JILSニュース
2025.05.27 国際物流強靭化

フォワーダーのDX事例から考察する荷主のDXニーズ~株式会社日新 Forward ONEの取り組み/連載コラム

前回から「国際物流DXの最前線」をテーマに、今取り組むべきグローバルサプライチェーン改革について計3回で連載しています。

今回はフォワーダーのDX事例をもとに荷主のDXニーズを考察するという趣旨のもと、株式会社日新のデジタルフォワーディングサービスForward ONEを担当されている同社DX推進部の中川氏にお話を伺いました。

お話の中では、デジタルフォワーディングサービスの提供に苦戦するフォワーダーが少なくない中で、同社がどのようにサービスローンチからスケールを実現しているのか、社内での案件の進め方の工夫などについても触れていただき、荷主のみなさまだけでなくフォワーダーのみなさまにも興味深い内容となっています。

【ゲスト】
株式会社日新 DX推進部 Forward ONE推進課 課長 開発責任者 中川 穣 氏

2009年 株式会社日新入社 営業部 所属
2021年 DX推進部 所属
DX推進部の存在意義は“破壊と創造”、部のミッションは“日新の未来の競争優位性を創り出す”こと(部長 田原 雄介)

【執筆】
ハービット株式会社 代表取締役 仲田 紘司 氏

東京大学および同大学院卒業後、日本郵船に入社。コンテナ船の営業として輸出入・三国間等数十社の荷主・フォワーダーを担当。既存産業のデジタル化への課題感からアクセンチュアに入社し、DX案件を中心に業界横断で多数の大手企業に対するコンサルティングを経験。プラグ・アンド・プレイ・ジャパンにて大手企業のオープンイノベーション支援を経て、現職。JILS国際物流強靭化推進研究会メンバー

第1回 コロナを経た今、DXの成功に必要な取り組みとは?
第2回 フォワーダーのDX事例から考察する荷主のDXニーズ<今回>

仲田紘司氏(以下、仲田) 日新さんのForward ONEの取り組み背景とこれまでの取り組みについて教えてください。

中川穣氏(以下、中川) はい。Forward ONEは2020年から構想が始まった事業です。2020年後半のちょうどコロナ禍でした。諸外国でデジタルフォワーディングサービスが勃興し始めてきた中で、弊社のトップが同じようなことができないかと発言したことがきっかけだったと記憶してます。

2020年から21年にかけては、どのようなサービスがプロトタイプとして提供できるかというところに取り組んで、最初は借り物のシステムを利用して2021年に小さく始めました。2021年7月にプロトタイプ、ベータ版という形で打ち上げたというのが一つ目ですね。

ただ借り物のシステムでしたので、我々が提供したいようなUI/UXがなかなか表現できなかったり、システムの雰囲気がちょっと目指すものと異なる感じだったりしたので、これは芳しくないんじゃないかというのはもう7月の段階で既に社内でも共通認識がありました。

あとは借り物のシステムの中に弊社のスケジュールやレート、あるいは弊社の顧客情報が蓄積されていくのは情報リスクがあるのではないかというシステム部から助言もあったので、2021年の秋頃には早々に自社開発版に着手し始めたという時系列ですね。その後2021年の冬から2022年いっぱいは、一次開発期間に当てたという流れです。

正式にリニューアルという形でローンチさせていただいたのが2023年4月です。そこから今2年経とうとしていて、昨年2024年6月には二次開発機能という形で案件管理トラッキング機能をリリースして、ちょうどプロダクトサービスのフェーズとしては今スケール期に入ってきたんじゃないかなという実感があります。案件管理トラッキング機能をリリースしたことで既存のお客様がドサッとさらに流入してきてくださるようになり、そこから一気に利用が広がっていきました。

外的な状況で言うと、率直に申し上げると21年、22年というのはお客様の反応は芳しくなかったんです。不要と言われることが多かったです。そういうのは別にまだいらないな、みたいな。まだいらないとかっていう趣旨でもなかったですね、ちょっとよくわからないですねみたいな。あとは今までメール1本電話1本で複数のフォワーダーさんを差配していたのに「私が操作するということですか?」という声もありましたね。

