には実現できない。適正な物流費を払おうという人が大半なのでしょうが、一部では物流費は叩けばよいという動きはありました。2024年問題をきっかけに、物流のお金の流れの構造が変わることを期待したいです。

――今後、物流を維持していくには何が必要だと思いますか。

石山 物流も実際は一括りにできるわけではなく、運ぶものや場所で異なるものです。最低でも3~4つには分かれると思います。だから、2024年問題と騒がれるなかでも、気にしない会社もきっとあるでしょう。それぞれが2024年問題を定義して、やるべきことを一つ一つきめ細かく見ていくことが必要です。

また、物流は将来的には自動化といった新技術で、形そのものが変わっていくでしょう。ただし、2024年問題に対して短期的には効果が期待できないので、それには別の取り組みをする必要があります。

2024年問題はひとつのきっかけで、ドライバーになりたがる人を増やしていかなければなりません。最終的には物流の仕事に対して、多くの人がやりたいと思える適切な賃金を実現していく必要があります。今後の動きを期待しつつ、取り組んでいきたいと思います。

(インタビュー・書き手 日本ロジスティクスシステム協会 坂口 陽)

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