今取り組むべき国際物流DX~対談から見えた示唆とトレンドを踏まえたDX実践のポイント~/連載コラム
第1回と第2回の対談では、荷主およびフォワーダーのそれぞれの立場から国際物流DXにおける課題や展望についてお話を伺いました。それぞれ簡潔に要約すると、多くの企業に共通する示唆が見えてきます。
ハービット株式会社 代表取締役 仲田 紘司 氏
東京大学および同大学院卒業後、日本郵船に入社。コンテナ船の営業として輸出入・三国間等数十社の荷主・フォワーダーを担当。既存産業のデジタル化への課題感からアクセンチュアに入社し、DX案件を中心に業界横断で多数の大手企業に対するコンサルティングを経験。プラグ・アンド・プレイ・ジャパンにて大手企業のオープンイノベーション支援を経て、現職。JILS国際物流強靭化推進研究会メンバー
第1回 コロナを経た今、DXの成功に必要な取り組みとは? 第2回 フォワーダーのDX事例から考察する荷主のDXニーズ 第3回 今取り組むべき国際物流DX<今回> |
<荷主>
- 日本企業の国際物流における最大の課題として「SCMと物流の分断」が挙げられる。物流はあくまでSCM全体の一部であり、物流単体の部分最適ではなくSCMにおけるロジスティクスとして全体最適の観点からその機能を戦略的に再設計する必要がある
- SCM全体の戦略とその一部としてのロジスティクス戦略の実行・実現においては、フォワーダーの活用も検討に入れることで自社リソースをより高付加価値の戦略的業務に特化させることができる。業務をインソース(内製)で実施するコア業務とアウトソースを検討するノンコア業務に切り分け、後者を自社戦略の実現に必要な対応が可能なフォワーダーに委託し、意思決定の質とスピードを上げていく
<フォワーダー>
- デジタルフォワーディングサービスの自社開発システムを立ち上げた当初は社内外に理解されず、ROIを定量的に示しにくいという難しさもあるが、5年後、10年後の企業価値や競争力を創出するという観点からバックキャストで本事業に取り組んでいる。特に「何もやらないことが5年後、10年後にリスクになる」と考えており、ここ数年のマーケットへのデジタルフォワーディングサービスの浸透度合を見てもやる意義がある事業だと判断している
- 特に日本では人材不足が深刻化しつつあるため、今後ますます非生産的な業務が自動化され、より付加価値の高い業務にリソースを集中できることが重要となる。トラッキングはフォワーダーとして提供が当たり前の機能になりつつあり利用も拡大しているため、より付加価値の高いサービスを提供するフェーズに入っている
それぞれ立場は異なりますが、いずれも「DXの目的=得たい成果」から逆算したアプローチであるという点で共通しています。すなわち、まず得たい成果を明確にしたうえで、必要なソフトウェアの選定や自社開発の範囲などを決定し、他部門も巻き込んで着実に実行していくというアプローチが、成果の実現にとって不可欠となります。
DXの本質とは何か
DX(デジタルトランスフォーメーション)は、単なる業務改善ではありません。業務改善が「現状のやり方を5%改善する」ことだとすれば、DXは「そもそもこの業務は必要か?」「仕組み自体をどう変えるか?」を問い直し、仕組みやサービスモデル自体を抜本的に変革する取り組みです。
国際物流領域でDXが難しい理由の一つは、関係するプレイヤーの多さと、業務間の連携の複雑さにあります。荷主、フォワーダー、船社、倉庫業者、通関業者、3PLなど、多くの関係者が関与し、情報や責任が分散しています。加えて、多くの業務が属人化しており、「誰が何をやっているのか分からない」「変えるには現場の理解が必要」といった課題が根深く存在しています。
このような状況下でDXを成功させるためには、以下の3つの要素が不可欠です。
- 野心的な目標の設定:単なる業務効率化ではなく、将来のSCM像を見据えた上で変革目標を描くことが重要です。
- 現実的なステップの設計:すべてを一気に変えることは現実的ではありません。小さな成功体験を積み重ねる段階的な進行が鍵となります。
- データの価値化:デジタル化の目的は単なる記録ではなく活用です。現場やマネジメントの意思決定に役立つデータの整備と活用が求められます。
国際物流(海運)における近年のトレンド
現在は「VUCA*の時代」と言われるように、ビジネス環境の複雑性が増し、不確実性が高く変化が激しい状況が続いており、グローバルに物理的なモノを輸送する海運においてもその傾向が強くなっています(*Volatility/変動性、Uncertainty/不確実性、Complexity/複雑性)、Ambiguity/曖昧性)。
日本の荷主・フォワーダーにとっては、アジアをはじめとする他国経済の発展によって寄港する港は増加、日本発着貨物のリードタイムは昔よりも長くなっており、納期を守れる輸送を手配する難易度はますます上がっています。それに加えて、以下のトレンドなどにより以前よりもリードタイムが読めない・長くなるといった影響が出ています。
- 地政学リスクによる航路リスクの顕在化:2023年末からフーシ派による紅海での商船攻撃が頻発。多くの貨物船がスエズ運河の通航を回避して喜望峰ルートに迂回するなど対策を講じるが、迂回によりリードタイムは10日ほど長くなる。スエズ運河の迂回は2025年の現在も継続
- サイバー攻撃の増加による船・港インフラの脆弱性露呈:従来はIT導入が遅れていた業界だが、IT化が進みシステム間の接続性が向上するに伴い、サイバー攻撃リスクも上昇。アメリカの沿岸警備隊によるレポートでは、2024年にインシデント件数は増加し、サイバー攻撃の頻度と深刻度は拡大している。脆弱性や脅威へのセキュリティ対策が不可欠
- 貿易政策・関税によってもたらされる不確実性:「トランプ関税」など政策によるロジスティクスへの影響の振れ幅が大きく、海上運賃高騰やサプライチェーン再編など荷主やフォワーダーが短期間で意思決定し対策を講じる必要が出てくる可能性がある
今取り組むべき国際物流DXとは ― 実践に向けたポイント
上記のような近年の海運業界の変化・トレンドの中で、荷主やフォワーダーが優先して取り組むべき国際物流DXとは何でしょうか。それは、「変化に強く、可視性が高く、機動的に動けるロジスティクスの構築」に集約されます。
具体的には、重要性が高い以下3点がポイントとなります。
- サプライチェーン可視化の高度化:輸送ステータス、到着・遅延予測をリアルタイムで一元管理、属人的な判断ではなくデータに基づいて異常や遅延を早期に検知し、意思決定に活かす仕組みを整える。
- BCP(事業継続計画)としての輸送ルート多様化:単一路線やキャリア依存を避け、複数の港・航路・モード(海上・航空・鉄道)を組み合わせることで、突発事態でも安定供給を維持できる体制を築く。
- デジタル書類(e-BL等)・ワークフローの自動化:貿易書類の電子化、人手による転記作業や承認フローの自動化により、人的エラー削減・処理時間短縮・コンプライアンス強化を同時に実現する。
おわりに
今回は過去2回の対談での荷主目線・フォワーダー目線を踏まえて、今取り組むべき国際物流DXにおけるポイントに触れていきました。
不確実性の高い状況だからこそ、アナログなままで従来通り一部の方の属人的な判断に頼るのではなく、DXを進めデータに基づき社内の誰でも同じ判断ができるような組織に生まれ変わるべく変革を推し進めることが重要と考えています。
ご不明点や「もっと詳細を聞きたい」等あればいつでも気軽にお問い合わせください。
一緒に国際物流のDXを進めて、業界全体を変革していきましょう!