本文へスキップします。
協会紹介
会員
情報提供
その他
教育研修
交流会
講演・発表会
展示会
調査研究
テーマ研究
表彰制度
ライブラリ
2024年は我が国の物流にとって、大きな転換点になるのではないでしょうか。「物流の2024年問題」がネット上のバズワードとなり、物流が抱える課題に対する社会の認知が高まりました。これまで、当たり前に届いていた荷物が今後はそうではなくなると、企業のみならず消費者も、自分ごとと認識し始めていると感じています。
さらに、タイミングを合わせたように、EC物流のリアルとサスペンスを描いた映画「ラストマイル」が大ヒットしています。公開後28日間の興行収入は約40億円、観客動員は約280万人を突破し、物流の現場の認知を高めています。
こうした中、国際物流総合展2024が9月10日から9月13日の4日間にわたり、東京ビッグサイト(国際展示場)東1~8ホールにおいて開催されました。残暑が厳しい中で開催された、国際物流総合展2024の模様についてレポートします。
熱気があふれる国際物流総合展2024の光景
まず、全体の総括から始めます。今回の国際物流総合展2024では「持続可能な道、物流の明日を育む」をテーマに、内外の最新物流機器・システム・情報等のソフトとハードを一堂に結集し、交易振興・技術の向上・情報の提供・人的交流等を促進することを目的として開催されました。
出展者数は580社・団体を数え、共同出展を含む3,241のブースが出展されました。4日間の来場者数の累計は84,193名を数え、一昨年に開催された、国際物流総合展2022の来場者数60,547名と比較すると約40%も増加しました。出展者数も前回の526社・団体/ 2,597ブース(共同出展含む)から増加し、会場は熱気に溢れていました。
我が国では、少子高齢化と人口減によって様々な領域の担い手不足が顕在化しています。公共交通機関のサービスやインフラの維持が困難となり、路線バスの路線廃止のニュースも多くの人が耳にしています。
そうした中、今回の国際物流総合展2024では、個々の企業や業界の垣根を越えた協力と、革新的なテクノロジーの活用、低炭素で効率的な物流ネットワークの構築などによって我が国が抱える物流の課題を解決し、持続可能な物流の実現を目指して開催されました。
展示会場とは異なる会議室棟で行われたロジスティクス未来フォーラム2024
国際物流総合展2024では、展示のみならず多様な講演プログラムの「ロジスティクス未来フォーラム2024」も同時開催されました。9月10日に実施された「物流革新に向けたファーストステップ ~必要な時に、必要なモノを運ぶ、持続可能な物流への道~」には経済産業省をはじめ、これから我が国の物流の方向性をリードするプレイヤーの方々が登壇し、物流の課題と今後進むべき方向について、講演とパネルディスカッションが行われました。
このセッションでは「『物流の2024問題』などへの対応について」や、「ロボットフレンドリーな環境への実現に向けて」など経済産業省における取り組みや、物流倉庫におけるロボット利用の拡充と標準化を目指す「物流倉庫TCの活動について」、「モーダルコンビネーションに向けたJR貨物の取り組み」について講演がなされました。
こうした講演におけるキーワードは標準化と共有であり、フィジカルインターネットの社会実装によって物流供給の維持継続を図ることが提唱されていました。また、担い手不足の課題解決としてロボットの利活用が提唱される一方で、各社最適でカスタマイズされ、導入コストがアップし、標準化から外れる状況が生まれているそうです。
今後、ロボットの社会実装を促進するためには、「ロボットに合わせてオペレーションを標準化する『ロボットフレンドリー』な環境構築が大切だ」と、登壇者の1人は話されていました。
インクルーシブな観点から実用化された倉庫作業専用モビリティ
続いて、会場全体で印象に残った点をレポートします。あくまで筆者の私見ですが、全体的な印象として「人にやさしい物流」を感じました。具体的には、省人化、自動化を加速させる製品やサービス、労働環境の改善やこれまで提供されてきた各種のツールを統合するものや機能のはざまを埋め、利便性を高めるソリューションなどが目立ちました。さらに、物流とは異なる領域からの出展も多くありました。