仲田 はいはい。

中川 「いやそうですよねーやめときましょうか笑」みたいなことが2021年には多かったので、本当に日本でこういうものが普及するのかなという不安感も正直ありました。ただ2023年の春頃から、お客様からの問い合わせが増えたという実感があります。同じ頃にベンチャー企業のShippioさんやWillboxさん、Standageさんなど国際物流系のベンチャー企業が風穴を開け始めたということと、やっぱり人材の流動性や人手不足等の問題。

あとはコロナが一服して、次に不測の事態が起きたときにも持続可能な業務にするために今から考えた方がいいのではという観点を持たれたお客様が多かったということで、そういう流れになっていったと思います。たまたまそのタイミングとForward ONEをリニューアルしたタイミングが重なったというのが外部環境の変化ですね。

日新 中川 穣 氏

仲田 ありがとうございます。借り物とおっしゃっていた外部システムを使われていたときは、動静可視化みたいな機能もあったんですか。

中川 なかったですね。概算見積りの算出という機能しかなかったんですよ。それだけだと非常に弱かったんですよね。あとは使い勝手が非常に芳しくなかったので、メールや電話で日新さんに見積り依頼する方がラクだよというコメントが圧倒的に多く、どうしようかなという感じでした笑。

仲田 なるほど。その21年、22年頃と言うと結構コロナで物流が混乱していたので、例えば動静可視化のニーズもひょっとしたら23年より高かったのかなと思うところもありますが…。

中川 ありました。すごくありましたね。

仲田 その頃に動静可視化機能があったら、もっと顧客の反応も違ったんでしょうかね。

中川 おっしゃる通りですね。21年、22年にもしそういう機能があれば、もっと早い段階でスケールしていたと思います。弊社の当時の課題の一つとして、end-to-endおよびその本船動静の可視化を優れたUI/UXでまだお客様にご提供できていなかった。他方で従来型のメガフォワーダーはそういった部分がもうできていた。

仲田 そうですね。

中川 そこと既存の営業部は戦っているわけなので、既存の営業部からすると、そんな見積りツールじゃなくて今メガフォワーダーと戦えるツールをくれよという思いがあったと思うんですよ。それを提供できないもどかしさがあったので、ニーズや必要な武器がわかりながらそれを提供できないというのが2年ほど続いたという感じです。

仲田 はいはい…なるほどですね。ありがとうございます。先ほどおっしゃっていた、はじめはメガフォワーダーさん等と比べるとまだアプリとしての機能が見積りしかなく比較対象に挙がらなかったという点について、結構いろんな機能も増えてきた今だとメガフォワーダーさんとの比較の文脈で何か荷主の声などってあったりしますか。

中川 そうですね。率直に言うと、あまり日本で従来型のフォワーダーのそういうツールと比較されることって多くないかもしれないですね。例えば振り返ってみると、去年1年間で従来型のフォワーダーさんは新規にデジタルフォワーディングをリリースしていないんです。私たちはそこに若干危機感を持っていて。いつまでたってもShippioさんか日新さんのForward ONEか、鴻池さんのKBXかみたいな、これでいいのかしらという。

仲田 はいはい、そうですね。

中川 ある方とお話したときにその通りだなと思ったのが、スケールしにくいですよねと、売上的にも。なるほどと。そういう観点で言うと国際物流の輸出入業務の効率化ツール、オンラインツールというのが出てきにくいのも何となく理解できる。そこに注力するくらいなら例えば倉庫を一つ建てるとか、そういうことの方が目に見えた投資と回収という観点でいいのではと。恐らく多くのフォワーダーさんは、そう考えられるのかなという気がしますね。

それでいうと我々は、3年後5年後、10年後にこういう事業をやってなかったことがすごくリスクになるのではという言い方をしていますね。やってなかったリスクというのは…実際この4年を振り返っても、今うちの営業は既存のお客様から「某企業のデジタルフォワーディングサービスを使おうと思っているんですけど、Forward ONEと何が違うんですかね」って結構日常的に言われるようになったんですよね。

これがまた1年後、2年後、5年後、さらにそういう世界観になるのであれば、未来から後ろを見たときにはやはりやり続けた方が、企業価値を高めたり未来の日新の競争力を創出したりという観点でやる意義があると私達は信じてやっています。振り返ると誰もいないのは若干不安にはなりますけど…日本というマーケットにおいて、この状況は大丈夫なのかしらと。他方海外では、こういうツールがないと入札に参加できないというようなことが起き始めている。

