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JILS主催「大学生によるロジスティクス・SCM研究発表会」
ロジスティクス・SCMの分野は2024年問題をはじめとするさまざまな課題に直面しています。経済活動のインフラを担うトラックドライバー不足は、発送の翌日には荷物が届く生活にアラームを鳴らし、喫緊の課題として解決が求められています。加えて、ロジスティクス分野においてもSDGsの目標である持続的な社会に対する取り組みにも無縁ではいられません。これからのロジスティクス・ SCMの課題解決の糸口となるアイデアについて、「大学生によるロジスティクス・SCM研究発表会」をレポートします。
執筆:蜂巣 稔 物流ライター 外資系IT企業ならびに日本コカ・コーラで21年間SCMの職務に従事。日本コカ・コーラでは原料の供給計画、在庫最適化、購買調達、輸送・倉庫管理などSCMに精通する。通関士、JILSグリーンロジスティクス管理士。葉山ウインズ(同)代表社員
「大学生によるロジスティクス・SCM研究発表会」風景
2023年12月16日(土)F-LINE株式会社 川崎物流センターにおいて、公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会(以下JILS)の主催により「大学生によるロジスティクス・SCM研究発表会」が開催されました。
研究発表会のテーマは「SDGsに掲げられた17の目標のうち、ロジスティクスで解決できることとは?」。SDGsの17の目標があるなか、ロジスティクス分野におけるどのような取り組みがその目標達成に貢献できるのか。持続可能な社会の実現に向けてロジスティクスの視点から取り組むべきアイデアについて発表を行い、企業との交流を深めることが今回のねらいです。
参加したのは4大学5チーム。東京海洋大学、東京都市大学、東京理科大学、流通経済大学(50音順)で、流通経済大学からは2チームが発表しました。発表会には会場参加者のみならず、オンラインのZoomウェビナーで62名が参加をしました。
参加大学とチーム名(以下発表順) 1.東京海洋大学 海洋工学部 流通情報工学科 「Visualization for Logistics」 2.流通経済大学 流通情報学部 流通情報学科「RKU4年」 3.東京理科大学 創域理工学部 経営システム工学科「チームばなな」 4.流通経済大学 流通情報学部 流通情報学科「味水ゼミ3年チーム」 5.東京都市大学 環境学部 環境経営システム工学科「大久保研究室チーム」
また、本催しには、アサヒ飲料株式会社、味の素株式会社、F-LINE株式会社、食品ロジスティクス研究会(JILS)が協力をしています。
一般の学生にとって、ロジスティクスの分野は深く理解をする機会が少ない分野ともいえるのではないでしょうか。
JILSでは学生に向けて、社会や産業界におけるロジスティクス・物流の重要性、また仕事としての魅力を伝える活動を行っています。ロジスティクスの分野を支え、次世代を担う人材の裾野を広げることを目的に「ロジスティクス・物流研究プロジェクト」の活動に取り組んでいます。活動の1つとして、学生向けにロジスティクス・物流への認知向上や興味喚起を図るため、メディア「KEEP ON MOVING!」を運営。各種の情報発信を行っています。
「大学生によるロジスティクス・SCM研究発表会」はこうした活動の一環としてスタート。2023年は5回目の開催になりました。
F-LINE株式会社 川崎物流センター 内部光景
発表会が行われたのは、味の素株式会社 川崎事業所(工場)の敷地内にあるF-LINE株式会社 川崎物流センター。F-LINE株式会社は味の素株式会社・ハウスグループ食品本社株式会社・カゴメ株式会社・株式会社日清製粉ウェルナ・日清オイリオグループ株式会社の食品メーカー5社の出資によって誕生し、共同物流や先端物流技術の開発・活用に取り組む企業です。
はじめに会場提供企業でもあるF-LINE株式会社 専務取締役 松澤 新氏より挨拶があり、SDGsへの取り組みや学生への期待について話がありました。
F-LINE株式会社 専務取締役 松澤 新氏の挨拶
続いて川崎物流センター 吉野センター長より施設紹介が行われ、多様なマテハンが実装され高度に自動化・省人化がされた物流センターについて、理解を深めることができました。
F-LINE株式会社 川崎物流センター 吉野センター長による説明
その後、施設見学会が行われました。商品のカートンが自動倉庫から出庫され、ロボットによって自動的にパレタイズされていく光景に、学生のみなさんは目を見張っていました。