例えば、大型のシーリングファンを出展していた企業は、倉庫の天井に設置し空気を対流させることで、体感温度を下げる効果を謳っていました。夏の常温倉庫は極めて暑く、現場スタッフにとっては大変過酷な環境です。開口部が少ない倉庫には熱がこもり、特に屋根の直下のフロアーは直射日光によって気温が上昇します。もともと、この製品は米国の畜産農家向けに提供されており、暑さによる搾乳の生産高低下の改善に活用されているそうです。
また、障がい者も物流の現場で働くことができる倉庫作業専用モビリティを提案している企業がありました。この機器は座面が上下することで、座ったままピッキングが可能です。ピッキングした商品は身体の前のカゴに格納でき、移動も手に馴染みやすいコントローラを感覚的に動かすだけで、意のままに動かすことができます。実際に筆者が試乗したところ、前進・後退、左折、右折、その場での回転をストレスなく行うことできました。事前のトレーニングがなくても運用できる点は、従業員数の規模により一定数の障害者の雇用が義務付けられた障害者雇用促進法が施行された現在、担い手の確保やインクルーシブの観点からも大きな可能性があると感じました。
遠隔でフォークリフトのオペレーションを行う
荷役の省人化・自動化の課題を背景に、進化したフォークリフトも数多く展示がありました。自己位置情報の把握や補正を高精度に実現した自動運転のフォークリフトは、スタッフがいない夜間でも自動運用が可能です。そのため、夜間の人材確保とシフトの課題を抱える現場の課題解決にも寄与できると思いました。
また、遠隔からオペレーターがフォークリフトを運用するソリューションの展示では、リモート環境から実車のようにフォークリフトを運用していました。現場に行かずとも、荷役が可能な方法は、例えば定年で退職した熟練のオペレーターの経験と知見を有効に活かせるのではないでしょうか。
数が多かった物流不動産の展示
全国で物流不動産の建設が相次いでいますが、今回の物流展でも多くの出展者がありました。特に不動産業界から参入したマルチテナント型の施設が多数紹介されていました。
そうした中、ある物流不動産の企業では、倉庫を単なる箱モノとして提供するのではなく、地域社会との交流やダイバーシティへの対応など、これまでの業界の常識とは反対とも言える取り組みを行っていました。この企業の担当者曰く、これまでの物流倉庫はどちらかと言うと排他的で、地域社会と境界が存在していたそうです。確かに大型のトラックが行き交い、灰色の大きな箱が鎮座する光景は一般の人にとって、危険で近づきにくい存在だったのかもしれません。
一方、この企業が手がける施設では、カフェや託児室、オープンスペースなどが設置され、働く女性にもやさしい環境です。むしろ女性が口コミで、そこで働くことを周囲に自慢できるようなデザインを意識していると、その担当者は説明してくれました。女性目線も加味された施設には、緑豊なオープンスペースもあり、地域住民との交流イベントやフェスティバルが開催され、地元の小中学校の社会科見学のコースでもあるそうです。
また、施設内のコミュニケーションスペースでは、タバコ部屋でなされる情報交換のごとく、荷主同士が直接交流できるようになっています。自然発生的な接点から保管スペースを融通しあったり、物流波動の平準化に寄与したりしているそうです。
筆者が千葉県流山市にある大型の物流施設を取材した際に驚いた光景があります。それは倉庫内の共用スペースのカフェで地元の高校生たちが、放課後に勉強をしていたことです。こうしたことからも、これまでの物流とは異なる取り組みが進んでいます。
人にやさしい物流を感じた展示ブース
3日間にわたって会場を歩き感じたことは、新しい物流のプレイヤーが増えたことと、物流に対する企業の意識の変化でした。これまでの物流展といえば、マテハンや各種の資機材、倉庫やトラックといったハードウェアが中心となるイメージでした。しかし、今回は他業種からの参入や、SaaSをはじめとする新たな企業を多く目にしました。
物流は経済活動のインフラでありながら、これまで注目される機会が少なかった領域です。しかし、これからの人口減少の中で、物流に対する認識が大きく変化し、社会を支える重要な要素として注目を浴びていくのではないでしょうか。国際物流総合展2024では、そうした変化を感じることができました。
執筆者プロフィール 蜂巣 稔 物流ライター。外資系IT企業ならびに日本コカ・コーラで18年以上にわたりSCMの職務に従事。日本コカ・コーラでは原料の供給計画、在庫最適化、購買調達、輸送・倉庫管理などSCMの上流から下流まで精通する。通関士、JILSグリーンロジスティクス管理士。葉山ウインズ(同)代表社員。
ページに戻る