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「ロジスティクス強調月間2024」サポーターからの提案―株式会社オプティマインド

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運送会社と荷主企業それぞれの課題に最適な“解”をAIで探し出す

最新のAI技術を応用して、物流の現場改善に役立つサービス提供を展開している株式会社オプティマインド。深刻な人手不足に加え、2024年問題など様々な課題を抱える物流の現場を、どのように支援しようとしているのか。技術と実社会の架け橋になりたい、という強い思いでこの会社を創設した松下健氏(代表取締役社長)にお聞きしました。

株式会社オプティマインド
名古屋大学発のITベンチャーとして2015年設立。「世界のラストワンマイルを最適化する」というビジョンのもと、配車計画の作成からリアルタイムの動態管理等、事業の効率化やコスト削減を支援する『Loogia(ルージア)』を開発、提供。

代表取締役社長 松下 健 氏
名古屋大学大学院 情報学研究科 数理情報学専攻 博士後期課程を経て、現在は同大学大学院 情報学研究科 協力研究員。大学院在学中にオプティマインドを設立し、これまでにトヨタ自動車、三菱商事などから約31億円を資金調達。2020年、Forbes30 under 30 Asia 2020に選出。

「AI×物流」で業務を標準化する

――御社の特徴についてご紹介いただけますか。

従業員の勤務シフトや列車などの運行ダイヤなどを作成する際に、数学の理論が応用されていることがあります。それは組合せ最適化というAIの構成技術の一種で、例えば全従業員の出勤希望を最大限に加味したシフト作成や、ラッシュアワーに増加する乗客を安全かつ効率的に運ぶ高精度なダイヤ作成が自動で可能となります。私は、そうしたAI技術を使って社会課題を解決したいと考え、オプティマインドを設立しました。

起業後、ある運送会社で配車係の方とお話しする機会がありました。そのとき「この作業はコンピュータでは無理、AIは自分の頭の中にあるよ」と冗談混じりにおっしゃるのを聞いて、私の中に挑戦したい気持ちが湧き上がりました。そのあと何度も訪問して配車のイロハから勉強するとともに、業務の流れや進め方をお聞きしながらデータを集め、AIに落とし込んで評価検証などを進めていました。そのさなかの2017年、「物流クライシス」が社会問題として注目されるようになりました。これから物流が大きな社会課題の1つになる。それなら当社が技術力を結集して解決を支援していきたい。その思いが輸配送最適化ソリューション『Loogia(ルージア)』につながっています。

――物流業界の課題に対して、御社はどう向き合っているのでしょうか。

当初はラストワンマイルの輸配送課題の解決をテーマに、プロダクトの開発をしていました。例えば80カ所へ配送するのにどの順番で回るのが最短ルートになるか、といったことです。しかし、それだけでは解決できる課題に限りがありました。店着時間を考慮したり、ドライバーの出勤計画も関係するし、センターでの積み直しの要件もあるだろう、というように解決可能な業務形態をどんどん広げていき、現在では『Loogia』の対応範囲は輸配送全体にまで広がっています。

個々のお客様に視点を移すと、抱えている課題はまちまちで、しかも1つとは限りません。それぞれの課題について細かく状況を伺い、最適な解決プランやサービスをご用意し、さらにお客様にとって最大限の効果が出るようなご提案に努めています。

――運送会社では今、どのような課題が多いでしょうか。

運送会社では人材流動性に対するお悩みが多いと感じています。若い人の転職率が高く、高齢化や人手不足の中、これまでの配送品質を可能な限り維持しながら利益をいかに出すか。解決策の1つとしてAIなどIT技術が有効だと経営層の皆様は認識されており、ご相談や依頼が増えています。経験やノウハウに頼りがちな業務が多い中で、特に配車はその最たるケースです。私たちの『Loogia』によって、業務の平準化や事業の持続可能性に貢献できることをお伝えしています。

――運送会社での課題解決事例を教えてください。

全国規模の運送会社様において、2024年問題を背景とした、配車担当と積み込みスタッフ、ドライバーの分離(分業化)の対策として、配車や配送業務の標準化を進めています。近年、ドライバーの就業時間短縮を目的に、配車や早朝の積み込み作業を倉庫スタッフなどが代行する分業化が進んでいます。しかし配送のノウハウや土地勘をあまり持たない人員が行うため、配送順を考慮した積み込みが難しい、一方で配送順序はドライバーの頭の中にある、という状況が存在しました。

その問題を『Loogia』のAIで解決する取り組みを行いました。日々の荷物や出勤するドライバーに合わせて、どのトラックにどの荷物をどの順番で積むか、そしてどのルートで配送すればいいか、すべて『Loogia』が計算してリスト化します。倉庫スタッフはそれを見て積み込み作業を行い、ドライバーはそのまま計算されたルートで配送します。この運用を主要拠点から段階的にスタートさせ、ご評価をいただいております。


『Loogia』を活用したソリューションのイメージ

2024年問題を契機に荷主企業からの問い合わせも増加

――荷主企業からの相談が増えているそうですが、その課題はどのようなものでしょうか。

昨年あたりから、2024年問題を背景に、荷主企業は、物流企業からの値上げ要求にも理解を示し受け入れる流れが増えてきています。結果として個あたり物流コストが高くなることで、物流コストという存在が、経営課題の1つとなりはじめています。とはいえ、今後も継続的に物流コストが上昇していくとなると、商品販売価格も上げざるを得なくなるかもしれない。そんな中で、まずは自分たちの物流コストが適正なのかどうか把握したい、改善の余地があるのか知りたい、といったご相談を多くいただきます。その背景には、3PLなど外部に物流を委託していることで、正確なコストが捉えにくくなっていることもあります。