F-LINE株式会社 川崎物流センターの見学光景
施設見学後、発表会が行われました。事前講演やフォローアップを担当したアサヒ飲料株式会社 SCM本部 SCM企画部長 田中丸 善平氏、味の素株式会社 食品事業本部 物流企画部長 森 正子氏、JILS総合研究所 所長の北條 英氏より、発表会に期待されることなどについて話がありました。
画像左より森 正子氏、田中丸 善平氏、北條 英氏
参加した大学とチーム名(以下発表順) 1.東京海洋大学 海洋工学部 流通情報工学科 「Visualization for Logistics」 2.流通経済大学 流通情報学部 流通情報学科「RKU4年」 3.東京理科大学 創域理工学部 経営システム工学科「チームばなな」 4.流通経済大学 流通情報学部 流通情報学科「味水ゼミ3年チーム」 5.東京都市大学 環境学部 環境経営システム学科「大久保研究室チーム」
東京海洋大学「Visualization for Logistics」チームによる発表
2022年に引き続き参加した4人のチームはSDGsの課題のうち、8番「働がいも経済成長も」、3番「すべての人に健康と福祉を」、6番「安全な水とトイレを世界中に」5番「ジェンダー平等を実現しよう」にアプローチしました。トラックドライバーは多重下請け構造による長時間労働・低賃金・トイレなど健康に関わる不十分な環境、若手や女性が働きにくいといった課題を抱えています。こうした課題解決のため、運送会社とドライバーを求車求貨マッチングアプリ上で直接マッチングすることで、大規模運送会社が介在する多重下請構造を改善しようといった提案です。ドライバーの健康状況やトイレの位置などを可視化するシステムの導入によって、性別や年齢を問わず働きがいのある労働環境作りを目指す発表は、トラックドライバーの目線で女性にも優しいアイデアにあふれていました。加えて、輸送の確実性などの懸案についても、代替ドライバーの準備などしっかりと考慮がされている発表でした。
流通経済大学「RKU4年」による発表
流通経済大学の「RKU4年」の3人は、SDGsに掲げられた17の目標すべてを解決することが、完遂すべき本来のSDGsの最終目標ではないかとの視点で発表を行いました。食料品製造の上場企業のリストから研究対象企業を選定し、デスクトップとヒアリングによってSDGsに対する取組の現状分析を行いました。これにより、環境関係の目標は表明されている傾向が高いながら、貧困や平和と公正に関しては低い傾向が見られたことを明らかにしました。6番の「水とトイレに関する取組」を実施している企業は約70%に達する一方で、1番の「貧困をなくそう」と16番の「平和と公正をすべての人に」に関しては約7%であることを明示しました。また低い傾向の2つの目標に対して取組を行なっている企業に注目し、ロジスティクスを通じた課題解決について明瞭にまとめあげた点がパワフルな発表でした。会場からは食品の品質に関してISO22000に関する質問やエシカル商品に関する活発な質問も相次ぎ、発表内容に対する関心の高さを感じました。
東京理科大学 「チームばなな」による発表
4人メンバーのチームが着目したのはSDGsの7番の「エネルギーをみんなに。そしてクリーンに」、9番「産業と技術革新の基盤を作ろう」、13番「気候変動に具体的な対策を」、そして17番「パートナーシップで目標を達成しよう」の4つです。本チームはトラック輸送におけるCO2削減は、従来のような単独企業の努力の累積では困難との前提を立てました。新たな課題解決の方法は「共同配送の実施とCO2排出量を把握することの掛け算」との仮説によって、共同配送のCO2排出量の可視化を行う数理モデルを発表しました。単独配送と共同配送を比較し、輸送距離を最小化するシミュレーションの結果、共同配送は単独配送に対して25%程度のCO2排出量削減を見込めることを導き出しました。会場やオンラインの参加者からも興味を引き、改良トンキロ法を選んだ理由などについて鋭い質問によって会場が沸きました。
流通経済大学「味水ゼミ3年チーム」による発表
3年生4名からなるチームが選んだ目標はSDGsの7番「エネルギーをみんなに。そしてクリーンに」です。このチームはインパクトのあるトラックのアイデアを発表しました。現状のEVトラックは充電や走行距離の不安、バッテリーが増加することによって積載量が制限されるデメリットがあります。こうした点を解決するためには、自己給電トラックにパラダイムシフトすべきだと訴えました。具体的にはソーラーパネルを利用した太陽光給電トラック、風力給電トラック、地熱(摩擦)給電トラックのアイデアが提示されました。さらに、これらの方法を組み合わせたアイデアが提案されました。キャブや荷台のルーフに数多くの風車を並べたトラックの外観は大変ユニークで、注目が集まりました。「屋根のプロペラがトンネルに引っかかるのではないか」との質問に、会場に笑いがこぼれる一面もありました。コンパクトな風力発電装置の提案や、SDGsの認知向上のためにこうしたトラックを活用するアイデアも出され、会場はおおいに盛り上がりました。
