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第4回:実例!担当者が語る物流現場改善の勘どころ(後編)

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第4回 (2017/4/18掲載)

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~執筆者紹介~
株式会社カスミ ロジスティック本部 物流部 物流戦略担当マネジャー 齋藤 雅之
1997年 三共貨物自動車(株)入社
2008年 カスミ岩瀬流通センター センター長
2013年 (株)カスミへ転籍、カスミ物流体制構築プロジェクト副リーダー
2014年 カスミ物流改善プロジェクト事務局
2016年 カスミプロフィットセンタープロジェクト推進リーダー 現在に至る
JILS 物流現場改善推進委員会 委員、流通経済大学 ゲスト講師、第28回CREフォーラム講師、国交省 トラック輸送における取引環境・労働時間改善中央協議会参加、厚労省 トラックドライバー労働環境改善事業参加、中国鄭州市主催 国際コールドチェーンフォーラム スピーカー 等
【受賞歴】全日本物流改善事例大会2010「物流合理化努力賞」、同大会2011「物流合理化賞」、同大会2012「物流合理化賞」、同大会2014「物流合理化賞」、同大会2015「優秀事例」

1.物流現場の価値を上げる『現場責任者への5つの提言』 (前編)
2.改善継続の実践ポイント『WINの循環ポイントを見つける』 (後編:本章)

2.改善継続の実践ポイント『WINの循環ポイントを見つける』

2.1 『WINの循環』という考え方

『宝の山』を見つけても、そこから改善効果であるMH(マンアワー)を抽出して、そのMHを再投資しなければ、推進エネルギーが枯渇し、(多くは現場の労働強化に繋がり)改善は継続しない。但し、これは物理的側面であり、物流現場に必要な改善の『本質』とは、物流現場自らが問題を発見し、自発的行動を起こす事にある。つまり、そこには上記の推進MH以外に、自発的行動のきっかけとなる『理由』を見つける事が重要で、これが希薄だと活動は一過性の問題解決となってしまい、継続的に改善サイクルを循環させる事が難しくなる。その改善活動を継続的に循環させるための『理由』を、私は『WINの循環』と呼んでいる。この『WINの循環』という考え方は、改善施策を企画する上での重要なポイントとなる。以下の改善事例を紹介しながら、この考え方を説明していこうと思う。

≪アジェンダ≫
改善事例①~物流センター構内とドライバーのWINの循環による作業改善~
改善事例②~後工程とのWINの循環によるドライバーの作業負担削減~
改善事例③~地域とのWINの循環による物流センター組織改革~

改善事例① 物流センター構内とドライバーのWINの循環による作業改善

【概要】店舗配送ドライバーとセンター構内作業者との連携による商品積み方改善。

【背景】センター構内作業の効率化を目的に、仕分け作業者の生産性を見えるようにして、パフォーマンスメジャーという評価制度を運用した。その結果、積み方を犠牲にして、効率をアップする作業者がでてきてしまい、結果的に店舗配送ドライバーの積み直しの負担が増えてしまった。

【改善前】4tトラック1車両当たりの積込み時間を調査したところ、カゴテナー台車を20台から21台積むのに平均64分かかっていて、そのうちの23分が積直し時間であることが判明した。

【施策内容】ドライバーが異常を発見すれば、構内が全て積直しをする運用を導入した。導入後は当然構内作業として毎日30台以上の積み直し作業が発生。そこで、構内現場の悩みに対応するため、ドライバーを先生にして『なぜこの積み方が悪いのか』その場で積み方を教えるOJTを実施したところ、今までの積み方ルールが間違っていたことが判明。実はドライバーにとっては、商品を揺らさない積み方が重要であり、OJTを通してその積み方を構内作業者へレクチャーした。(図表2)

(図表2)積み直し制度とドライバーOJT風景



【改善後】この仕組みを導入して3ヶ月後に積み方品質が劇的に良くなり、改善効果としてドライバーの積込時間が36%改善された。また、それぞれの悩みを、構内作業者とドライバーが連携して解決することで、現場の良好な関係が醸成された。

(WINの循環ポイント)
構内積み直し制度により、後工程のムダを前工程のムダへと変換する仕組みと、ドライバーOJT制度により、助け合いのコミュニケーションが醸成する仕掛けで、前工程と後工程のWINが循環した。 ドライバーが先生となる事で現地現物現実の品質が向上し問題解決。 ドライバーと構内作業者のコミュニケーションの仕掛けがキーワード。

改善事例② 後工程とのWINの循環によるドライバーの作業負担削減

【概要】店舗スタッフとの連携によるドライバーの負担軽減の改善事例。

【背景】店舗に配送された商品で、メーカー容器に入っている商品は、センターまで容器を戻す回収配送と、ドライバー業務としてメーカーごとに区分けする容器整理作業が発生している。(図表3)

