「荷主と同じ目線」で話せる人材へ 人が育つ組織が、企業の競争力を高める
「荷主企業の担当者との会話や提案に手応えを感じる声が上がった。若手社員からは『現場の見え方が変わった』『学んだ知識を現場で使えないか、同じ講座を受けた先輩と話している』という反応が聞かれるようになった」
受講の成果を尋ねたとき、須藤氏が挙げたのは、こうした仕事上の変化でした。学びが顧客との対話や現場改善に戻り、社員同士の共通言語になり始めています。
その舞台は、株式会社ギオンの企業内大学「祇󠄀園塾」。2026年で5年目を迎え、入塾者は例年35~40人ほど。役割別のプログラムに日本ロジスティクスシステム協会(JILS)の講座を組み込み、修了を昇進・昇格の条件の一つとしています。どのようにして人材育成を仕組みにしたのか、須藤氏に聞きました。
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株式会社ギオン
上席執行役員 管理本部長 須藤 亮平 氏
講座活用事例インタビュー
※所属・役職は取材当時のものです。
株式会社ギオン
1965年創業。首都圏を起点に、国内約100カ所の拠点と約1,500台の車両による幹線輸送ネットワークで全国をカバーする総合物流企業。コールドチェーン物流を得意とし、3PL、個人宅配、廃棄物の収集・運搬やリサイクルの中間処理なども手がける。動脈物流と静脈物流をトータルで支える「循環型総合物流」を掲げている。
「背中を見て覚える」だけでは、「点」から出られない
――人材育成を経営の重要課題に位置づけた背景から教えてください。
私が新卒でギオンに入社した約20年前は、現場で先輩の背中を見て仕事を覚えるのが一般的でした。自分が担当する業務の知識は身につきますが、サプライチェーンを含めた物流全体のつながりまでは、なかなかイメージできません。知識が自分の持ち場という「点」にとどまりやすかったのです。
今、物流現場はかつてない速度で変わっていっています。機械化やデジタル化が進み、領域は広がり、人に求められる役割も変わる。その中で、物流事業者として提供できる価値を見直さなければならないと感じました。
働く人が専門知識を習得し、優れた判断力を身につけることが、企業の競争力につながる。そこで当社は人材育成を経営の重要課題に置き、「どこに行っても通用する人材が育つ会社」を目指すようになりました。
講座を活用して、学びが続く仕組みをつくる
――企業内大学「祇󠄀園塾」は、どのような考えで設計しているのでしょうか。
「祇󠄀園塾」は、当社の人材育成の中心となる企業内大学です。以前、次世代管理職の育成に使っていた名称を引き継ぎ、内容を大幅に組み直して2022年に復活させました。現在は毎年、ベーシックコースとマネジメントコースの2コースを開講しています。
役割に応じて物流・ロジスティクスの共通知識を身につけられるよう、JILSの3つの講座もプログラムに組み込んでいます。ベーシックコースはリーダー、チーフ、サブマネージャーを対象とし、マネジメントコースはマネージャーが主な対象です。

物流の専門知識だけでなく、外部講師によるプレゼンテーションなどのビジネススキル講座も設けています。これらを組み合わせ、専門知識と業務に必要なスキルの両面から社員のキャリアアップを支援しています。
――学びを制度として根づかせるために、どんな仕組みを設けていますか。
学習内容を標準化し、必要な知識の土台をそろえるため、プログラムを毎年見直しています。昨年度からは「祇󠄀園塾」の修了を昇進・昇格の条件に加えました。欠席や提出物の遅れが一定数に達した場合は退塾とするなど、受講を形だけにしない運用も徹底しています。
同時に、参加しやすい仕組みが必要です。理想は「学びたい人は誰でも」ですが、同じ現場からの希望が多いと業務調整が難しいこともあるため、現在はベーシックコースに推薦制を取り入れています。それでも入塾者は例年35~40人ほど。「自分たちも変わらなければ」という意識を持つ社員が増えていると感じます。
さらに、知識の基準をそろえることと、人の個性を伸ばすことは別です。社員の価値観や強みは一人ひとり異なります。共通の土台をつくりながら、それぞれの良い面をどう伸ばすか。今後は、より個々に合わせた育成にも目を向けていきたいと考えています。

「点」の知識が「線」になると、顧客との会話が変わる
――社内教育にJILSの講座を組み込んだ理由は何でしょうか。
専門知識を学び、物流・ロジスティクス全体を体系的に理解できる点を重視しました。自分の業務を「点」として知るだけでなく、サプライチェーン全体を俯瞰し、点と点を「線」で結べるようにする。その視野が、現場での判断や顧客への提案の土台になります。
JILSの講座は、荷主企業から受講する方も多く、立場の異なる参加者と意見を交わしながら課題に取り組めることも大きいですね。社内だけでは触れにくい他社の考え方や事例を知り、自分たちの仕事に必要に求められることが分かります。
――実際に、受講者の仕事はどう変わりましたか。
「物流技術管理士資格認定講座」を受講した社員からは、「サプライチェーン全体を学んだことで、荷主企業の担当者と同じ目線で会話できるようになった」「他社事例も知り、顧客と向き合う際の説得力や提案力が高まった」という声が上がっています。
新卒入社後、ベーシックコースで「ロジスティクス基礎講座」を受講した社員からも、「現場の見え方が変わり、改善に役立っている」「同じ講座を受けた先輩と、学んだ知識を現場で使えないか話し合っている」と聞きました。
受講者が明日から使える内容を持ち帰り、顧客との会話や現場での相談に結びつけている。そこに、学びを社内制度に組み込む意味が表れていると思います。
個人の変化が、受注と採用に波及し始めた
――個々の受講者の変化は、組織全体にどのような影響を与えていますか。
人材育成は、企業としての価値をつくり直す長期の取り組みです。組織全体で成果が見えるのは5年、10年先だと考えています。短期間で完成したとは見ていません。
それでも、変化は始まっています。ベーシックコースを修了した若手がマネージャーに昇格し、自分の現場の改善を積極的に手がけるようになりました。こうした人材が経験を重ね、さらに上の立場で活躍するようになれば、会社のあり方も変わっていくはずです。
すでに管理職として働く社員も、受講後に顧客への提案力が高まっています。それと並行して、大手企業が参加するコンペで当社が受注するケースも増えてきました。顧客の課題を理解し、根拠を持って提案する力が蓄積されている手応えがあります。
社内では、特にマネジメント層や経営層から「研修の効果を実感している」という反応も増えました。新卒採用でも、就職活動中の学生から「育成制度が整っている」「成長できる企業」と言ってもらえる機会が増えています。人を育てる姿勢そのものが、会社を見る理由の一つになり始めています。
学びの階段を、すべての階層へ
――今後、人材育成をどのように広げていく考えですか。
「祇󠄀園塾」には、さらに2つのコースを加えたいと考えています。一つは経営層を対象に幹部候補向けのコース。もう一つは、ドライバーや倉庫スタッフなど、より幅広い社員が学べるコースです。
全4コースになれば、現場から経営層まで、役割に応じて学べる階段ができます。各階層から変革に取り組める人材を継続的に生み出せる体制にしたいですね。
――物流業界で人材育成に取り組む方々へ向けてメッセージをお願いします。
物流業界が変革を迫られている今、人材育成にもスピードが必要です。一社の中だけで完結させず、外部の専門家や他企業とも手を組みながら、業界全体で「物流で働きたい」と思う人を増やしていきたいと考えています。ぜひ一緒に盛り上げていきましょう。

※取材は2026年7月24日に行われました。