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大学生による「ロジスティクス・SCM研究発表会」取材レポート-未来の物流を担う人材の視点から考える、加工食品サプライチェーンの課題解決

コンテンツ


JILS主催「大学生によるロジスティクス・SCM研究発表会」光景

ロジスティクス・SCMの領域は、物流の2024年問題に代表されるドライバー不足や、倉庫の構内労働者の人材不足等が喫緊の課題となっています。一方でロジスティクス・SCMの領域を目指す学卒者は不足しており、将来においては当該領域の持続的な成長の障壁になりかねません。各企業では、蓄積された知見とテクノロジーで、物流の課題解決の取り組みがなされているのは周知のとおりです。しかし一方で、ロジスティクス・SCMを学ぶ大学生の、先入観やバイアスの少ない柔軟な視点は、課題解決の糸口となる可能性を秘めています。

執筆:蜂巣 稔(はちす みのる)物流ライター
外資系IT企業ならびに日本コカ・コーラで通算21年間SCMの職務に従事する。日本コカ・コーラでは原料の供給計画、在庫最適化、購買調達、輸送・倉庫管理などSCMの上流から下流に精通する。通関士資格を保有。葉山ウインズ(同)代表社員(現職)

大学生によるロジスティクス・SCM研究発表会の概要と目的

公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会(以下JILS)は、2022年12月10日(土)に「大学生によるロジスティクス・SCM研究発表会」を開催しました。会場は、知能ロボットで物流・製造現場の自動化をリードする株式会社Mujinの協力により、江東区辰巳の東京本社で行われました。

JILSでは社会や産業界におけるロジスティクス・物流の重要性や仕事としての魅力を訴求し、当該分野の認知度を高め人材の裾野を広げる活動を推進しています。この活動の一環として、2019年より「大学生によるロジスティクス・SCM研究発表会」が毎年開催されています。

2022年のテーマは「社会の変化に対応した加工食品サプライチェーンとは?」です。研究発表会は大学生(以下学生)が当該テーマに対する課題解決を検討し、発表するとともに、企業との交流を深めることを目的として実施されました。社会が大きく変化する中、学生の新鮮且つ柔軟な視点に基づいた研究成果の発表はロジスティクス・SCM関係者にも新たな気づきをもたらす機会になったのではないでしょうか。

今回は4大学から6チームが参加しました。参加大学は青山学院大学、学習院大学、東京海洋大学、東京都市大学(50音順)で、東京海洋大学からは3チームが発表しました。

参加者は会場参加者とオンライン聴講者の合計で130名が参加しました。会場には主催者や参加大学から34名が参集し、オンライン聴講者は96名が参加して活発な質疑応答が行われました。

【開催概要】

日 時 2022年12月10日(土)13:30~17:30
会 場 株式会社Mujin 東京本社 ※Zoomにてオンラインライブ中継
参加大学
  • 青山学院大学 経営学部
  • 学習院大学 経済学部 経営学科
  • 東京海洋大学 海洋工学部 流通情報工学科
  • 東京都市大学 環境学部 環境経営システム学科
発表内容 「社会の変化に対応した加工食品サプライチェーンとは?」
加工食品サプライチェーンには、消費行動や流通構造の変化、また物流の2024年問題への対応など、様々な課題があります。そうした加工食品のサプライチェーンの課題を解決するための方策を検討し、学生が考える「あるべき加工食品サプライチェーンの姿」を発表します。
協 力 ハウス食品株式会社
株式会社Mujin
行本 顕 氏(オペレーションズ・マネジメント・グループ)
山口 雄大 氏(日本電気株式会社)
食品ロジスティクス研究会(JILS)

次世代のロジスティクス人材の裾野を広げるJILSの取り組み

「必要なものを必要なタイミングで届ける」物流は社会のインフラです。身体に張り巡らされた動脈・静脈・毛細血管の様に、いわば経済活動の血管として機能しています。一方、 一般の学生にとって深く理解される機会が少ない領域とも言えます。

