荷主企業の売上高から物流量を推計する方法

本ページの概要と目的

荷主企業が自社の売上高から物流量を推定するための「物流原単位」について解説しています。この資料は、製造業、卸売業、小売業の各業種における出荷量および入荷量の原単位および年間貨物輸送量が9万トンに達する年間売上高の基準値について参考となる情報を提示することを目指しております。今回、全国貨物純流動調査(物流センサス)が提供している産業業種別
出荷額・販売額1万円当たりの重量情報(以下、物流原単位)を補足する目的で、上場企業約300社(小売業・卸売業・製造業)の公開情報をもとにAIを用いて独自に分析しました。その結果から得られた、業種別の「物流原単位」とその「ばらつき(標準偏差)」について解説しています。

特定荷主の基準である「9万トンボーダーライン」という物流量の目安として、これらの情報を用いることで、企業は自社の年間物流量を概算し、特定荷主に該当するかどうかの最初の判断基準と、以後の物流量計測に向けた検討材料としていただけることを狙いとしております。

※本ページでは、特定荷主について扱っており、特定連鎖化事業者については、別途、「判断基準」(省令)等をご参照ください(参考サイト)。

目次

  1. 物流原単位の定義と使い方
  2. 業種別 物流原単位参考値(製造業・卸売業)
  3. 業種別 物流原単位参考値(小売業)
  4. 付録:特定荷主に該当する事業者の売上高の規模の目安

1. 物流原単位の定義と使い方

物流原単位の定義

本分析における「物流原単位」は、以下の通り定義されます。

物流原単位(kg/万円) = 売上高1万円あたりの輸送重量(kg)

【注記】推定重量の「属性」について

算出される重量は、国内における輸送活動全体の近似値となります。厳密な意味での「出荷量」や「純流動量」といった詳細な属性(例:総流動や純流動など)を特定するものではない点にご留意ください。

物流量の推計方法

この原単位を用いることで、以下の計算式により企業の年間物流量を推定できます。

推定年間物流量(トン) = 国内売上高(万円) × 物流原単位(kg/万円) ÷ 1000

標準偏差(σ)を用いた「推計レンジ」の把握

同じ業種であっても、取扱商品やビジネスモデルの違いにより、物流原単位は企業ごとに異なります。この「ばらつき」の度合いを示すのが標準偏差(σ:シグマ)です。

統計学的に正規分布を仮定した場合、以下のカバー率で企業のデータが分布すると考えられます。

  • 平均値(μ) ± 標準偏差(σ) の範囲:全体の約68%の企業が含まれる(68%信頼区間)
  • 平均値(μ) ± 標準偏差(σ)×2 の範囲:全体の約95%の企業が含まれる(95%信頼区間)

自社の物流量を推定する際は、平均値(μ)だけでなく、標準偏差(σ)を考慮したレンジ(幅)で評価することが重要です。なお、平均値よりも標準偏差が大きい場合、下限値がマイナスとなることがありますが、その場合には下限値をゼロと読み替えてください。

【計算例】売上高500億円の化学製造業者の場合

化学製造業の原単位として平均値(μ)=535.9、標準偏差(σ)=307.6 を採用した場合、

物流原単位のレンジ(μ±σ) = 535.9 ± 307.6 = 228.3 から 843.5 kg/万円

推計物流量のレンジ(68%信頼区間):

  • 下限(μ-σ): 5,000,000万円 × 228.3 ÷ 1000 = 約1,140,000トン
  • 上限(μ+σ): 5,000,000万円 × 843.5 ÷ 1000 = 約4,220,000トン

この化学製造企業の物流量は、約68%の確率で114万トンから422万トンの間にあると推計されます。よってこの企業は特定荷主に該当する可能性が高いため、あらためて自社の物流量を測定する必要があります。

推計方法

Step1: 自社の産業・業種を特定
製造業、卸売業、小売業のいずれに該当するかを特定します。さらに、利用可能なデータの中で各産業内の細分化された業種(例:食料品製造業、アパレルなど)があれば、最も近いものを選択します。

複数事業部門を持つ場合:
それぞれの事業が異なる物流特性を持つため、事業部門ごとに売上高と物流原単位を適用し、それらを合算することで、より実態に近い物流量を推計することが可能です。

Step2: 適切な物流原単位を選択
目的に合わせ、該当業種の原単位(kg/万円)を選択します。

Step3: 自社の年間売上高を入力
自社の年間売上高を「万円」単位で準備します(例:100億円であれば1,000,000万円)。

Step4: 計算を実行
上記の計算式に各数値を代入し、物流量を推定します。今回のJILSの分析結果において、平均値(μ)および標準偏差(σ)が示されている業種については、μ ± σの範囲で物流量の変動幅を参考とすることも可能です。

