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第3回:実例!担当者が語る物流現場改善の勘どころ(前編)

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第3回 (2017/4/11掲載)

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~執筆者紹介~
株式会社カスミ ロジスティック本部 物流部 物流戦略担当マネジャー 齋藤 雅之
1997年 三共貨物自動車(株)入社
2008年 カスミ岩瀬流通センター センター長
2013年 (株)カスミへ転籍、カスミ物流体制構築プロジェクト副リーダー
2014年 カスミ物流改善プロジェクト事務局
2016年 カスミプロフィットセンタープロジェクト推進リーダー 現在に至る
JILS 物流現場改善推進委員会 委員、流通経済大学 ゲスト講師、第28回CREフォーラム講師、国交省 トラック輸送における取引環境・労働時間改善中央協議会参加、厚労省 トラックドライバー労働環境改善事業参加、中国鄭州市主催 国際コールドチェーンフォーラム スピーカー 等
【受賞歴】全日本物流改善事例大会2010「物流合理化努力賞」、同大会2011「物流合理化賞」、同大会2012「物流合理化賞」、同大会2014「物流合理化賞」、同大会2015「優秀事例」

はじめに

カスミ物流部は現在3つの物流センターを中心に、各施設は基本的に自社保有施設とし、構内業務と配送業務を4社の物流協力企業に業務委託をしている。人が中心のオペレーション体制では、人の価値を高める改善活動が推進されている。今年で13年目となるカスミ物流改善活動では、様々な失敗や反省を繰り返す中で、協力企業とカスミの改善チームが、自らの現場の問題を解決することで職場環境が良くなり、また、関連部署や前後工程と連携することで、さらに大きな効果を創出しながら現在も進化している。

2010年に、JILS(日本ロジスティクスシステム協会)の全日本物流改善事例大会にエントリーしてからは、毎年複数チームが全日本物流改善事例大会にチャレンジし、さらに現場のモチベーションが上がった。全日本物流改善事例大会で評価された物流協力企業の担当者は、そのほとんどがキャリアアップし、さらにカスミとの関係性を深めている。実は私自身がそのキャリアアップの当事者であり、この改善活動の13年間で、協力企業の配送責任者⇒協力企業の構内責任者⇒センター長⇒荷主であるカスミへ転籍⇒カスミ物流部担当マネジャー⇒カスミ物流部物流戦略担当マネジャーと、カスミの物流改善活動に携わりながら、同時に立場と役割を大きく変化させている。

今回、『実例!担当者が語る物流現場改善の勘どころ』ということでオファーをいただいたが、改善技術としての手法・手段については、トヨタ改善方式を筆頭に優秀な教科書が巷に溢れているので、技術的なノウハウはそちらで学んででいただくとして、今回は、現場責任者の視点で、私の実体験から得た改善活動を継続させるための2つのポイントについてお伝えする。

アジェンダ
1.物流現場の価値を上げる『現場責任者への5つの提言』 (前編:本章)
2.改善継続の実践ポイント『WINの循環ポイントを見つける』 (後編)

1.物流現場の価値を上げる『現場責任者への5つの提言』

1.1 現場責任者への提言①:現場改善の『本質』とは・・・

改善を『業務命令』で実行しても長続きはしない。強制力のみで統率を図っても、改善は進んだように見えて、実は改善のPDCAサイクルは循環しない。最初に断言するが、物流現場に必要な改善の『本質』とは、それをやる事で自分たちの職場環境や評価が良くなり、現場の責任者や担当者自らが問題を発見し、自発的行動を起こす事にある。つまり、MH削減を目的にしてもいけないし、省人化ありきの改善などは、組織を崩壊させる危険性がある。現場のムダを削減し、創出したMHを改善活動のために再投資をしなければ、現場は『カイゼン』という名の労働強化に陥り、上記の『本質』が循環しない。改善が本物にならない原因は何故なのか?是非真因分析をしてほしい。

改善の推進エネルギーが循環する事。それに気づいた『人』『チーム』『組織』だけが継続的改善効果を享受できる。(図表1)
そして、なぜ、物流現場の自発的行動が重要なのか?それは前後工程の問題の多くは物流現場に顕在化するからである。日々の異常を改善していくと、部分最適から全体最適への転換期が必ず訪れる。それは、前後工程の連携へと改善領域を拡大する事を意味し、接点である物流セクションの最大の強みとなるのだ。事件は現場で起きている・・・