【改善前】各種回収容器の混載により、4t車で1回1時間以上(1日2回で2時間以上)の容器整理作業が発生しており、ドライバーが休憩を取れない、就業時間を超過してしまうことなどが問題になっていた。(図表4)

(図表3)ドライバー容器整理作業風景

(図表4)店舗回収容器の問題点



【施策内容】真因である店舗の容器整理レベルを上げてもらうため、カスミ社内のイントラネットにホームページを開設し、その中に容器を整理することの重要性、容器の整理方法を掲載。さらに店長会で全店の店長へ協力を要請した。 ポイントとして、以前の改善活動で配送ドライバーが店舗の悩みを解決していることを伝え、今度はドライバーのために動いて欲しいと訴えた。 実はこの取組みの前にある改善を実施しており、内容としては、店舗のオープンまでに入荷商品の品出しが終わるように、ドライバーが店舗の該当する陳列棚エリアの近くに、商品台車を搬入する新たな納品サービスを実施していた。

店舗側もドライバーの負担軽減のみに動くとなると、負担も増えるため、なかなか協力が得られない。しかし、ドライバーが店舗スタッフの負担軽減のために動いた事実により、この互いのメリットを理解する店長がドライバーを助けてくれた。これがWINの循環である。

【改善後】改善前と比べ、ドライバーの容器整理時間が約半分になった。(図表5)

(図表5)改善効果とWINの循環



(WINの循環ポイント)
ドライバーが店舗へサービスをするMHを、店舗のサポートで創出した事。このWINの循環により改善は継続する。 後工程の悩みを前工程が解決し、前工程の悩みを後工程が解決。 お互いのムダを削減する仕組みと感謝・思いやりがキーワード。

改善事例③ 地域とのWINの循環による物流センター組織改革

【概要】人口減少地域に所在する物流センターでの離職率削減と組織改革の改善事例。

【背景】カスミ岩瀬流通センターの所在地、茨城県桜川市は、首都圏から約70㎞北東に位置する、岩瀬町、真壁町、大和村が合併して出来た人口約49000人の都市。 地場産業はこの地域で産出される御影石を利用した石材業や農業など、一次・二次産業が中心で年齢人口は少子高齢化のモデルのようなグラフ特性となっている。(図表6)

(図表6)茨城県桜川市の風景と年齢人口の特性



岩瀬センターでは、2005年より改善活動をスタートさせて、品質改善を中心に管理標準化を推進していた。2008年に私がセンター長として就任し、個人能力の見える化『パフォーマンスメジャー』による能力評価制度と『マルチジョブ化』にチャレンジした。(図表7)
これは頑張った人を評価するというモチベーションにより、品質向上と業務対応力向上を目的とした施策である。しかし、思うような結果が出ない状態が続き、管理を強化すればするほど、岩瀬センターの離職率が悪化してしまった。

【改善前】2007年度の退職者58人(離職率38.7%)に対して、2008年8月時点で、130人いるアルバイト作業者の内38人が退職。残り半年で前年を上回る事は確実だった。

【施策内容】アルバイトも含めた全従業員へのヒアリングや、離職者へのアンケートを実施し、現場で何が起きているのか徹底的に追究。真因として、部署の壁が社員同士の派閥を作り、それらが原因となり見えない不満が職場環境を悪化させていたことが判った。 そこで『マルチジョブ化』を部署同士の合併に発展させた施策『大部屋化』を実施し、同時に実施した『新たな能力評価制度』では、年齢・性別に関係なく、頑張った人が管理者へとキャリアアップする仕組みにチャレンジした。(図表8)

(図表7)パフォーマンスメジャー 

(図表8)新たな能力評価制度



≪大部屋化改善≫
【管理の大部屋化】
管理の大部屋化の本質は、①やめられないか ②減らせないか ③変われないかの3つのキーワードで管理のムダを削減し、創出されたMHを次の改善活動へ投資する事で、活動に伴う現場の労働強化を防止する取組み。(図表9)

【業務の大部屋化】
業務の大部屋化は、作業者の『マルチジョブ化』を発展させて、全部署の現場関連業務を一元化する取組み。大部屋化の最大の敵は『部署同士の見えない心の壁』、つまり、それぞれの部署に関知しないという意識により、お互いの悩みが共有化されない事にある。そこで、全部署の作業人員を、就業管理上でも完全共有化できるようにマルチジョブ化を推進し(図表10)、管理者同士がお互いを必要とする環境を作り出すことにチャレンジした。

