コロナを経た今、DXの成功に必要な取り組みとは?~国際物流の専門家に聞く、大手日系荷主事例~/連載コラム
今回から3回の連載で、「国際物流DXの最前線」として荷主・フォワーダーの事例を交えながら、今取り組むべきグローバルサプライチェーン改革についてお伝えします。今回と次回は国際物流の専門家であるゲストを招いての対談形式、最終回は対談内容を踏まえた2025年に考えるべき国際物流DXのコラムを予定しています。既に国際物流DXやサプライチェーン改革に着手されている企業、これから取り組み予定の企業など、どちらにも有用な情報となるよう工夫したいと思いますので、国際物流に携わられている幅広い方に読んで頂けると幸いです。
初回は、ソニー株式会社で30年に渡ってグローバルサプライチェーンマネジメントとロジスティクスに従事され、現在サプライチェーンに関わるコンサルティングや事業支援を行うトップインサイト合同会社の代表を務められている三宅氏をゲストに迎え、日系の荷主会社の事例に触れながらDXの成否を分ける要因について考えたいと思います。
トップインサイト合同会社 代表 三宅 武志 氏
1990年ソニー株式会社入社、グローバルSCM物流の企画&実務領域を一貫して担当。本社物流機能や国内・海外工場・販社など各物流拠点で現場実務や改善業務に長く従事。国内工場&販社物流と輸配送、国際輸送パートナー戦略、欧州ハブ倉庫業務(オランダ)・欧州地域ソリューション企画、アジアパシフィック地域物流統括、タイおよびマレーシア物流関連会社社長など計13年間の海外業務を経て、2018年本社グローバル物流統括。2021年三井倉庫グループ会社事業執行役員を経て、2024年トップインサイト合同会社を設立。現在、製造業会社や物流会社サプライチェーンソリューションのコンサルティングと事業支援、JILS国際物流強靭化推進研究会コーディネーターなど活動中。名古屋大学経済学部卒。 ○企業WEBサイト(https://topinsight.co.jp)
【執筆】
ハービット株式会社 代表取締役 仲田 紘司 氏
東京大学および同大学院卒業後、日本郵船に入社。コンテナ船の営業として輸出入・三国間等数十社の荷主・フォワーダーを担当。既存産業のデジタル化への課題感からアクセンチュアに入社し、DX案件を中心に業界横断で多数の大手企業に対するコンサルティングを経験。プラグ・アンド・プレイ・ジャパンにて大手企業のオープンイノベーション支援を経て、現職。JILS国際物流強靭化推進研究会メンバー ○企業WEBサイト(https://harbitt.com)
ロジスティクスDXへの期待
仲田紘司氏(以下、仲田) 三宅さん年末にnoteを書かれてたじゃないですか?可視化の意義と実態という。僕もハートを押しといたんですけど笑
三宅武志氏(以下、三宅) 実はこの国際輸送の可視化って、私個人では2000年ぐらいからソニーでe-Logという自社開発したシステムがあって、国際輸送会社とつなげて利用して、その後2009年くらいから再び重要課題として外部システムツールを導入して取り組んだ。そういった意味で可視化自体は新しいことでもないし、2000年初頭からSCM※1 が広まって、物流組織の位置づけも個別最適から全体最適のロジスティクスに変わり、SCM観点で輸送可視化も脚光を浴びた。コロナ禍の混乱で重要性が再認識されて、一つ違うのはDXがだいぶ進んでスタートアップも含めて台頭してきたっていうこと。中身は範囲も精度も相当進化したと思うんだけど、ただ特に日系メーカーってSCMと物流が連携した全体最適はそんなに進化してない。そこにいきなりコロナが来て、SCMとロジスティクスが連結されていないから、積送在庫が見えない、可視化が必要だと言ってまた取り組み始めたんだけど、デジタル化は進んでも全体視点のDXの取り組みはまだこれからでそんなに進んでないじゃない?
