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第2回:物流現場改善を本当に動かす、PDCAのあり方

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第2回 (2017/4/4掲載)

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物流現場改善のインパクト!~改善の有効性と成し遂げる熱意~

~執筆者紹介~
株式会社日本能率協会コンサルティング サプライチェーン革新センター シニア・コンサルタント 広瀬 卓也

1992年 大阪大学法学部卒業、同年、(株)日本能率協会コンサルティング入社
2017年 4月より現職 現在に至る
全日本能率連盟認定マスター・マネジメント・コンサルタント

JILS 物流現場改善推進委員会 委員、物流現場改善士専門委員会 委員・講師、物流技術管理士資格認定講座 講師
専門は、サプライチェーン診断・改革・再構築支援、物流・ロジスティクス事業診断・構築支援、物流・ロジスティクス機能別改善改革推進支援、業務システム設計・運用・評価支援、業務人材評価・育成支援、人事制度設計支援
【著書】物流改善ケーススタディ65(日刊工業新聞社 正・続)工場管理、月刊ロジスティクス・ビジネス、輸送経済新聞等寄稿

物流現場(荷役保管現場・運送現場)改善のニーズは尽きることがない。物流業界の深刻な人手不足が叫ばれる現在にあって、今後間違いなく物流現場に求められるのは「作業の徹底した標準化」である。仕事をしやすい・働きやすい環境を作ることによって、多くの人を雇用できるし、長く働いてもらうことが可能となる。そういったことをキチンと行える物流事業者や荷主企業が、これからの競争を勝ち抜いていけるし、それが出来ない事業者はこれまで以上に淘汰されてしまうだろう。

とは言え、現場改善の進め方・やり方は多くの場合、現場で実際に働くスタッフの経験値に頼って進められていることも事実である。属人的にならず、ある程度定められた手順に沿って進めることで、現場改善本来の成果を得ることがより容易になる。 本稿では、物流現場改善の基本的な進め方を、コンサルタントの視点・知見から説明していきたい。

1.現場改善の企画

現場改善を行うに当たって最初に重要になるのは「何のために改善するのか」「何をよくするのか」という点の明確化・合意である。当たり前のことだと思われるかもしれないが、実はここを明確にせずに改善を漫然と行っている企業が相当数ある。そのため、結局目的と関係のない施策を打ってしまい、思いつきで実行された施策が全く効果を生まない…という状況をかなりしばしば見かける。業務の品質・コスト、並びに人材育成や人員登用の側面なども加味して、何を改善するのかを明らかにする。目的は基本的に数値化し、目標として位置づける事が重要である。でないと、達成すべき事項として認識されない。

目標が定まったら、全社的に周知徹底を繰り返すことが肝要だ。社内のさまざまなコミュニケーションの機会を捉え、繰り返し目標を示し、社員の注意を引きつけなければならない。上位者から目標を押しつけるのではなく、目標を達成することが会社にとって大事であり自分たちのメリットにも繋がる…と、働いている人の大部分が感じるようになるまで、「繰り返し」伝えるのである。

これと並行して、可能な限り改善推進のための体制をハッキリ打ち出すことをオススメしたい。プロジェクト組織を立ち上げても良いし、複数部門が協議連携して横断的に進めても良い。一部門の業務にとどめず、改善活動に特別感を持たせることで、関心や周知を高めることが、改善を順調にスタートするためのポイントである。

2.問題の発見

問題とは「あるべき姿と現実とのギャップ」と定義される。1.で設定された目標・あるべき姿に対し、現状を定量的・定性的に把握し、ギャップを抽出する必要がある。通常現場において問題とされるのは「不具合」である。事故が起こった、人が休んで集まらない、顧客からクレームが入った…などであるが、これは「本来当たり前に遂行されているべき事が行われていない」状態であり、厳密に言うとあるべき姿とのギャップではない。

常に目標・あるべき姿と現状を比較し、何が足りないのか・その要因は何かを考え続けなければならない。ギャップを出すためには測定が不可欠であり、そのためにはKPI(重点評価指標)を設定する必要がある。生産性・品質・原単位コスト・各種効率指標など、実績をモニタリング出来るKPIを設定し、目標設定時の前提と比較する。

