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~執筆者紹介~ フロンティア・マネジメント株式会社 ファイナンシャル・アドバイザリー部門 ファイナンシャル・アドバイザリー第2部 シニア・ディレクター 菅谷 貴志 2005年に株式会社レコフに入社。アドバイザリーグループにてエグゼキューション業務を担当後、2009年7月より営業に異動。2017年1月よりフロンティア・マネジメント株式会社に入社。 10年以上M&A業務に従事し、主に物流業やIT関係の企業を担当。 物流業界に関する代表的な案件は、上場総合物流会社による物流子会社の買収、上場3PL会社による化学品倉庫会社の買収、上場特別積合せ貨物運送会社による冷蔵倉庫会社の買収、上場総合物流会社によるプラントエンジニアリング会社の買収など。 上場企業案件から、未上場オーナー案件まで幅広く案件へのアドバイザリー経験を有す。
日本企業がかかわるM&Aの件数が増加の一途をたどっている。一度ピークを迎えた2007年に2,775件を記録したものの、リーマンショックで一旦は、2011年に1,687件まで減少をした。しかしその後は増加の一途であり、2019年はついに4,000件を突破した。 なぜ、日本企業のM&Aが増えているのか。日本は現在、GDP成長率を見ると1%成長をするかしないかという水準になっている。上場企業を中心に、売上と利益の成長を求められる中では、GDP成長率1%の時代では、自主成長だけでは成長に限界がある。そのために、他社の売上をM&Aで獲得することで、企業成長を図る経営戦略を取る企業が増えるとともに、一般化している。 また最近では、単に売上ではなく、売上を作るもしくは支えるための経営資源の獲得を企図したM&Aも増えている。有資格者を中心に、企業が抱える労働者(=物流会社であればドライバーなど)も、既存企業が有する許認可なども立派な経営資源であり、M&Aを活用すれば、採用や新規取得が難しい経営資源も一気に獲得可能である。 まさに巷で言われるように、M&Aで時間を買うことも可能になり、この時間もまた企業の生き残りにとって重要な経営資源となっているからこそ、M&Aが経営戦略のソリューションとなっていると言える。
M&Aは、分解をすると経営戦略上の行為と財務上の行為に分けることができる。経営戦略上の行為とは、買手の立場から見れば、自社と異なる事業分野の獲得、経営資源の獲得行為であり、売手であれば、特定の事業分野からの撤退となるアクションとなる。 財務上の行為としては、限られた資金を特定の領域に投資することであり、売手の立場からは資金の回収行為となる。 この経営戦略上の行為と財務上の行為の両方に責任を持ち、意思決定できるのは企業のトップに他ならない。もしくは大企業の場合、そのトップを補佐する経営企画を管掌する役員なども該当する。加えて未上場企業の場合、企業トップはその会社の大株主であることも多い。それゆえ、私たちも通常は企業トップやトップに準ずる経営企画管掌役員を訪問して、M&Aは提案する。
M&Aは、買手となる企業側にも売手となる企業側にも、M&Aを実施する背景に「経営上の危機」に基づいて、実施することが多い。 買手側の危機とは、現状順調な経営をしていても、今の経営体制、ビジネスモデルがいつまでも継続していかないという危機感である。経営が順調な企業の経営者ほど、いつまでも今の成功が続くとは思っていない方が多く、次の5年、10年の経営の礎を築くために、投資を実施する。その投資先が設備投資の場合もあれば、M&Aになる場合もある。 一方の売手の危機には、経営者に関する危機と経営に関する危機がある。経営者に関する危機の一つは、今世の中で話題になっている事業承継の問題である。事業承継には、実は二つの承継問題が内包している。一つは経営の承継、もう一つは資本の承継である。しっかりとした番頭がいれば経営の承継はできるが、資本の承継は金額の問題から難しい場合が多い。これは特にいい会社であればあるほど起こりやすい。また、稀ではあるが、経営者が健康を害したりする場合なども、経営者の危機に該当する。 経営に関する危機とは、一番わかりやすいのは、業績が不振で財務的に会社が危機を迎えている場合を指す。優良な企業ほど、次の世代に良好な状態で企業経営を引き継げるように、常に危機感を持っている。その危機感が次なるM&Aを常に求めている。
