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世界標準のSCM用語解説

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米ASCMのサプライチェーン用語をコラム形式で紹介します。ASCMが編纂したSCM用語辞典(第17版)の翻訳チームに所属するメンバーの有志の方々に監修いただき、SCM用語辞典(英文、約5000語採録)より、特にロジスティクス分野と関連の深い用語を選んで「定義(和文・英文)」「事例」「意義」を世界標準のSCM用語解説と題してご紹介します。

サプライチェーンは地球発・地球着の「グローバル」な世界観が基本です。ここでは世界最大のSCM標準化推進団体である米ASCMの知識体系に基づく用語法-共通言語のうち、特に重要と思われるものを取り上げます。

目次

SCM用語解説

SCM用語#1:「MP&C」

サプライチェーンはモノ作りとモノ運びを中心とした複数の企業活動が相互に関連しながら成り立っている運命共同体としての性質を有しています。この一種の「エコシステム」をモノ作りの活動を中心において俯瞰する際の参照枠組みは”Manufacturing Planning and Control system (MP&C)”として知られています*。

MP&Cは企業内のSCMを仕入・生産・納入といったモノの流れを伴う「実行・管理(Control)」レイヤー、その活動の効果を保証するための「計画(Planning)」レイヤー、そして計画の前提となる設備投資等の判断を伴う「戦略」レイヤーからなる三層で構成されます。

それぞれのレイヤーでは短期・中期・長期の需要マネジメントおよび供給能力マネジメントを通じて供給活動の優先順位給に関する意思決定を行います。これらの意思決定は長期から短期に向かって階層的に行われる点に特徴があります。

また、MP&Cは自社内だけでなくサプライヤーやカスタマーなどサプライチェーンを構成する他の企業との間で問題状況を整理する際や課題を設定する際に用いる共通の参照枠組みとしても普及しており、SCMに携わる様々なレベルの人々にとってのいわば「共通言語」となっています**。


MP&Cの概要とSCMの階層意思決定

*山本圭一・水谷禎志・行本顕「基礎から学べる!世界標準のSCM教本」(日刊工業新聞社)
**山口雄大・行本顕・泉啓介・小橋重信「全図解 メーカーの仕事」(ダイヤモンド社)

SCM用語#2:「ASCM」

ASCM (Association for Supply Chain Management)は米シカゴに本部を置く非営利のSCMの標準化推進団体です。1957年に設立されたAPICS (American Production & Inventory Control Society)を母体としており*、現在も「エイピックス」という旧名称を用いるSCM実務家は少なくありません。例年9月に米国で開催される同名の年次大会には世界各国から数千人のSCM実務家が参加しており、事例・研究成果の発表や教育セッションを通じた情報交換が活発に行われています。

ASCMは様々なSCM推進団体との合併・連携を通じて活動範囲を拡大し現在はビル&メリンダ財団の支援を受けつつ世界100か国以上に約300のチャネルパートナーを擁しています。旧APICSの設立以来SCM実務家向けの教育プログラムと資格試験を提供しており、半世紀以上の歴史を持つCPIM (Certified in Planning and Inventory Management)試験を中心に現在約17万人の有資格者がいます。

ASCMの提供する教育プログラムの特徴は「ローコンテクスト」であることを重視する点にあります。**グローバルを前提としたサプライチェーンにおける企業間コーディネーションや意思決定を行う際には、前提となる事象や共有化された情報についての解釈が相互に了解されていることが重要になります。つまり、方法論においても誤解の余地のないレベルで使うことのできる「共通言語」が求められます。先述のMP&CをはじめとするASCMの知識体系は一見基礎的ですが、だれもが使うことのできる参照枠組であり、この事実こそが実務家への普及を促進してデファクト標準となった本質的な理由といえます。

このようなASCMの知識体系は多くの企業が利用しており、多国籍企業である化学会社のBASFが社内のサプライチェーン学習基盤としてASCMのプログラムを活用しているのはその一例といえるでしょう***。同社が「問題状況の把握や課題を設定する場面においてASCMの知識体系は他の部門と協力して最良の結果を得るための基礎になっている」とコメントしていることからもその様子が覗えます。


2022年ASCM大会(米シカゴにて筆者撮影)

*ASCM “Supply Chain Dictionary 17th edition”
**行本顕・深谷健一郎「グローバル・サプライチェーン経営における、共通言語の重要性」
***ASCM case study BASF 

https://www.aSCM.org/globalassets/documents--files/corporate-transformation/case-studies/aSCM-case-study_-basf.pdf

代表筆者プロフィール

行本 顕 氏

  • 1974年生まれ。APICS認定インストラクター(CPIM-F・CLTD-F・CSCP-F)、法学修士。銀行員を経て2003年より国内消費財メーカーに勤務。生産管理・海外調達他を担当。2010年~2012年にかけて米国の大手消費財ディストリビューターに常駐、S&OPを担当。
  • 日本初のAPICS三科目認定インストラクターとして日本ロジスティクスシステム協会、日本生産性本部他での講演を中心にSCM普及活動を行っている。ストラテジックSCMコース第12期修了生。JILS調査研究委員会委員。JILSサプライチェーンマネジメント推進会議座長。
  • 著書に「基礎から学べる! 世界標準のSCM教本」(日刊工業新聞社)「全図解メーカーの仕事」(ダイヤモンド社)他。日刊工業新聞にて「ビジネスパーソンのためのSCM講座」連載中。

さらに世界標準のSCMについて学ばれたい方へ

  • 『超』入門!SCMセミナーシリーズ
    『超』入門!SCMシリーズは4つのモジュールで構成されたサプライチェーンマネジメント(SCM)の入門セミナー群です。SCMの「設計・計画・実行」それぞれの業務領域に求められる「観点」と「基礎知識」の習得を目指しつつ、相互の関連性を同時に学びます。これらのモジュールはいずれも世界標準のSCMにおける世界観に準拠していますので、はじめてSCMの世界に足を踏み入れた方も、すでに実務経験を積まれた方も、受講後は本セミナーの内容を「共通言語」としてご活用いただける点にも特徴があります。

開催予定のセミナーについては下記ホームページをご参照ください。
https://www1.logistics.or.jp/education/seminar.html