我々がさまざまな企業にお邪魔して痛感することであるが、多くの現場改善活動ではすぐに「対策立案」を行ってしまう傾向がある。これは出来るだけ避けなければならない。まず問題=あるべき姿もしくは目標とのギャップを正確に把握し、その要因まで探っておかないと、正しい対策を打つことは出来ない。問題の特定を経ない、思いつき施策の実行は、失敗に終わることがかなり多い。問題の発見・特定に際しては、できるだけ多くの部署が討議に参加し進めていくことが望ましい(もちろん、しっかりしたファシリテーションを行うことが大前提である)。問題や課題は複雑な因果関係を持っており、多面的に考察することで初めて真の問題に行き当たることが出来るからである。

3.改善企画と実行

問題が特定できたら、改善案を企画する。問題及びその要因がしっかりと把握されていれば、実は改善企画はそんなに難しいことではない。現場の改善で出来ることはそれなりに限られており(投資が潤沢に行えれば別であるが、そのような企業はそんなに多くないだろう)、過去にある程度実施したことのある施策が多いからである。問題点に対して有効と思われる施策を当てはめ、行動計画に落とす。QC活動などを行っているお会社にとってはなじみの活動だろう。

これと並行して「施策の成果目標」を立てる必要がある。施策の成果目標は、最初のあるべき姿・目標と同じになるとは限らない。あるべき姿は複数の問題が解決された上で達成されることが殆どなので、施策をちゃんとコントロールするために、施策個別の目標が別途必要になるのである。これらはマイルストーン(中間道標)と呼ばれることもある。まずここまでやりましょう、と言う道しるべである。

4.評価・定着

改善活動において最も難しいのは、活動を継続し、最終的に定着させることである。例えば2Sや5S活動について考えてみよう。筆者がいろいろなセミナーで「2Sや5Sを行っている企業は?」と挙手を願うと、95%以上の方が手を上げる。続いて「では、それらが上手くいっている企業は?」と再度挙手して頂くと、挙手は5%くらいに下がってしまう。ゼロと言うことも珍しくない。改善活動において、やってもやらなくても評価や行動が変わらないとなれば、活動は自然消滅してしまう。それ故、トヨタのように改善が仕組みとして確立されている企業以外では、改善活動が継続できないのである。5Sに限らず、活動を継続するためにはいくつかの仕掛けが必要となる。細かい方法論は省くが、筆者は継続のためのポイントは3つあると考えている。

1)現場が動きたくなる動機付けを行うこと
5Sの事例が典型例であるが、改善が続かない最大の理由が「やってもメリットがない」ことである。日々の業務遂行に直接関係がなく、自分にメリットのない業務は余計な仕事でしかない。改善活動が現場のメリットに繋がるようにしないと続かないのである。メリットとは売上利益やインセンティブなどに限らない。「褒められる」「評価される」というのも立派なメリットとなる。私の体験事例では、5S活動に伴って始めた顧客(取引先)へのあいさつ徹底が顧客に評価され、それに伴って5Sの実効水準が「劇的に」上がった、と言うことがあった。お客様の評価がダイレクトな動機付けに繋がったのである。

2)しつこく言い続けること
改善というのは日常必須の業務ではなく、通常は実務にアドオンして行わざるを得ないので、結局誰かが尻を叩かないと進まない。我々コンサルタントが使う言い方に「百編システム」というものがある。改善を進めるためには、同じことを100回くらい言い続けると言う意味だ(一日1回言ったとして5ヶ月くらいの回数である)。精神論に聞こえてしまうかもしれないが、改善推進には最終的に管理者の覚悟と粘りが必要である。

3)成果がすぐに見える形を作ること
やったことの結果・成果がすぐに見えるというのは非常に重要である。その日に行ったことを振り返り、翌日には結果が見える仕組みが作れると、現場のモチベーションは俄然上昇する。 ただし、この点を理解して仕組みを導入し、取り組めている企業はかなり少ない。日単位の実績を知る仕組みを作ることにはコストがかかるからである。そこで、最低限写真を活用してはどうだろうか。2S・5S活動などを中心に、取り組み前・取り組み後を写真に撮って、翌日には掲示する。あるいは改善会議の様子や、その場で出された意見などを写真や簡単なメモなどで記し、掲示もしくは朝礼などで紹介する。これだけのことで、成果に対する姿勢はずいぶんと変わってくるだろう。