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ダイバーシティの先に

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No.10(2023/7/25掲載)

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執筆者紹介

株式会社コクヨロジテム 企画推進室長 戦略人事プロジェクトリーダー 山本 紗代美

2019年に株式会社コクヨロジテムにキャリア入社。
事業成長を促進する人事戦略や風土改革に注力するため、戦略人事PJリーダーとして活動を開始。2022年より経営戦略を担う。前職はコンサルタント。
※物流企業のHRM推進研究会 幹事

 

参加者紹介①

ボンド物流株式会社 代表取締役社長 橋本 啓子

2012年会社設立と同時に事務職として入社。2014年基幹職に転換した後、センター長として現場改善に努める。2018年より現職。
社員のモチベーション向上のため、HRMに取り組む。高校教師を経て刑事政策を研究していた異色の経歴をもつ。

参加者紹介②

クボタロジスティクス株式会社 代表取締役社長 深井 誠

1985年に久保田鉄工株式会社(現 株式会社クボタ)入社。調達部門、海外営業部門を経て2019年より現職。

メーカーのモノづくりの最終工程として業務を置付けることで、「物流からLogisticsへの進化」を目標に「コストから付加価値への変換」に注力中。

参加者紹介③

日清エンタープライズ株式会社 代表取締役社長 平野 敬幸

ダイバーシティの先に

1年かけてお届けしてきましたこのコラムもとうとう最終回となりました。今回は、最後にふさわしく、素敵なゲストを3名お迎えしました。

プロフィールのとおり、3名ともメーカーの物流子会社 社長を務められています。私が「事業変革のための組織カルチャーの作り方」というテーマで講演しました折に、共感とお声がけをいただいたことをきっかけに、この座談会を実現することができました。改めていろんな場面で想いや考えを発信することって大事だなと実感しています。それでは早速その模様を。


座談会の様子

山本紗代美氏(以下、山本) いつも生い立ちからおうかがいしておりまして…というのは冗談ですが、ご経歴というか物流との出会いなどお聞かせいただきたいです。たしか橋本さんは異業種からと以前おきかせいただいたことがありましたよね。

橋本啓子氏(以下、橋本) そうですね、前職は教育業界で働いていました。大学院にも通ったりしているうちに、人のご縁がありまして、ボンド物流ができたときに、いち事務職として入社しました。


ボンド物流 橋本 啓子社長

山本 そこから10年たたずに社長になられて、ものすごいご活躍だったのですね。

橋本 私が社長になる以前は、社長は親会社(コニシ)からの出向でした。親会社の役職との兼務で物流の社長を務めているため、現場に出向くことも難しく、専任の社長を必要としていたという経緯があります。

山本 平野さんも、たしかずっと物流ではないとおっしゃられていましたよね?

平野敬幸氏(以下、平野) 私は、日清食品に入って41年目になりますが、長く営業の仕事をしていました。営業当時、会社全体の中で物流の位置づけは残念ながら高いとは言い難く、あまり良い印象は持っていませんでしたが、56歳のときに物流子会社に出向になり、現場をみて面白いと思い始めました。まだまだやれることがあると思いましたね。


日清エンタープライズ 平野 敬幸社長

山本 深井さんも、親会社にいらっしゃったんですよね?

深井誠氏(以下、深井) そうですね、親会社(クボタ)で部品調達や営業もしていました。海外勤務も長くしていました。その時の経験が、視点を変えて様々な角度から物流をみることにも役立っています。


クボタロジスティクス 深井 誠社長

山本 偶然ですが、私も含め、皆さん違う業界や職種から、物流に携わるようになられたんですね。そういう意味でも、ずっと物流業界の中にいたのではわからない視点をそれぞれお持ちなのかもしれません。まさにダイバーシティですね。

山本 さて、そんな多様な皆さんに自社の人的資本に対しての課題認識やお考えを聞かせていただきたいと思います。

平野 日清エンタープライズにおいての課題は、人材の獲得と定着ですね。特に新卒の場合は1年以内に辞めてしまう人もいて、職場の雰囲気になじめないなど風土的なものも影響しているかもしれません。

深井 クボタロジスティクスは新卒の定着率はいいですが、キャリア採用の定着が芳しくないです。各拠点配属の中で人員数もけっして多いわけではないので、少し閉鎖的な空気感があるのかもしれません。

橋本 ボンド物流では、現場はキャリアの現地採用がメインです。大卒採用はまだ着手できていません。教育体制を整えてからかなと考えています。高卒採用は実施して4年目になりますが、こちらはうまくいっている感触です。

山本 人材の定着、そこにつながる風土や教育などソフト面に課題感をお持ちだというお話が多くて興味深いです。それぞれの課題感に対して、どのような取り組みをしていらっしゃいますか?