Step5: 必要に応じて補正
自社の事業に特殊な要因(例:EC販売の比率が高い、売上高に占める販管費の割合が高い、特定の温度帯での配送が多い、商品構成が平均と大きく異なるなど)が判明している場合は、推定された物流量を実態に合わせて調整し、その結果を踏まえて可能な範囲から実測に進まれることをおすすめします。

2. 業種別 物流原単位参考値(製造業・卸売業)

今回、独自調査として、AI(Google Gemini)のリサーチ機能を活用し、上場企業における公開情報から個別企業の物流量を推計し、業種別のばらつき具合を把握することを目指しました。

ここでは、国内上場企業のうち、製造業4業種120社と卸売業11業種58社の合計178社を対象に物流原単位の調査を実施した結果を以下に示します。

なお、本リサーチは2025年9月上旬に実施しました。そのため、おおむね収集されたデータその時点での公開情報がもととなっています。

業種分類 サンプルサイズ 物流原単位(kg/万円)
平均値(μ)
標準偏差(σ) (kg/万円)
【製造業】
化学製造業 30社 535.9 307.6
機械製造業 30社 218.2 103.2
食料品製造業 30社 104.6 119.9
輸送用機器製造業 30社 104.1 111.8
【卸売業】
鉄鋼商社 3社 1,362.7 83.1
エネルギー商社 7社 106.5 17.8
総合商社 9社 92.7 148.4
食品卸 7社 42.2 16.2
日用品・化粧品卸 3社 39.4 10.0
機械・建材卸 7社 21.9 10.9
医薬品・医療機器卸 8社 20.2 6.0
IT・事務機器卸 2社 8.7 2.1
電子・化学品卸 9社 4.8 0.7
その他卸売 3社 8.3 2.0

※標準偏差(σ)は標本標準偏差を用いています。サンプルサイズが1の場合は算出不可のため掲載を見送った。
※食料品製造業、輸送用機器製造業、総合商社は標準偏差が大きく、業種内でのばらつきが非常に大きい傾向があります。

3.小売業における物流原単位

小売業の物流原単位は、AI(Google Gemini)のDeep
Research機能を活用して算出いたしました。売上高上位120社の上場小売業を対象とし、オンライン上の公開情報を収集・分析して各社の物流量を推定し、1社ごとにレポート形式で出力いたしました。これらの結果をもとに取りまとめた、小売業全体および業態別の物流原単位推計値を以下に掲載いたします。

なお、本リサーチは2025年4月下旬から5月上旬にかけて実施しました。そのため、おおむね収集されたデータその時点での公開情報がもととなっています。

小売業の出荷量原単位調査結果(詳細データ)

分類 サンプルサイズ 物流原単位(kg/万円)
平均値(μ)
標準偏差(σ) 9万トンボーダーライン
上場小売業 120社 120社 7.05 7.91 1,277億円
食品を扱う小売業 81社 8.78 8.70 1,025億円
食品を扱わない小売業 39社 3.44 4.10 2,613億円

食品扱いのある小売業の詳細

業種 サンプルサイズ 物流原単位(kg/万円)
平均値(μ)
標準偏差(σ) 9万トンボーダーライン
食品をメインとする小売業 36社 10.27 6.92 877億円
外食業 13社 8.86 13.37 1,016億円
ドラッグストア(食品+雑貨) 12社 8.82 7.44 1,020億円
ホームセンター(食品あり) 4社 14.60 6.62 616億円

食品扱いのない小売業の詳細

業種 サンプルサイズ 物流原単位(kg/万円)
平均値(μ)
標準偏差(σ) 9万トンボーダーライン
アパレル 14社 1.35 0.84 6,688億円
家電量販店 8社 1.98 1.36 4,549億円
ドラッグストア 2社 0.42 0.45 2兆1,514億円
ホームセンター 5社 5.68 4.78 1,584億円

付録:特定荷主に該当する事業者の売上高の規模の目安

全国貨物純流動調査(物流センサス)は、国土交通省が実施する、我が国の貨物輸送の実態を把握するための最も大規模かつ網羅的な統計調査です。

JILS独自調査との違いについて

本ページの分析結果と、物流センサスの平均値には差異が見られます。ご利用にあたっては、より自社の実態に近い物流原単位を参照いただけますと幸いです。これは、調査の目的と対象範囲の違いによるものです。今回のJILS調査では調査対象が上場企業に限定されている点、物流センサスでは業種ごとの原単位のばらつき度合い(標準偏差)
のデータは公表されていない点などをご留意ください。