仲田 そうですね。
三宅 進んでないところにコロナが来て、皆さん実態は変わってないのに最先端のツールを導入するというギャップがあって。まだ最先端のツールを使いこなして製販含めた全体最適のオペレーション計画に当てはめる基盤というか、実力値が上がってなくて。
仲田 そうですね、ありがとうございます。すでに導入したところは今後も継続できるのか?あるいは物流会社のコントロールタワー的なソリューションに変わっていくのか?みたいなところもnoteに書かれてたと思うんですけど。これについて聞かせてください。まあコロナで盛り上がってみんなわーっと導入したのはありつつ、ただ、やっぱり導入が目的みたいになっていると失敗するねっていうのは、当然ある話だと思います。
三宅 実は期待している部分もあって、今までなんだかんだ言っても物流だけ取り残されて、SCMはERP※2 を導入したりして需給計画系や実行系システムは進化してたんだけど、物流は需要とか生産と同様に全体最適計画のモジュールにならず、結局そんなに変わらなかったわけですよ。で言葉も「ロジスティクス」からまたみんな「物流」っていう組織名称が主流になって、どっちに行くのか、もうごちゃごちゃになって。「物流」という言葉を使うと結局倉庫と輸送の現場オペレーションの話題ばっかりになっちゃうでしょう。なのでコロナがあって、こういうDXのツールが出たのをきっかけに、外圧じゃないけど今までやってきたマニュアルのやり方とか物流個別の効率化や機能デザインをこの機会に見直して大きく変えるチャンスかな、と。物流がSCMのデジタルプラットフォームに組織も機能も組み込まれて計画系と実行系がまわる、それをちゃんと戦略立てて効率よく進められれば、進化していくんだけど。それをやらずしてデジタルツールだけを入れて物流管理だけに活用するとなると投資の妥当評価や費用対効果から社内承認も難しい。デジタルツールを使って物流を再びロジスティクスへ、SCMの仕組みにつながるSCM物流になるように、仲田さんのような物流DX会社に頑張ってもらって、荷主会社の物流機能や役割を一段上に上げていってほしい。それがトランスフォーメーションと思う。
仲田 ありがとうございます。おっしゃる通りだと思いますし、がんばります。
三宅 だから日本ロジスティクスシステム協会(以下、JILS)に参加している各会社の物流責任者の方々が、やっぱり将来のSCMのグランドデザインの中のロジスティクスをちゃんとしっかり書いて。それで、導入したツールをつなげて活かしていけると、もっと物流組織自体が進化していくと思うんだけど、今後どうなるかは期待を持ってみています。
仲田 そうですね。僕もやっぱり、DXもオペレーションの部分とデジタルの部分の両方大事で、デジタルの部分だけじゃないと思っています。両方やらないと大きな成果を得るのは難しいと。とはいえこれだけコロナで注目されたので、ここで導入した企業がダメですねって一回辞めてしまうと、次またツールを導入する、DXを再開するのってめちゃくちゃハードルが上がってしまうと思います。なので、デジタルの側面だけにフォーカスすると「オペレーションの部分も変えないと」となるのは承知のうえで、とは言え可視化等の取り組みにうまくいった企業は何がよかったのか、うまくいかなかった企業はどういうところがダメだったのか、そこから何が学べるか、みたいなところを改めて整理したいなと思っています。
左:ハービット 仲田 紘司 氏、右:トップインサイト 三宅 武志 氏
ソニー時代の可視化の取り組み
仲田 三宅さんが以前いらっしゃったソニーでは国際物流の可視化にはどのように取り組んでいらっしゃったんですか?