仲田 そうですね、確かにそこの違いはありますね。他社さんはデジタルフォワーディングというサービス自体をそんなに脅威と思われていないんですかね。

中川 それはあると思います。規模の経済で強みを持っているメガフォワーダーさんからすると。弊社は規模の経済で対抗することが難しい際にコアコンピタンス的に人の力・柔軟で親身な対応力を強みとして訴求するんですよね。でもそれって裏返すと、個人が何とか対応力を伸ばさざるを得なかった側面もあると思う。

もしかすると、他のメガフォワーダーさんはより組織的な営業活動ができているんじゃないかと。そうするとあまりこういうツールは必要ないと思われている節はあるかもしれないです。なのでそういったフォワーダーさんが必死にデジタルフォワーディングを訴求しないという点はあるかもしれないですし、組織の規模が大きいと社内にデジタルフォワーディングを展開しづらいという点もあるのかしらと思います。

じゃあこれから先の5年10年も同じ状態かというと私は絶対そうではないと思います。既に弊社も含めて同業他社さんも人材不足が深刻化しつつあるので、今までの営業活動や業務、まあ非生産的な業務ですね。例えばトラッキング。本船動線のトラッキングという非生産的な業務にスタッフがリソースを割けますかというと、もう絶対そうはならないですね。

そこをいかにこういうツールで効率化していき、営業が攻めに使える時間を捻出してあげてさらに武器としても使えるものを供給するという、私達DX推進部はそういう価値感を持っています。それが社内でも広まっていくんじゃないかという気がしています。

上層部の方からからするとたぶん何で今?となることが実際あると思うんですけど、最前線の我々からすると人材の流動性が高まる一方な中で、今まで通りじゃ回らないですよというのはひしひしと感じています。そこのギャップはちょっとあるかもしれないですね。日本ではそういうネガティブなインパクトを受けないと、もしかしたら進まないんじゃないかという気はします。

仲田 なるほど、でもすごいですね、ROIを定量的に示しにくい難しさがありつつも、やらないことがリスクだからやるという判断と、田原さんや中川さんもそうですしDX推進部の方々も社内折衝に注力される方というか、結構そういう人材を集めてるじゃないですか。それがキーになっているんですかね。

中川 かもしれないですね。

仲田 なるほど、ありがとうございます。ちょっと話を変えて、荷主さんの反応みたいなところでいくとどうですか?このあたりが特にニーズがあるとか、ご要望いただくとか、Forward ONEに対するどんな声が集まっているんでしょうか。

中川 そうですね。仲田さんが先ほどおっしゃったみたいに21年~23年頃は特にトラッキングがフォーカスされていた時代でもありました。今も引き続きニーズはありつつ、むしろ持っていないとマイナスみたいなものになりつつあるという感覚です。ビジビリティという入札要件があり、機能がないとマイナス評点になったりするので、それがフォワーダーとしての当たり前の付加価値になりつつあるというのがトラッキングやビジビリティですね。

具体的な使い方としては、輸出入業務のなかで1つ1つの輸送の進捗を見たり、大きく遅れている案件を把握するために活用頂いていたり、あるいは経路ごとのリードタイムが今どれくらいか、オリジナルからどれくらい遅れているか、といった形でデータを活用頂いていたりします。そういったデータ活用文脈でのご要望も頂きます。

今我々のForward ONEで特徴的な部分は、スカイスキャナーみたいなインターフェースで見積りがぱっと出る。実はこれはあまりないんです。他社様のデジタルフォワーディングで、本当に後ろにスケジュール等存在しているのかなという見積り結果が出るものはあるんですけど、我々はリアルなスケジュールと見積りを一緒に出している。トラッキングの機能を数ヶ月や半年使ってもらったお客様の中で、5社に1社ぐらいの割合でDXリーダーというか視座・アンテナが高い人がいて、この前工程をデジタルフォワーディングで担えないですかとおっしゃる方がいます。

