変化に即応する“止まらない国際物流”へ:AIで進化する国際物流DXの最前線
ハービット(株)は、国際物流に特化したクラウドサービスの開発会社として、輸送データの可視化や予測など、荷主企業やフォワーダーのデジタル化を支援する、2022年8月設立のスタートアップ企業です。お客様が現在抱える課題や、そのソリューションとなるクラウドサービス『Harbitt』の特徴、業界の今後の展望などについて、仲田紘司氏(代表取締役)にお話を伺いました。
ハービット株式会社
国際物流の課題解決に特化したクラウドサービスの開発会社として2022年に設立。荷主企業やフォワーダーに向け、輸送データ取得を自動化し、データドリブンでプロアクティブな意思決定を支援するDXクラウド『Harbitt』の企画・開発・運営・販売およびコンサルティングサービスを提供している。
代表取締役 仲田 紘司 氏 Koji Nakata
東京大学および同大学院卒業後、日本郵船に入社し、コンテナ船の営業を担当。アクセンチュアにてDX案件を中心としたコンサルティング、プラグ・アンド・プレイ・ジャパンにて大手企業のオープンイノベーション支援を経て、現職。日本ロジスティクスシステム協会(JILS) 国際物流強靭化推進研究会メンバー。
外部環境の影響を受けやすい国際物流の現場
――御社の設立の経緯や沿革についてご紹介いただけますか。
私は大学卒業後に日本郵船へ入社し、NYKコンテナライン(現:ONEジャパン)で営業を担当していました。その際、日本にとって不可欠な「貿易」を支えている、国際物流のダイナミックな世界に大きな魅力を感じる一方で、業界内にはアナログの業務も多く、語学が堪能で優秀な方々が単純作業に時間を奪われている状況を目にしていました。その後、ITコンサルタントとして様々な業界のDX支援や、大手企業のオープンイノベーション支援などを経験した後、国際物流のデジタル化を支援したい、お客様により近い立ち位置で変革をお手伝いしたいと2022年に立ち上げたのがハービットです。
これまでに、メーカーや商社などの荷主企業様、フォワーダーと言われる物流会社様を中心に、主にトラッキングと呼ばれる「貨物が今どこにあり、いつ港に着くのか、どれくらい遅れるのか」などを可視化・予測する機能を搭載したクラウドサービスを開発してきました。
――ロジスティクスの課題はどのような点にあると考えているのでしょうか。
国際物流にフォーカスすると、
①アナログ業務が残ることに起因する環境変化への対応力の弱さ
②最新テクノロジー活用上の制約
③属人的な意思決定の継続
の3点が課題と考えています。
まず①について、グローバルなサプライチェーンを持ち、大量の物をいろいろな場所から場所へと動かす必要がある企業は、世界中で起きる様々な出来事によって大きな影響を受けてしまいます。私が起業した2022年以降だけでも、当初はコロナ禍の混乱から落ち着きを取り戻せていませんでしたし、その後も、例えばイエメンの武装組織フーシ派による問題でスエズ運河の迂回を迫られる、パナマ運河では渇水によって通航制限が行われる、ロシアのウクライナ侵攻で大きな混乱が生じるなど、常に世界のどこかで何かが起きています。外部環境が非常に不確実な中で、その変化に的確に対応していくには、アナログの部分をデータで可視化できるようにし、影響を素早く予測して次の手を打てるようにすることが重要です。
次に②について、デジタル化は、進化が著しいAIを活用していく上でも重要です。例えば貨物をトラッキングする際には、B/Lナンバーやコンテナナンバーがないと、貨物の詳細なデータを取得できませんが、現場では未だに誰かが紙を見て手入力していたり、メールを探し出して「コピペ」したりしないと追跡できないことがよくあります。AIの中でもChatGTPに代表される生成AIは、書類やメールを読み取って返信するような自動化と非常に相性がいいですから、まずはアナログなものをデジタルにして、データとして検索できる形にすることが大切です。
さいごに③については、現状では、船会社によってデジタル化の進捗度合いに差があるだけでなく、国際物流のステークホルダーは非常に幅広く存在することから、「船会社がデジタルでも、フォワーダーがアナログ」といったように、どこかの時点でFAXや中身が画像のままのPDFが紛れ込むことも珍しくないため、フォーマットがバラバラな情報を一元管理していく取り組みも必要となります。
DXの目的は、単に情報を電子化することではありません。「勘・経験・度胸」と言われてきた物流の世界で、特定の人の勘に頼るのではなく、データをもとにみんながディスカッションし、成長につなげられる企業文化に変革することが最も重要だと考えています。

多彩なフォーマットに対応 成果を最大化する
――それらの課題に対してどのようなソリューションを提供しているのでしょうか。