三宅 僕が以前いたソニーでは、工場は週次製販で当週確定オーダーに対して部品を調達して生産出荷するっていうのがミッション。基本FOB※3 で工場のフォワードでバンニング※4 出荷し、載せた船が出航するB/L※5 デートで売上が立ち、売上情報とバンニング物流情報が海外販社に伝送されて、各販売会社のERPにつながって輸入手配や在庫計画につながっていく。僕も販売側の会社にも海外赴任して業務を経験したんですけど、その送ってこられたB/Lに基づいたETA※6 情報をベースに顧客オーダーと引き当ててお客さんへの納期計画回答をしたり、販売計画や輸入手配に使うんだけど、輸送途上の経由地でフィーダー※7 からマザーベッセル※8 に積み替えたり、到着本船がいつ着くかの直前情報は、輸入のブローカーがETAの1週間くらい前にこのくらいになりそうだっていうArrivalの情報をくれるわけです。その時点で初めてかなり遅れそうだとか、予定通りに来るっていうのがわかって。ソニーは非常に在庫にセンシティブな会社だったから、そのオンハンドの在庫のレベルも、輸送中の積送在庫リードタイム、ここがちゃんと短く、かつコンシステントにオペレーションができれば安全在庫計画にも反映されて低く抑えられるということなので、物流のインバウンドリードタイムのモニタリングと短縮活動は販社と出荷側の両方でしっかりやっていました。
でもやっぱりそういうマニュアルな伝言つなぎのオペレーション管理だと、なかなか前もって予定通りに着くのか、遅れるのか早く着くのかタイムリーな把握が難しくて、特にフィーダー船と本船が接続するところはコロナの時に一番苦労した。例えばマレーシアのペナンで作った製品を、シンガポールやタンジュンペラパスでつないだり、あるいはベトナムから北米向けに経由便起用で出荷して台湾とか香港で本船につないだりする場合、マザーベッセルの遅れ以上にフィーダー船のスケジュールが大混乱して、船会社も他社委託しているケースが多いから港でコンテナは滞留し、船がいつ来るか、どの船に載るかの把握も難しい。ここは船会社のホームページでもなかなかリアルタイムに反映できない。一番ひどいときはベトナムの港からアメリカ西海岸の混雑もあって出航から接岸までに2~3ヶ月かかっちゃって、しかも港の混雑でいつピックアップできるかもわからない。特にアメリカは国内の内陸鉄道輸送もあり、日系企業の北米売上比率が大きいので販売への影響が非常に大きい。なので国際輸送の可視化と納期確認、パイプライン在庫の把握がコロナのときはすごく重要でした。特にフィーダー船とマザーベッセルの接続がある航路はブラックボックスになりました。
こういう問題が起こって、多くの製造業が輸送費高騰物流遅延で納期確定ができず、物流が販売機会ロスの主要因となってから一斉にトップマネジメントからフォーカスされた。物流問題と並んで、半導体の逼迫で製品が作れない問題がありました。これはほとんどの製品に入っているため、一つの半導体チップがないと勿論作れませんから。その後逼迫部品の備蓄を進めることになったけど、半導体の在庫や調達進捗によって何が作れるかの生産計画も変わり、そして物流計画も併せて変わり、かつ納期管理が難しい。工場で遅れた生産をできるだけキャッチアップしたけど、その後の物流が見えない、読めないで納期回答ができない。調達と生産、そして物流をつなげてリアルタイムにステイタスをみるシステムは勿論ないので全てマニュアルで調べてつなげる。実はその物流と部品逼迫の調達の話ともう1つ大きい変動要因があって、ペントアップ需要※9 で予想外にものすごく急激に販売の需要が増えた。この3つが来たので、これをみんなが一斉にどうするんだってなった。で半導体のような部品は以前から調達、生産、販売という製販オペレーションで需給計画をまわしているから、日々、情報共有と対策を話すことができるけど、物流計画は製販計画に直結していないので把握が難しい。それでこの物流の問題を過剰に納期遅延や在庫不足の責任にしたがる人が出てくる。自分たちは一生懸命やったけど欠品は物流の責任だと。製造業の製販には、販売不振や調達遅延を過度に物流責任にするケースはよくある。物流は何かあったときの理由に便利なんです。あとは国際輸送費のレートが非常に上がっちゃって、今まで前年踏襲で計画を立ててたのが急に5倍とか10倍になっちゃった。でそんな話は聞いてなかったということで、物流ってよくわからない領域だけどなんかすごいインパクトのある問題になっちゃって、あまり関心のなかったマネジメントからどうなってんだ説明しなさいと。でみんな販売とか生産の方もちゃんとやったんですけど、見えない物流をなんとかしろってなって。物流の人たちがみんな困って、いやどこに船、コンテナがあるかわからなくて、これを見るには今こういう最新のシステムがありまして導入すると可視化ができて正確な計画が立てられますって言って、緊急的に予算承認をもらって、あまりROI※10 を厳密に検証もせずに高額ツール導入を検討した。それで一斉にみんな可視化ツールを入れ始めたっていうのがこれまでの大方の経緯ですね。急ぎ入れたはいいけど、データの整合性や見え方、使い勝手とか次の苦労が待っていました。