JILSでは次世代のロジスティクスを支える人材の裾野を広げることを目的に、ロジスティクス・物流の社会や産業界における重要性、仕事としての魅力等を伝え、学生のロジスティクス・物流に対する認知や理解を高める活動に取り組んでいます。学生向けWEBページ「KEEP ON MOVING!」では、物流に関わる企業担当者のリアルな声も紹介し、ロジスティクス・物流への認知向上や興味喚起を図るため、各種の情報発信を行っています。

加えて、JILSでは「ロジスティクス・物流研究プロジェクト」活動を推進してきました。「大学生によるロジスティクス・SCM研究発表会」はその活動の一環として、大学と産業界の相互交流の促進を目指し、2019年からスタートしました。今回は4回目の開催です。

先進的な知能ロボットに興味を示す参加大学のチーム


株式会社Mujin吉田氏による知能ロボットの紹介

会場を提供された株式会社Mujinのマーケティング&コミュニケーション PRスペシャリスト 吉田 菜月(よしだ なつき)氏からはMujinの会社紹介と最新の知能ロボットの紹介がありました。「知能ロボットによる自動化ソリューションで物流・製造の未来を支えるMujinの紹介」と題した先進的な内容に、参加の学生は真剣に聞き入っていました。

発表会場の会議室に隣接するロボットイノベーションセンターでは、知能ロボットがパレットやコンベヤ上の貨物を積み付け/積み下ろしする風景を見学する機会もあり、学生のみなさんは知能ロボットの滑らかな動きに目を見張っていました。また、カフェテリアでは、インターナショナルで多様性あふれる社員構成やコーヒー豆にこだわるCTOの裏話しなど、ユニークな企業の紹介に熱心に耳を傾けました。


Mujinのロボットイノベーションセンター見学風景

その後、研究成果の発表が、質疑応答を含め各チーム25分でおこなわれました。参加大学のチーム名と発表順は以下の通りです。

  1. 東京海洋大学 海洋工学部 流通情報工学科 「1年男子チーム」
  2. 東京都市大学 環境学部 環境経営システム学科「大久保研究室チーム」
  3. 東京海洋大学 海洋工学部 流通情報工学科 「チーム:ワーキングバン」
  4. 学習院大学 経済学部 経営学科 「河合ゼミチーム」  
  5. 東京海洋大学 海洋工学部 流通情報工学科 「チーム:東京海洋大学3年」
  6. 青山学院大学 経営学部 「チーム:青学ハウス部」

熱量が高く着眼点がユニークな学生の研究発表

今回のテーマで取り上げられた加工食品は、メーカー各社で異なる様々な外装形態や多様な流通経路など、標準化・共同化に対して多くの課題を抱えています。参加大学の各チームからは、既存の枠にとらわれない意欲的でレベルの高い研究発表がなされました。各チームのテーマと発表内容の概要を以下に記載します。

1.東京海洋大学 海洋工学部 流通情報工学科「1年男子チーム」

「持続的な加工食品SCを目的とした、パレット・外装標準化に関する方策の提案」


東京海洋大学 「1年男子チーム」による発表

1年生とは思えない緻密な研究は、加工食品流通におけるT11パレットの活用と一貫パレチゼーション、企業間の外装の標準化による「部分最適から全体最適」「標準化から共有化」を目指し、サプライチェーン全体の課題を解決する極めて現実的な内容でした。

企業の枠組みを越えたサプライチェーン全体の最適化を目指す内容は、現在の課題を細部まで分かった上で全体最適・共有化へ繋げた発表でした。パレットから貨物がはみ出すオーバーハングも計算した外装標準化の提案は、業界全体の一貫パレチゼーションに繋がるアプローチでした。オンライン聴講者の省庁の方からは「研究を続けて欲しい」とポジティブなコメントもありました。