このような場合、『Loogia』で全体の配送状況を見える化し、キャパシティ予見を定量的に算出することで大きな改善につながるポイントが見えることがあります。運送会社や3PLなどの委託先企業にもデータ提供のご協力をいただき、AIによって様々なシナリオでのシミュレーションを行うことで、適正なコストを割り出し、どの現場要件を緩和すれば、どれくらい改善が見込めるか、の現実的な改善策を提示しつつ、実際に現場にどのプランを落とし込むかの意思決定ができるレベルでレポートにまとめ、CLOなど経営層にご提供しています。

――荷主企業での課題解決事例をお聞かせください。

店舗配送系のある物流センターで、年間約4,000万円程度の物流コスト削減を実現した事例があります。最初に現場の配送要件を全て維持した状態でシミュレーションしたところ、全体のコストはほんのわずかしか下がりませんでした。これはつまり、現状の配送品質を維持した状態では、今のコストが「最適」であるということが定量的に分かったということになり、これ以上のコスト削減を無理に進めることは乾いたぞうきんを絞るような状況だったのです。

そこで私たちは、配送要件を変更したら改善できないかと考えました。配送先店舗の店着時間指定に着目し、配送効率の低下に影響を与えている店舗で納品時間にある程度の幅を持たせたらコスト改善できるのでは、との仮説を立て、AIでシミュレーション。4時間の幅にすれば最大で年間約4,000万円削減できるというシナリオが出てきました。

店着時間の変更はその店舗オペレーション(着荷主)に影響が出るため、他部署からの承認を得にくいのですが、具体的なシナリオと、定量的な削減効果の提示ができたことで、様々なステークホルダーの理解や協力を得る一助となったと思います。結果としてこの改革プランは物流部から経営に上げられ、採択・実行されて結果にもつなげることができました。

――提案にあたって大切にしていることは何でしょうか。

荷主のお客様に対しては、物流コストを下げることだけを目的化することなく定量的な分析をすることで、様々なステークホルダーと対話をするための共通言語化をステップ1とすることを提案させていただいています。いきなりコスト削減を目指して走り出しても、現場や委託先に警戒されてしまうケースもございます。また、現状が高効率な配送である可能性もあります。定性的な議論ではなく、データドリブンで「現状を知り、共通認識化し、実現可能な解決方針を関係者と一緒に策定していく」ための下地づくりを意識しています。

これからの重要課題は、データ連携

――今回「ロジスティクス強調月間2024」のサポーターに参画いただいた経緯をお聞かせください。

ある地方を旅行した際、夜にたまたま入った店舗の商品棚がガラガラでした。そこは観光地ではありますが過疎地でもあるので、様々な事情から1日あたりの納品頻度を下げざるを得なかったのだと思います。物流観点(供給側)だけではなく需要側の観点もありますので、これだけを見て「課題だ」というのは違うと思いますが、とはいえ商品を選ぶことができないその棚を見ながら、物流クライシスの始まりを肌で感じました。変化は、関係者全員で意識を変えていかないと起こせません。まさに今年のロジスティクス強調月間のテーマ「ロジスティクスで未来を拓く ~『変革の意識』がその鍵だ~」の通りで、今回の参画はそこに共感したからです。また昨年、強調月間に参画させていただいた経験から、さらにもう一歩踏み込んだ活動がしたいと思ったのも理由の1つとなっています。

当社は物流事業を行っている当事者ではありませんが、だからこそ、別け隔てなくこの業界の横のつながりを広げていけると自負しております。荷主企業同士を、さらには荷主企業と運送会社もつなぐハブのような活動をしていきたいと思っております。

――物流関連2法の改正もあった中で、今後に向けた目標をお聞かせください。

今回の法改正の主旨は、荷主企業と運送会社が一体となってさらなる効率化を進めることにあると私たちは捉えています。その一環として、様々な企業が進めていることの1つに「共同配送」や「グループ内配送」の仕組み化があります。

そこで課題になるのが、各企業で保有しているデータの粒度や形式が異なることです。共同配送化するには各社のそうした情報を連携する必要がありますが、企業によってデータ形式が違うため連携が極めて困難で、それが共同配送ネットワーク化の大きなネックになっています。加えて、そもそもデータ化されていないオペレーション上の様々な暗黙知も複雑に絡んできます。

解決の方策はいくつかありますが、私たちは各社からのデータを咀嚼して共通形式化し、自動でつなげる新しい仕組みを展開しています。各社の配送データを共通形式化し、その上で共同配送化できる便や行き先を判断し、配車計画を算出する。それが可能になれば各社で運用している異なる物流システムの連携も容易になりますし、そうなれば共同配送も広がるはずです。

戦国時代の戦において、将軍を支える軍師という存在がありました。全体の状況を判断し、自軍の戦力(リソース)を把握し、その中で勝ち(物流の維持)を収めるには兵や武器をどのように差配すべきか。軍師は全体の状況を俯瞰して最善の戦略や戦術を進言します。そのような役割を、ITやAIの技術力を武器に、私たちが担っていければと考えています。

(2024/10/18掲載)

本インタビューは機関誌「ロジスティクスシステム」2024年秋号(10/28発行)に掲載予定です。

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