ソニーでは確かに動静をどう把握して販売や生産にフィードバックするかっていうのは重要だけれども、組織機能のグローバルネットワークと標準運用の基盤があって、精度が高くなくても基本把握できている基本オペレーションができていたし、必要な情報をマニュアルで取ってなんとか回していた。そのツールはコストが高かったし、実効性の検証実績もなかったから、そこまでお金をかけて一気に導入する必要はないって判断をしたんですよ。みなさんが使って非常に効果が出てすごく価値があるということがわかったら導入してもいいんだけど。その代わり安いツールで最低限見れるようにだけして、あとはマニュアルでも情報を収集して。グローバル物流組織のネットワーク力と個々人のスキル力で乗り切ったけど、やはりマニュアルの限界は感じた。それから、可視化のROIを成立させるためには高度なSCM物流ができていないと難しいとわかったし、導入して物流を高度なSCM物流に変えるトリガーにもなり得ると気づいた。
なのでJILS(国際物流強靭化推進研究会)でも議論したように、このツールを入れてどのようにビジネスオペレーションに結合させて、想定外の販売需要が増えたときの対応とか、在庫過多から生産調整のブレーキ踏むときにちゃんと連動して優先付けをして踏めるような使い方ができるSCM物流設計図を書く必要がある。とりあえずドーンと入れて、見えるようになりました、何か遅れそうだったらフィードバックしますよっていうんだけど、目的のための手段を描く全体設計図を書かないで手段を先に入れているから、導入後に効果を探すのに困ってしまった。後付けになったわけで。という構図がわかっていたのでJILSでこれを取り上げて、後付けでもいいから、導入したらちゃんとその価値を生むようなオペレーションの設計図をもう1回書いて、物流の変動を生産と販売の変動と横並びにして、トータルの需給+物流の計画につなげて作っていきましょうと。それがチャンスなので。
仲田 おっしゃる通りですね、ありがとうございます。
ハービット 仲田 紘司 氏
物流会社(フォワーダー)の活用
仲田 あと物流会社のコントロールタワーサービスみたいなこともnoteで触れられてましたけど、このあたりについてはどんなことをお考えですか?
三宅 このコントロールタワーってすごく定義がまちまちで…物流会社の人はよくコントロールタワーって言うんだけど、蓋開けてみると結構実物流オペレーションの業務管理だけとかよくありますけど。多くの会社の物流部はあまり多くの人数を抱えない組織です。で、組織をレベルアップしてエグゼキューションの業務とか実務じゃなくて、グローバル戦略とか最適化プランニングとかシミュレーション分析した在庫も含めたネットワーク最適をやる組織にするってなると、今のやっている業務をコアとノンコアで分別する必要があります。昔ながらの定型作業のノンコア業務がまだ多いんですよ。そんなのはわざわざ社員がやらなくても、守秘義務をちゃんと結んだ上で実物流を動かしている物流会社にオペレーションと併せて委託しちゃって、それを自分たちのチームの手足のようにして出すのではなく、入ってもらって意思決定の質を上げていく。そうなるとこの物流会社に実務の領域をコントロールしてもらうということでコントロールタワーとか司令塔ってなっちゃうんだけど、本当の意思決定と指示をする司令塔は荷主だけど、その司令塔の下で司令塔の意思決定を助けるイメージ。委託する内容のSOP※11 を詳細に定義し、動静管理をちゃんとシステムを入れて、イレギュラーの発生と予兆管理、前提条件になっているサービス条件でいいのか、違うサービスを選んだ方が納期遵守とコストの点から良いのか、そういう分析結果の評価とそれによる意思決定の迅速化に力点を置いて、ノンコア部分を切り離して委託管理型にして連結させるイメージです。
もう一つは、そんな高い可視化ツールを継続して、じゃあコストに見合う結果が出ているのかってマネジメントから問われたときに、見えるようになりましたけれども平時は活用方法がなく特段あまり語れませんってなっちゃうと続かない。ただ不確実ないろんなこう…不確定要素があるので、不確定な変化対応のための可視化管理はしなくちゃいけない、じゃないと何かあったときにまたコロナ禍のときのような混乱になっちゃう。例えば、可視化管理を総花的に全ての出荷航路でやる高コストツールじゃなくて、必要なときに必要なところだけ使う従量課金制の物流会社のツールを入れて、必要じゃなかったらやめる、必要なところだけやって評価するという意味もあります。