2. 東京都市大学 環境学部 環境経営システム学科「大5保研究室チーム」

「ゲームチェンジに備えて」


東京都市大学「大久保研究室チーム」による発表

7人のメンバーによる発表は、物流の進化と未来を「金額の競争からCFP(カーボンフットプリント)数値の評価へのゲームチェンジ」と捉えた着眼点が新鮮でした。

このチームは、CFPの削減は「カーボンネガティブ」というポジティブな価値を生み出すことに着目。CO2の排出削減、CFPの削減によって生まれるポジティブな側面についての発表でした。具体的なCFP削減の取り組みの例として、ハウス食品静岡工場のソーラーパネルの発電による年間700トンのCO2を削減したカーボンネガティブ化が紹介されました。

製品のCFPの削減は物流部門だけではなく、「全てのステークホルダーで横断的に解決すべき問題」と捉えた広い視野や、環境面から横断的にアプローチした未来志向の発表は参加者からも高い評価を受けていました。

3. 東京海洋大学 海洋工学部 流通情報工学科 「チーム:ワーキングバン」

「ウーバーマッチングワゴン~ロジスティクスのシェアリング~」


東京海洋大学「チーム:ワーキングバン」による発表

1年生の女性4人からなるチームは、マッチングアプリを活用した「センターから小売施設までの運送を対象としたワゴン車のマッチングサービス」について発表しました。

マッチングアプリを活用した一般個人のワゴン車と輸送会社をつなげる求貨求車サービスのアイデアは、遊休資産の有効活用と人手不足の解決の両立を目指すユニークな提案でした。

4トン車の高さ制限や通行時間の制限をクリアし、小回りがきくワゴン車に着目した点、マッチングアプリに勤怠管理システムも融合させるなど、現場のニーズやギャップのリサーチをしっかり行なった研究でした。一般の白ナンバー車両の利用には法改正が必要な点にも言及し、衛生管理の必要性にも踏み込んでいました。マッチングアプリの遷移図まで作り込んだ発表は、参加者からも高く評価されました。

4. 学習院大学 経済学部 経営学科「河合ゼミチーム」

「ムダロス削減のためのサプライチェーン協働~きめ細やかな戦略策定と情報利活用の可能性~」


学習院大学 「河合ゼミチーム」による発表

3名からなるチームは、サプライチェーン全体の中で発生する食品ロスや廃棄を、供給側の川上視点ではなく、需要側の川下視点で削減するアイデアを発表しました。「商品のカテゴリマネジメントx情報共有・業務連携」によって、消費者が真に求める商品と量、求める時に届けるS&OP視点による食品ロス削減の研究でした。

このチームは実際に、スナック菓子について食品業界側と、消費者側のカテゴリマネジメントの違いについて検証しました。Z世代の学生にアンケートを実施し、食品業界とZ世代ではカテゴリの捉え方にギャップがあることを説明。消費者起点のカテゴリによる商品供給が廃棄削減や利益向上につながる可能性、また食品企業間での共通マスターや情報共有の必要性を訴えたアプローチが特徴的でした。

参加者からは、需要起点のS&OP(Sales and Operations Planning)に触れた視点は注目に値するとのフィードバックがありました。

5. 東京海洋大学 海洋工学部 流通情報工学科「チーム:東京海洋大学3年」

「需要予測のための新たなデータ収集方法の提案」


東京海洋大学「チーム:東京海洋大学3年」による発表

食品廃棄やドライバー不足の課題解決には、上流工程の精度の高い需要予測が必須です。一般的に加工食品の需要予測にはPOSデータが利用されていますが、このチームは、需要予測のために購買データと個人属性を融合したデータを利用する、新しい方法の発表を行いました。

需要予測を、POSに代わるデータで行うことができないかとのアイデアに基づき、レシートアプリやコード決済を活用した情報収集と、レシートアプリを需要予測のツールとして利用するユニークな視点から発表がされました。

コード決済やレシートアプリと契約して購買情報を収集、別々に行われているコード決済やレシートアプリの機能を統合し、コード決済にレシートアプリの機能を融合させてデータを取得することで需要予測の精度向上を目指していました。

参加者からは、スーパーのアプリの様にデータの取得性が上がる可能性についてのコメントがありました。一方、大学の中立性を活かし当該アイデアで大学で起業することを促した、オンライン参加者のコメントもありました。