橋本 配属拠点から他拠点に、繁忙期の応援をすることなどを通じて、経験を積んでもらっています。そこでの気付きから改善につなげてもらい、それを発表する場なども作っています。これによって一定の承認を感じてもらうことはできていると思います。

山本 実体験からの学びは大きいですよね。体感と継続を育成に組み込む重要性は常々感じていますが、難しいです。

橋本 そうですね、この新入社員たちのようなことを皆が体験できるわけではないですし。さらに言うならば、会社全体として、やりがいというか社員のモチベーションをどのように設定すればいいかは、非常に悩ましいです。親会社も含め他事業では、例えば増収増益などわかりやすい全体としての成長指標も設定しやすいですが、物流子会社として、利益増が手放しに良いことというわけでもないですし。

深井 物流はコストとしてとらえられることから脱却しないと未来はないと考えています。どれだけ付加価値をつけていけるかが重要です。

山本 非常に共感します。付加価値を高めるためにクボタロジスティクスさんでは、どのようなことをされていますか?

深井 付加価値を高める、そのために新しいことをやろうとすると抵抗勢力もあります。長く物流の中だけで働いてきて、コストを削っていくことに注力してきてくれた人たちには、なかなか理解されにくいですし、難しいことでもあります。ですから、私たちは通常の組織の中ではなく、組織横断のプロジェクトにしてしまいます。それによってそれぞれの拠点の長の責任もミニマムにできますしね。また、取り組み内容も、子会社のフットワークの良さも手伝って、ユニークな成果につなげられています。自社の社会的プレゼンスを上げることにもつながり、それも社員たちのエンゲージメントにつなげたいと考えています。

山本 いいですね、実現する仕組みとしてプロジェクト型は有効だと私も実感しています。どんなプロジェクトなのかも気になるので、また別の機会に教えてくださいね。

山本 さて、日清エンタープライズさんは、いかがですか?会社としてのありたい姿の共有もいただきまして、特に個人的にはValueとして設定されている「エンターやるやん!エンターええやん!エンターがあってよかった!」がツボでした(笑)。関西の会社だなという親しみを感じる表現ももちろんそうですが、この辺りにも風土的なところに取り組もうという姿勢もあるのかななんて思いましたが。

平野 企業に根付いているカルチャーがモチベーションにつながると考えています。それを魅力に感じる人材が集まってくれたら、個人の成長はもちろんですが、事業の成長もポジティブに目指していけると思います。例えばですが、自分が若いときには会社(日清食品)のイベントや旅行などもありましたし、みんなで楽しむ機会も多かったです。今の日清エンタープライズでも、小さなことからでも少しずつそういう機会を増やしていきたいと考えています。協力会社さんも含めて一緒にやっても面白そうです。

山本 素敵ですね、コミュニケーション活性化にもつながるでしょうし、魅力的な組織風土が作れそうです。その他にもダイバーシティの点でも注力されているとうかがったことがありますが。

平野 非正規含む様々な雇用形態で働いている人たち、女性が主でしたが、彼女たちの社員化も実現しました。本当に良いパフォーマンスの方たちが、性別を理由にこれまでの慣例で引き上げられてこなかったということも非常に残念な現実でしたから。加えて、エルダー(定年後の社員)の方々の活用も積極的に行っています。

深井 クボタロジスティクスもキャリアを重ねてきた50代後半の方々を年齢で区切ることなく処遇しています。昇格試験も受けてもらいますし、昇給もします。

山本 まさに本当の意味で多様な人たちを活かすということに注力されているんですね。


座談会を終えて

「ダイバーシティは物流を制す?!」という大テーマのもとに連載をしてきました。最後である10回目に偶然にも、ご招待してみれば様々なキャリアをお持ちの社長さんが集い、お話の締めくくりは多様な人材を活かされているというお話でした。

それぞれに課題も取り組み内容も異なりますが、3社ともに、共に働く方々のエンゲージメントとそれによって生まれる事業価値ということへの意識が非常に高いのだと感じました。月並みな表現ですが、事業を創るのは人です。人材がダイバーシティな状態を目指すだけではだめだと私は考えます。その先にどんな事業価値を生みたいのか、だからこそ多様な人たちとどんな組織カルチャーをつくっていきたいのか。

これまでも本コラムにおいて、自社の魅力としてのエンゲージメント、ES(従業員満足)、自由な発想と、ゲストの皆様と今回の内容ともつながるお話をしてきました。ぜひ参考にしていただきながら、今後もダイバーシティのその先について考えてまいりましょう。

これでwebでのコラムは終えさせていただきますが、安心してください、みなさんとのつながりはこれでは終わりません(笑)。今後もJILSが定期的に会員様向けに発行されている機関紙において、HRMコラムを連載させていただきます。是非そちらもご覧くださいませ。改めて、1年間のお付き合い、本当にありがとうございました。