仲田 そうですね。
三宅 ピンポイントでアメリカ販売市場向けとかアジアの生産工場向けとか、そういうところを重点的に動静管理プラスほかの実物流系のソリューション対応というか、もうちょっというと例えば出荷業務とかの書類作成やデータベースの整備をしてもらって、そこからKPIを打ち出してもらいBIまでつなげて見える化する作業を全部一緒に委託物流会社にやってもらう。自分たちはそれを見ながらどうプランニングし最適化するかという機能に特化していく。その点からすると、本当は物流会社の活用方法っていうのは、もっと荷主の都合で賢く柔軟に使いこなせばよくて。そういうレベルに物流部機能が実力を上げていかないと単なる業務委託だけで使いこなせないから、物流部はいつまでたってもオペレーション機能のままになっちゃう。物流会社を土台としてうまく使えば、組織機能デザインの観点で非常に効果的だと思う。ただ日系会社はよく考えもしないで物流会社に提案を持ってこい、何ができるか教えてほしい、という会社を見かけますが、欧米会社の視点でいうとまずありえません。自社のビジネス戦略、SCM戦略・方針があって、その実現のための具体的な施策やソリューションを提案してくれ、となります。物流部の企画力、スキルが問われます。
仲田 なるほど。
三宅 そういう物流会社の使い方は結構欧米系の企業が多いですよ。もう入札から含めて。アップルもそうだけど。まず自社でどうなりたいか、何をしたいかを考えて、物流会社にやってもらう領域と内容は決めることですね。
仲田 うん、なるほど、そうですね。 確かにそこは可視化ツールも一気に入れるとシステム導入のケイパビリティがないところも自分たちで全部やらないといけませんが、物流会社でそういったものを持ってて使いやすいところがあれば、それもうまく使いつつやっていくと。そしてどこは自分たちでやってどこは物流会社にやってもらうかを自分たちで考えるということですね。
三宅 物流会社は入札のRFQ※12 で価格競争で業務を獲得するっていうのはもう利益が取れなくて、それを中心にフォワーディングだけをやってきた会社が赤字転落したり、本当にものすごく厳しくなりました。背景は今まで荷主は昔からのお付き合いで丸投げしてきた物流会社が、コロナでスペースが取れないからって、初めて複数から見積もり取ったら、今まで取引していた会社がいかに高かったかっていうのを知っちゃったりして。あとはスペース確保のためやリスクヘッジで複数購買化になったときに、物流会社に対するコストターゲットが、非常に厳しくなったんですよね。だから物流会社はやっぱりジリ貧になるレート競争と価格競争じゃなくて、付加価値をつけて料金にプラスアルファつけて高く売れるようにするために、このコントロールタワー、オペレーション管理や他の付帯業務も含めて全部やります、とほとんどの会社がそっちになっているじゃないですか。物流会社もコモディティ化した利用運送や倉庫作業領域を顧客との関係維持だけでやっていく時代から、プラスαで共創の構造を作って囲い込み戦略や離れられない関係をいかに作るかの方向性を志向している。荷主としてはそれをうまく利用して、自分たちの機能を高度化するために物流会社を戦略的に活用する、要は今のノンコア業務を委託して一緒にインフラ連携をして行うというのもある。
仲田 そうですね。 DXの観点でも、ツール導入や自社システム開発で成果を出すのってハードルが高いところもあるので、まずはそういったものを使ってみて、そこから本当に価値が出るんだったら自分たちで大きくやるもありだし、ずっと使い続けるもありだし。うまく付き合っていくのが大事だっていうところで。そういう意味では、物流会社のデジタルサービス動向みたいなのも見ておいた方が、荷主さんとしてもいいっていうところですかね。
三宅 一般的にね、日本の会社の…物流だけじゃないかもしれないですけど、欧米系の3PL※13 の企業の人と話すと、ここの機能がどうあるべきで何をやりたいかという戦略構想図みたいな設計図が最初にあって。全体から見てこういう組織でこういうことにならなきゃいけない、で今いるリソースと実力にギャップがあるんだったらその条件で外から採るじゃん。ジョブ型で採って、それで組織を作っていくじゃない。でも日本ってあまりそういうアプローチをしない。
仲田 そうですね。
三宅 現状をベースにして、過去と比較してよくしたいとかさ。