6. 青山学院大学 経営学部「チーム:青学ハウス部」 

「BtoB向けUber型プラットフォーム『カコハイ』」


青山学院大学 「チーム:青学ハウス部」による発表

ハウス食品を意識したチームからは、加工食品配送プラットフォームの略称「カコハイ」の発表がありました。

ハウス食品も関連するF-LINE株式会社に向けたBtoB向けUber型プラットフォーム「カコハイ」のビジネスモデルは、配送センターと納品先の間に新しく配送事業所を設置。EVワンボックス車でカコハイ配達員が配送する、配達員と案件マッチングのプラットフォームの提案でした。この仕組みにより環境負荷の削減、一般人向けの雇用機会の拡充と人手不足解消、需要変動への対応を目指すアイデアは、中間に配送事業所を設置することで物流波動の吸収にも訴求するものでした。

ハウス食品の松澤氏からは、F-LINEに対する提案の感謝に加え、発表と近しいケースとしてF-LINE川崎センターでの車格が低い車両による運送事例や、大型車と比較しCO2の排出が35%削減した実績について紹介がありました。

ロジスティクス・SCMのプロからのポジティブな講評とエール

各チームの発表後、ハウス食品株式会社 生産・SCM本部 SCM部長 松澤 新(まつざわ あらた)氏、オペレーションズ・マネジメント・グループ 代表 行本 顕(ゆきもと けん)氏、JILS 理事 兼JILS総合研究所 所長 北條 英(ほうじょう まさる)氏から講評がありました。

松澤氏からは「今回の発表には課題解決のヒントになる発想が散りばめられていた。サプライチェーンを学んでいる学生が増えていることが心強い。食品業界ではSCM人材は間違いなく必要な人材。就職活動の面接でSCMの知見を披露すると人事担当者は驚くのではないか」と、コメントされていました。


ハウス食品株式会社 松澤氏による講評

行本氏からは「どのチームの発表も素晴らしかった。共通テーマである食品産業をSCMの観点から考察するとき、需要側と供給側のどちらに視座を置くかがポイントだ。供給側のチームが多かったが、需要側の視座のチームもあり、中でもS&OPという意志決定に迫る踏み込んだチームもあった。SCMの中心的な論点のCFPについて発表したチームもあり、各チームとも方法論が豊かで具体的であったのが特徴的」と、評価をされました。


オペレーションズ・マネジメント・グループ 行本氏による講評

北條氏からは「ここ数年で企業においてはSCMに対する認識が変化している。経営者の関心がコストよりもSCMが上位となり、財務指標だけでなく、非財務指標にシフトしている。SCM人材が求められている。これからは文理を問わず問題を見つけ、ロジスティクスの視点で課題解決に取り組む人材になって欲しい」と、力強いエールがありました。


JILS総合研究所 北條氏による講評

交流会で微笑む学生たち

緊張の講評からうって変わった交流会では、大学の壁を越えて和やかに情報交換が行われました。嬉しそうにお菓子などを手に取る学生のみなさんは微笑ましいものでした。

最後に株式会社Mujinマーケティング&コミュニケーション部長 石原 優月(いしはら ゆづき)氏の挨拶で閉会となりました。


株式会社Mujin 石原氏による閉会の挨拶

まとめ

今回の研究発表会は、加工食品業界の物流が抱える課題に対して、大学生の柔軟且つ斬新な視点から解決のアイデアを導き出す貴重な機会になったのではないかとの印象をもちました。どのチームもロジスティクスやSCM、需給の仕組みに対する基礎をしっかりと理解した上で研究を行っていた点も大変印象的でした。


参加者全員による集合写真

こうした発表会は、学生の皆さんがロジスティクス・SCMの領域に深く関心をもつ機会であると同時に、企業側においても学生と人的ネットワークを形成する有効な場ではないでしょうか。将来の優秀なSCM人材を発掘できる場でもあると思いました。ロジスティクスの未来を担うかもしれない学生のみなさんに、大きな可能性を感じた1日でした。

参考:KEEP ON MOVING
https://keeponmoving.jp