買手がM&Aを行うことにより得ようとするものは、買手によってさまざまである。対象会社の売上を得る、顧客を得る、先にも書いたように経営資源を得る(物流会社に多いのは、トラック、倉庫、ドライバーや物流ネットワークとしての拠点を得る)という動機もある。プレーヤーの数が少ない業界や地域の場合には、独占禁止法の壁があるものの、競合にM&Aを実施することで、競争の除去を図る場合もある。
経営のかじ取りや次の世代にどのように経営を承継していくかに悩む経営者が、企業の売却により、その解決を図る。昔は企業を売却するなんて、と言われることを恐れ、でも次の経営をどうしていけばいいのか、という二つの思いに板挟みになり、悩む経営者も多かった。しかし、現在ではM&A件数が示すように、M&A自体は一般化した。廃業よりも株主が変わっても企業が継続するほうが、地域や社会に与える影響は少ない。 また、自社の成長のために、大企業の傘下に入り、大企業の力を借りながら、さらなる成長を目指す企業も増えている。売り手側のトップのM&Aの戦略も明確になっており、企業売却には、同じ企業のトップのほうが肯定的にみられることも多くなった。 一昔前のM&Aのイメージは、買収されたら、バラバラにされるのではないかという声も本当にあった。しかし、バラバラにするのにも買い手側には非常に大きな負担がかかる。一般的には、再生企業を除く通常のM&Aでは、株式譲渡で株主を変えるだけで、経営体制は大きく変更しないのが、日本のM&Aである。
物流業界のM&Aは数を増やしており、公表されている統計上でも毎年100件を超える件数が計上されるようになっている。物流業界においては、先に述べた通り、必要となるドライバーの数が減少傾向をたどっている。また国内での荷物の総量が減少傾向となっている。加えて、コンプライアンスへの対応が必要に迫られつつあり、自社だけで対応するのが中小企業を中心に限界に近付きつつある。 国内では、荷物、ドライバーの両方が減りつつあり、売上の維持にはストレートに他社の売上を獲得できるM&Aは非常に有効になっている。また物流会社と言っても、手掛ける業務は非常に幅広い。運送、倉庫、通関・フォワーダーなど物流の機能は多岐にわたり、それぞれに専門性がある。そのため、運送会社が倉庫会社を買収するように、他の機能の専門性を獲得する場合にも、M&Aは非常に有効である。 加えて、国内にとどまってM&Aを実施していても、縮小傾向にある国内物流市場の中だけでビジネスを展開していると、自社のビジネスもいずれ縮小しうる危機感を持っている企業は、大企業にこそ多い。そのため上場企業を中心に海外展開も進めており、その海外進出のために、M&Aを活用する企業も増加傾向にある。現在のトレンドは、日本企業が東南アジアの物流企業の買収もしくは出資をする事例が増えている。 さらに最近では物流業界内にとどまらず、M&Aで業容を拡大しようとする企業も増加している。物流に付随するシステム会社を買収するような事例はもちろんのこと、卸会社や人材サービス会社などを買収し、企業の業容の拡大を図る企業も増えている。このようなM&Aは地方のオーナー企業にこそ、有効な手法となっている。
これまで記載してきたとおり、日本国内のM&A件数は引き続き増加傾向にある。M&Aは買手だけいても成り立たないので、売手も同数存在している。事業承継の解決から、将来の成長戦略や事業戦略のためにグループ形成を図るなど、動機は様々だが、企業の課題解決のために、売手も買手も積極的に活用している。物流業界は、企業数が60,000社もあり、この何年かで企業売却をしたオーナーも増え、また買い手側の企業規模も大きくすそ野を広げた。売手側にもM&Aでの企業売却の抵抗感がなくなりつつある今、買手側も積極的な投資意欲を持っている昨今、物流業界でもM&Aがさらに広がっていくのは間違いないだろう。
昨今、九州での物流ネットワーク強化や事業拡大のため、他の地域に本社を構える企業が九州の物流事業者を買収する事例が増えております。また後継者不足や過疎化・経済情勢の変化による荷物不足に悩み、事業承継を検討される物流事業者もいらっしゃいます。 本研究会では、コラムをご執筆いただいたフロンティア・マネジメント株式会社の菅谷氏をお招きして、最新のM&A戦略事例を踏まえながら、物流事業者が長く事業を続けて行くために必要な、経営戦略の立て方について説明をいただきます。研究会後には、経営者・役員同士のネットワークづくり、情報交換のための交流会も実施いたします。皆様のご参加をお待ちしております。
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