(図表9)管理の大部屋化推進サイクル

(図表10)業務の大部屋化推進サイクル



そして、これらの施策は新たなWINをもたらしてくれた。実は地域のアルバイトの方々、特に中高年層の女性の方々がアルバイトから社員を目指すようになり、積極的に改善活動へ参加してくれるなど、現場のアイデアを提案して私を支えてくれたのだ。 この体験がきっかけで、地域との関係性に着目するようになり、次の2つの雇用戦略が誕生する。

≪雇用制度改革≫
【地域優先雇用制度】
地域優先雇用制度は、センター周辺に居住する方々を優先して雇用する制度で、目的は『近い』というメリットをお互いのWINとして共有する。

【紹介雇用制度】
紹介雇用制度は、従業員の家族や友人を優先して雇用する制度で、≪絆≫というメリットをお互いのWINとした身元保証制度。この雇用制度改革は2009年度からの大部屋化活動と歩調を合わせながら、ゆっくりと確実に効果が見える状態になっていった。

【改善後】2007年度/2010年度比較で離職率63.0%の削減に成功。

年齢・性別に関係なく優秀な人員を見出す仕組みと、それをサポートする雇用戦略が効果を出し始めた2009年後期以降、地域の50代~60代が重要な戦力として頭角を現していった。中高年層にとって私達の生活地域に雇用機会は無いに等しいのが現実。つまり、自分達がセンターの品質を守る事で自分達の職場を守り、生活を守る事を知っているのだ。現在、岩瀬センターは、地域の『オバちゃん達』が管理者として活躍する、全国的にも珍しい物流センターとなっている。言い方を変えると、頑張る理由があった地域の方々が残っていった。これも明確な『WINの循環』なのである。

さらに『紹介雇用制度』の効果により、従業員の家族16歳~19歳の学生が、第2の構成年代となり、家族・親族で働く比率が改善前の7%から26%と大幅に増加した。(図表11)
現在、高校生は岩瀬センターの重要な戦力となっており、当時アルバイトからキャリアアップした現在のセンター長は、市内の高校と連携して、数十名の高校生アルバイトに業務を通して物流管理を経験させている。そして、現在まで複数の卒業生がカスミへ入社している。

(図表11)紹介雇用制度の効果



(WINの循環ポイント)
物流現場には年齢・性別に関係なく優秀な地域の方々が多くいる事を発見した。そして、地域優先雇用制度・紹介雇用制度により、地域の方々との間に新たな価値を持たせた結果、少子高齢化の環境変化を強みとした、新たな『WINの循環』が誕生した。 頑張る人を主役にする仕組みと、新たな雇用制度により、家族で働く比率が高まり、地域の中高年層と高校生が戦力となった。 地域の方々と物流センターの新たな繋がり方がキーワード。

2.2 お互いの悩みを推進力にする・・・

WINが循環するポイントは、机上では発見できない。現場の悩みや苦しみをどれだけ当事者として理解できるかがポイントとなる。固定観念に縛られないようにしながら、事象に関わる全ての方々の『それぞれの事情』を理解し、尚且つ、関係者と悩みを共有するコミュニケーションが肝となる。是非、関係者を集めテーブルを交えて、相手の悩みを聞くことから始めてみよう。重要なのは形にとらわれず行動を起こす事。現場の悩みに直接触れなければ相手は心を開かない。相手のためにあなたがどれだけ真剣に動いたか、その事実が重要であり結果は後から付いてくるのだ。真因は目に見えるとは限らない・・・

①問題発見の現場と関係する人々の行動を洗い出す。
②相手の立場に立ってその悩みを理解する。
③関係者・関係セクションと問題発生の真因を追求する。

まとめ
現場の目撃者を集めると、思いもよらない原因やアイデアが飛び出すかもしれない。 お互いの事情を知らない者同士が、それぞれの知識の範囲で真因を分析しても、本当の真因に辿り着かない場合が多いのではないだろうか・・・前後工程セクション、物流現場の目撃者が参加し、『風が吹くとなぜ桶屋が儲かるのか?』を一緒に理解することが重要である。是非、あなたの物流セクションが中心となり、その問題の真因追及を繰り返していこう。

今回、現場責任者の視点で、私の実体験から得た改善活動を継続させるための2つのポイントについてお伝えした。一番伝えたいことは、まずは、責任者のあなたに物流現場の価値に気づいて欲しいということ。そして、それに気づいた時、あなた自身が『本当の宝』となる日は近い。物流現場はチャンスに満ち溢れている。

物流現場には前後工程の課題『宝の山』を、日々目撃している人財『宝の山』がゴロゴロしている。改善活動とは、それらの『宝の山』に気づくための地図である。