私達はこういうお客様を絶対グリップしないといけないと思っています。「見積りから日新さんへのブッキングの意思表示までここでやって、Booking confirmationが自動で出たらそのままトラッキング画面に行くということですよね?」「その通りです」と。ここができて初めてデジタルフォワーディングと言えると考えていますので、お客様のニーズというご質問から若干逸れるかもしれませんが、前工程を使っていただける方が広がっていくと本当のデジタルフォワーディングにようやく辿り着いたと言えると考えて頑張っています。

仲田 確かにトラッキングの前工程の部分からすべてデジタルなインターフェースで、というユーザー体験って意外ですが実現できている企業はあまりまだないですよね。

中川 トラッキングは確かなニーズを確認できて利用も広がっているので、より付加価値を高めていく、品質を上げていくフェーズに入ってると思いますね。

左:ハービット:仲田 紘司 氏、右:日新 中川 穣 氏

仲田 今トラッキングより前工程の部分の機能という話もありましたけど、25年、26年というのはForward ONEはどういう形で力を入れていく、どんなところを目指していくみたいな観点で言うといかがでしょうか。

中川 25年は特定の海外現法を巻き込んでいって、end-to-endでサービスを提供しているお客様に、例えば日本とタイ、日本と香港、日本とアメリカみたいな形での両方でForward ONEを提供していくというのが一つです。もう一つは物流パートナーさんも巻き込んでいけるような機能をリリースする予定です。通関業者とフォワーダーが違うとか、通関業者と配送業者、倉庫業者が違うというのは国際物流あるあるなので、複数のプレイヤーがここで案件管理だったりコミュニケーションができるという機能をリリースすると。

仲田 なるほど。

中川 26年はさらに見積り機能の品質を上げていき、その前工程をさらに本格的に使っていただけるようにするというのと、あとは本当におもしろい機能を作ろうかなと思っています。これはAI的な部分ですね、AIエージェント的な。日新が持っている人のノウハウだったりナレッジだったりの強みをForward ONEの中で生成AIやスキルシェア・マッチングサービスみたいな形で利活用できるようなものをイメージしています。

かつ人の強みを損なわずに事業運営していくというのが一つのコンセプトなので、相反していますが温かいデジタルフォワーディングというか。やっぱり日本のこの業界では、人の頭の中や人の力で担っている領域が非常に大きいので、それに合った形を目指しています。

仲田 温かいデジタルフォワーディング、いいですね。ありがとうございます。最後に荷主さんへの期待などあればお願いします。

中川 そうですね、本気で今デジタルフォワーディングに取り組んでいますし、上流から下流まで作りきるので、期待して頂きたいです。オンライン化できる部分はForward ONE上でもできるようにしますし、ただそれによって弊社営業の親切さが損なわれるということではないですとお伝えしたいですね。

それよりも生産的でないところや非効率的なところ、マイナスをゼロにするところをまずやりきって、プラスを生み出す付加価値を26年ぐらいには作る予定があるので、そこを期待して頂いきたいです。

仲田 人がやっていた作業をシステムで自動化しますが結果的な提供価値はこれまでと同じです、ではなく、システムによる価値と、効率化によって人も違うことをやれるようになるのでより付加価値が高いサービスを提供できますと。

中川 その通りですね。そう信じています。

仲田 ありがとうございます。

今回の対談では、中川氏にデジタルフォワーディングサービスの取り組み背景から今後の機能開発まで、荷主の反応の変化等も含めてお話を伺いました。

デジタルフォワーディングが普及し始めている海外と異なり、日本の場合は加速する人口減少に後押しされる形で近い未来にデジタルフォワーディングの導入が進みそうだという観点は、荷主側でもまさに同様の課題から取り組みを始められている、もしくは検討を進められている企業が多いのではないでしょうか。

国際物流業務のデジタル化やDXを進めるにあたって、フォワーダーが提供するデジタルサービスをうまく利用していくのはスモールスタートという意味でもおすすめですし、自社主導でDXを推進する場合のフォワーダーの活用方法を検討するうえでも非常に有用です。

また、少なくないフォワーダーがデジタルフォワーディングの展開に苦戦されている中で日新はどのように案件を推進してきたかという話は、是非弊社noteと併せてご覧ください。
https://note.com/harbitt/n/nc7f27cfea364

最終回は、前回と今回の対談を踏まえた今取り組むべき国際物流DXについての考察を検討ポイントとともにお伝えする予定です。お楽しみに!