  • 物流センサスは日本全国を対象としたマクロ統計です。
  • なお、「9万トンボーダーライン」は、JILSにて独自に原単位をもとに算出したものです。

製造業・卸売業における物流原単位(物流センサスより)

業種 出荷額・販売額1万円当たり
出荷量(kg/万円)
出荷額・販売額1万円当たり
入荷量(kg/万円)
第一種荷主9万トン
ボーダー(億円)
第二種荷主9万トン
ボーダー(億円)
【製造業】
食料品製造業 30.33 35.45 296.76 253.89
飲料・たばこ・飼料製造業 61.69 63.20 145.89 142.40
繊維工業 10.45 11.07 860.84 813.10
木材・木製品製造業 84.15 96.37 106.95 93.39
家具・装備品製造業 19.30 19.94 466.24 451.37
パルプ・紙・紙加工品製造業 62.67 77.29 143.60 116.45
印刷・同関連業 25.13 27.62 358.18 325.90
化学工業 42.79 49.00 210.32 183.66
石油製品・石炭製品製造業 173.31 183.00 51.93 49.18
プラスチック製品製造業 14.44 15.38 623.20 585.25
ゴム製品製造業 14.79 17.12 608.72 525.56
なめし革・同製品・毛皮製造業 2.81 3.45 3,201.60 2,609.75
窯業・土石製品製造業 671.65 669.48 13.40 13.44
鉄鋼業 93.15 131.33 96.62 68.53
非鉄金属製造業 22.18 24.43 405.79 368.43
金属製品製造業 20.94 21.87 429.87 411.50
はん用機械器具製造業 8.34 9.19 1,079.58 979.51
生産用機械器具製造業 6.00 6.17 1,500.07 1,457.87
業務用機械器具製造業 3.53 3.70 2,551.09 2,431.04
電子部品・デバイス・電子回路製造業 1.31 1.43 6,880.20 6,286.47
電気機械器具製造業 5.85 6.19 1,539.22 1,454.48
情報通信機械器具製造業 1.27 1.34 7,080.81 6,714.26
輸送用機械器具製造業 9.27 10.54 970.48 853.97
その他の製造業 7.73 8.10 1,164.42 1,111.64
製造業(小計) 45.56 50.13 197.55 179.53
【卸売業】
各種商品卸売業 0.10 0.10 88,035.06 88,136.79
繊維品卸売業 0.62 0.58 14,417.46 15,509.73
衣服・身の回り品卸売業 0.99 1.04 9,078.71 8,654.45
農畜産物・水産物卸売業 10.57 10.81 851.69 832.73
食料・飲料卸売業 12.83 12.99 701.51 692.91
建築材料卸売業 33.90 34.25 265.45 262.78
化学製品卸売業 2.28 2.28 3,948.53 3,945.94
鉱物・金属材料卸売業 9.61 9.64 936.56 933.24
再生資源卸売業 147.10 141.68 61.18 63.53
産業機械器具卸売業 1.48 1.45 6,085.82 6,189.97
自動車卸売業 1.83 1.85 4,928.88 4,857.50
電気機械器具卸売業 0.76 0.71 11,806.67 12,617.04
その他の機械器具卸売業 0.57 0.58 15,856.91 15,494.77
家具・建具・じゅう器卸売業 6.48 6.66 1,388.59 1,351.54
医薬品・化粧品卸売業 1.59 1.64 5,669.77 5,479.32
その他の卸売業 4.94 5.06 1,822.06 1,778.11
卸売業(業種格付不能) 48.23 47.96 186.60 187.65
卸売業(小計) 7.93 7.96 1,135.63 1,131.11

注記:
・9万トンボーダーは、年間貨物輸送量が9万トンに達する年間売上高の基準値を示します
・第一種荷主:自らが荷送人となる貨物輸送、第二種荷主:自らが荷受人となる貨物輸送
(出典)全国貨物純流動調査 2021(令和3)年調査表Ⅰ-1-4 産業業種別各種出入荷量原単位 を元に作成

今回の独自調査と従来の物流センサスの物流原単位を比較した結果、業種によっては企業ごとに大きなばらつきがあることが判明しました。ここから、個別企業においても、売上高を基準とする物流量推計を入口として、詳細な測定が求められることが確認されました。

今後もJILSでは、荷主企業の物流量算定に向けて、お役に立てる調査および情報発信を進めて参ります。最新情報はJILSホームページをご確認ください。

【物流統括管理者連携推進会議 事務局】
  公益社団法人 日本ロジスティクスシステム協会 JILS総合研究所
  担当者:三谷(みたに)・松井(まつい)まで
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