東京都市大学 「大久保研究室チーム」による発表
東京都市大学「大久保研究室チーム」の4名からはSDGsの8番「働きがいも経済成長も」と9番「産業と技術革新の基盤をつくろう」にフォーカスした発表がされました。このチームは「効率化を目指した共同配送の普及拡大」をテーマに、少ないドライバーで総配送回数を減らすアイデアを提案しました。すでに共同配送を行なっている企業の例を紹介しながら共同配送が進まない原因にも着目し、課題解決の方法として共同配送のマッチングサービスを提案しました。共同配送によって積載率が向上し改善されたプロセスから生まれた原資から、ドライバーにインセンティブを支払うことは8番の「働きがいも経済成長も」にもつながるのではないかと説明しました。また、企業が集積する川崎市内や佐賀県鳥栖周辺での具体的な共同配送の可能性が提示されました。参加者からは、マッチングサービスや積載率に関して多くの質問があり、共同物流に対する関心の高さを感じました。
各チームの発表終了後、味の素株式会社 森 正子氏、アサヒ飲料株式会社 田中丸 善平氏、JILS 北條 英氏から講評がありました。
味の素株式会社 森氏による講評
森様は「いずれのチームも発想とプレゼン資料がよかった。多くの企業で人やものを運ぶことは存在する。就職してもロジスティクスは生活に密着していることを忘れないで欲しい」とコメント。各チームに対しては「ロジスティクスの分野は女性が少ないため女性視点は大切であること」「SDGsには企業と政府、消費者の連携が大切」「現場は目先の対応に追われがちのため数式とシミュレーションの大切さに気づきがあった」「豊かな想像力、発想力で運転したいトラックを作ってみたい」「現場のドライバーが考え、ドライバーに還元される仕組みの視点は大切」といったフィードバックをしました。
アサヒ飲料株式会社 田中丸氏による講評
田中丸氏は総論として「どの研究も気づきが多い発表だった。物流はこれから大変な時代を迎えるが、取り組んだ分の成果はでるので、学生の皆さんにはこれからの活躍を期待したい」と話しました。各チームに対する各論は「ドライバーに寄り添うマッチングサービスと女性らしい視点がよい」「SDGsの貧困や平和と公正に着目した点に気づきを得たこと」「共同配送によるCO2削減は仮説検証を立てた素晴らしい発表」「自己給電トラックは斬新なアイデア、できる技術も含めてとことんやって欲しい」「共同配送の難しさをよく分析しながら、ドライバー視点のマッチングサービスのアイデアが優れていた」といった話がありました。
JILS総合研究所 北條氏による講評
北條氏からは「マッチングシステムが注目されているが、プラットフォーマーも含めてこの分野は今後の注目エリア」とのコメントがありました。各チームに対しては「厳しい労働環境におかれているドライバーの多重下請け構造や健康面に注目した点」「フェアトレードや人権の視点はこれからも必要。特に人権に関わる問題は根源的」「共同配送は実データに基づいたシミュレーションが可能ではないか」「自己給電トラックのアイデアは一番沸かしてくれた発想」「共同配送では配送先の名寄せ、データや業務プロセスの標準化が課題となっている。阻害要因については研究を続けて欲しい」といった話をしました。
研究発表会後には交流会が行われました。食品ロジスティクス研究会の企業から提供された飲料などを手にした学生のみなさんが垣根を越えたコミュニケーションを楽しみ、盛況のうちに閉会となりました。
今回の研究発表会では、学生のみなさんのSDGsに対する関心の高さと課題解決のアイデアの豊かさに感銘を受けました。物流の2024年問題が一般化し、物流に対する世の中の注目度も高まっています。スマホからワンクリックで商品を購入することが当たり前の世代にとって、ロジスティクス・SCMの課題に接することは、今まで他人事であった物流が自分事として認識されるのではないでしょうか。一方でロジスティクス・SCMに深く関心をもつ学生と企業との接点は、少子高齢化・人口減が進む我が国の将来的な経済インフラを維持するための布石ともなるのではないでしょうか。
参考:JILS学生向け情報サイト「KEEP ON MOVING」
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