(図表1)改善活動の役割と推進エネルギーの循環

1.2 現場責任者への提言②:改善活動は通行手形

上司や荷主の担当者が改善に前向きではない・・・従来から現場の問題点を指摘しているが取り合ってもらえないなど・・・あなたの前には反対勢力が立ちはだかっているとしよう。このような場合こそ改善というキーワードが有効になる。

通常の組織体は内部統制上、上司の承認が無い限り部下は自由に動けない。但し、改善活動は、現地現物現実の三現主義が基本であり、現場発信の姿こそが正しい説得力を持つ。失敗しても、その失敗にこそ真因に近づくための価値があるという理由で、担当者も上司も失敗を恐れなくて良い。荷主や自社内に改善活動の推進体がある場合は、必ず上司を飛び越えて誰かが評価してくれる。その評価が出た途端に、反対勢力が推進勢力に変貌するかもしれない。つまり、改善活動はあなたの大きな武器に成り得るのだ。この際、この武器を利用して現場の悩みを解決してしまおう。もし、改善活動の推進体が無い場合は、思い切ってJILSの全日本物流改善事例大会を勝手に目指してしまおう!

1.3 現場責任者への提言③:物流現場は宝の山

もし、あなたの周りに『こんな筈じゃなかった・・・』と今の仕事に不満を持っている人がいたらチャンスである。経験上、ドライバーを含めて物流現場にはセンスのある優秀な人材がゴロゴロしている。それぞれの事情で今の職業に就いているが、前後工程の問題を日々目撃しながら、アイデンティティを発揮出来ないでいる彼ら彼女らを仲間にしてしまおう。お勧めは、仲間の悩みを解決するために、職場環境の整理・整頓・清掃・清潔から始めてみる事~これが健全な理由の4Sであり、その理由に共感した賛同者が将来あなたの財産になるかもしれない。

運送事業関係者から『カスミさんのように荷主の協力が得られない場合、どうしたら良いか?』という質問がある。良く聞いてみると、その『荷主』とは荷主の物流セクションの担当者を指している事が多い。正にその担当者は『こんな筈じゃなかった・・・』方なのかもしれない。その方の価値を上げるためにも、今までの経験を物流現場に役立ててもらおう。『荷主』はただの概念であり、その方もあなたと同じ『荷主』からのミッションを背負った仲間なのである。

1.4 現場責任者への提言④:反対勢力は宝の山

手ごわい反対勢力は、必ず出来ない理由をあなたにぶつけてくるが、改善活動ではこの出来ない理由が真因追及のヒントになる。なぜ出来ないのか?あなたの重要なアクションは、その理由をとことん話し合おうと努力する事。 物流現場にはコミュニケーションが苦手な人も多いが、そのような相手こそ諦めないでコミュニケーションを続けてほしい。そして、出来ない理由が明確になった時、それは出来る理由の手掛かりとなる。コミュニケーションの中で相手の悩みを見つけた時、その悩みに真剣に向き合うことで、必ずや反対勢力を推進勢力にすることができる。

1.5 現場責任者への提言⑤:改善活動は宝の地図

ある物流改善の教科書を読んでいると、物流は付加価値を生まない『必要なムダ』であると記載されていた。『あなたのセクションはムダ』と言われたら誰でもやる気を失くしてしまうだろう。私は『ムダ』ではなく『宝の山』と呼ぶ事にしている。改善活動により『宝の山』を発見し、そのエネルギーを武器に、外部に対する発言力を持っていこう!!『宝の山』を発見し続ければ、周りから重要なセクションと、口コミでその評価が広がるのも時間の問題である。

物流現場には前後工程の課題『宝の山』を、日々目撃している人財『宝の山』がゴロゴロしている。改善活動とは、それらの『宝の山』に気づくための地図であり、今あなたの目の前にある。今こそ物流現場の価値に気づく時である!!

2.改善継続の実践ポイント『WINの循環ポイントを見つける』 (後編)に続く