仲田 はいはいはい。
三宅 だから何を目指していかなきゃいけないかっていう、先を見たピクチャーを描かないといけないなと思うんです。なのでこういうコントロールタワーとか、フォワーダーをどう使うかってことも、本当はうちの会社が今後こういう課題、問題を経てこうあるべき、故に物流も目指すところはこうなるんだ。それに対する手段は可視化ツールを使ってこうしていこう、こうできるか。でも自分たちの組織では使いこなせないよねってなったら、協力してもらうしかないじゃない。じゃそこはアウトソースしてやってもらって、インソースで自分としてここはやりますって。そういう戦略に基づく設計図を書くっていうのが欧米の人たちの順番として必ず来るんだけど、日本の会社はあまりそうならないので。
仲田 確かにそうですね。
三宅 僕も昔ね、欧米荷主企業とのフォーラムがダラスであって、日本からはソニーだけ僕一人日本人だったけど、アメリカでやったときに、インテルとかHPとかエリクソンとかいて。当時ソニーの物流でインソースとアウトソース領域をどう定義して、どこまで外に出すかということを考える担当をしてたから、どういう考え方と基準で考えてるんですか?って聞いたら、それよりもあなたの会社はまず何を目指してるんですか?どういう戦略の画を持ってるのか?と。それを達成するためにどういう機能を自分たちのコアで持ち何をするか、どこを外に出してどうつながってパートナーにやってもらうか、と。それを聞いてちょっとハッとしたんだけどね。自分の物流部門の社内議論からすると、今ある組織と機能、業務があって、このあたりを何とか外に出して人員削減して固定費下げるとか、目の前の組織の機能を前提にどうするかで、確かに本来これからあるべき上位の戦略図を描いて、その達成手段としてインソース機能とアウトソース機能はという順序で考えられてはいなかったんです。事業はそういうのがあるかもしれないけど、物流の組織だと受け身が多いので、事業部と並列に先取りの見取り図を描くことはあまりない。それを聞いて自分の会社はまだ全然遅れているなあとため息をついて帰りました。
仲田 それも確かにそうですね。色々おもしろいお話をありがとうございます。
トップインサイト 三宅 武志 氏
今回の対談では、三宅氏にソニーでの経験も踏まえたロジスティクスDXへの考察を伺いました。コロナを経た今、多くの日本企業が抱えるDX上の課題とそれに対して何をどう取り組むべきか、コロナ当時の具体的な状況を含む臨場感のある話とともに語って頂きましたが、実は日系企業と欧米企業の組織上の特徴の違いにも成否を分ける大きな要因があるという話もありました。スペースの都合上、その内容は弊社noteに掲載していますので、是非そちらもご覧ください。
https://note.com/harbitt/n/naefbcaeabb5b
次回はフォワーダーの株式会社日新に、デジタルフォワーディングサービスの取り組みについて伺う予定です。お楽しみに!
※1 SCM…Supply Chain Managementの略で、原材料の調達から消費者に商品が届くまでのサプライチェーン全体を管理する手法
※2 ERP…Enterprise Resource Planningの略で、企業の経営資源を統合・管理して、業務の効率化や経営の最適化を図るシステム
※3 FOB…Free On Board(本船渡し)の略で、国際貿易における取引条件のひとつ
※4 バンニング…貨物をコンテナに積み込む作業(バンニング)
※5 B/L…Bill of Ladingの略で、国際海上輸送における荷主と運送人(船会社)との間の運送契約を証明する書類で、「船荷証券」とも呼ばれる
※6 ETA…Estimated Time of Arrivaの略で、到着予定時刻
※7 フィーダー…艀。基幹航路に就航する本船の寄港地と本船の寄港しない港の間の支線輸送
※8 マザーベッセル…主要港に直接寄港するコンテナ船
※9 ペントアップ需要…景気後退期に消費を控えていた需要が、景気回復期に一気に回復すること
※10 ROI…Return on Investmentの略で、投資利益率や投資収益率とも呼ばれる指標
※11 SOP…Standard Operating Procedureの略で、標準作業手順書や標準操作手順書を意味する用語
※12 RFQ…Request for Quotationの略で、商品やサービスの料金を知りたいとき、購入を検討している企業に対して、自社が要求する取引条件に対する見積もりを出してもらうために、要求する条件を明記した依頼書のこと
※13 3PL…サードパーティー・ロジスティクス。荷主企業の物流業務を代行する事業