課題解決のため荷主企業やフォワーダー向けに提供しているのが、国際物流DXクラウド『Harbitt』です。PDF、画像ファイル、メールなど様々なフォーマットの情報をデータ化し、貨物のトラッキングを簡単に行えるほか、分析・レポート作成も容易になります。データを一元管理することができるため、担当者ごとに分散していた情報の共有もスムーズです。このシステムの活用により、現場で活躍する優秀な方々の作業負担を軽減し、より付加価値の高い業務に取り組んでいただくことが可能になります。
最大の強みは、国際物流に関する深い知識をもとに、「現場にとって真に必要なシステム」という思想で設計・開発を行っている点です。例えば、船輸送の「データ」と一口に言っても種類は様々で、それらの違いを理解できるのは業界知識があるからこそ。その点、かつて私は船会社におりましたので、現場の最前線でのデータ管理やオペレーションの中身も熟知しています。
また、会社ごとに異なる業務フローにフレキシブルに対応できるのも特徴です。トラッキングを例にとると、自社の輸送貨物全体の60%程度しか可視化できないツールも多いのですが、『Harbitt』は100%近い可視化を実現する様々な支援機能を備えています。到着予定や遅延度合いの予測にも力を入れており、船会社のデータ特性や遅れの要因の影響度などを考慮した独自のアルゴリズムにより、高い精度での予測・更新が可能となります。
さらに、単にシステムを提供するだけでなく、それを効果的に活用するために業務をどのように変えていくべきか、コンサルティング的なアプローチを行い、一緒に考えながら導入していけるのも強みです。
国際物流DXクラウド『Harbitt』でできること
――導入提案にあたって大切にしていることは何でしょうか?
最終的にしっかり成果を出せそうか、という点を重要視しています。そのため、かなり細かくヒアリングさせていただきます。そのお客様の物流がどのようになっているのか、どのような業務の仕方をしているかによって、『Harbitt』の強みとマッチしている部分が明確になるからです。
また、対話を進めていく中で、お客様が解決したい課題よりも、別の課題解決に取り組むほうがより大きな成果が期待できるケースもあります。その場合は、変に気を使ったり、弊社で価値提供できる領域にもっていこうとしたりすることはせずに、「その場合は○○より●●を進めるべきではありませんか?」といった率直なコミュニケーションを取ることを意識しています。
物流改革を進めるには、トップから現場まで、また社外も含めて様々なステークホルダーを巻き込んでいくことが非常に重要です。そのため、人々を巻き込みやすいシステムづくりも意識しています。例えば、全員がその都度ログインして、表示される情報の中から自分に関係のあるものだけを選別して確認しなければならないシステムでは、多くのユーザーにとって活用しづらいものになってしまいます。それを、「レポート配信は週1回あればいい」など担当者ごとの必要性に応じて、ほしい情報だけをログイン不要で簡単に見ることができるといったように、きめ細かく配慮した使いやすいシステムを構築しています。
――今回「ロジスティクス強調月間2025」のサポーターに参画いただいた経緯をお聞かせください。
このロジスティクス強調月間のサポーターもですが、他にも連載コラムの執筆や国際物流強靭化推進研究会の参加など、JILSの活動に様々な形で参画・協力させていただいているのは、「日本企業の物流全体をより良くしたい」という想いからです。
私は、企業の物流部やロジスティクス部門は、会社の中でもっと注目されるべきだと考えています。その実現には、それぞれの企業がロジスティクスやサプライチェーンを強化していこうという温度を高めていくことが必要です。JILSの諸活動には日本を代表する企業が参加し、物流の未来のために日々議論や提言をされている貴重な場となっていますから、世の中の温度を高めるためにも、ご一緒できることがあれば協力させていただきたいと考えています。
AIも活用し環境変化に即応できる国際物流へ
――ロジスティクスの未来をどのように予測・想像されていますか。
国際物流は貿易と密接に関連していますから、国際情勢の変化など、外部環境の変化は今後も続いていくでしょう。それらを予測するのは困難でも、環境の変化に素早く対応できるようにしていかなければいけません。他にも、人材の確保が難しいという声や、船の寄港地の問題で手配がより難しくなっているという声をよく耳にしますが、それでも物流担当者は以前と同じように納期を守り続けるよう求められます。これまでのようにアナログが混在した状況のままでは、まもなく限界を迎えてしまう企業は多いでしょう。企業を取り巻く状況が厳しさを増す中では、やはりデジタル化を進めて、人の入れ替わりなどがあった場合にも、データを活用して誰でも同じように予測して動けるように体制を整えることが、外部変化や内部変化に素早く対応でき、リードタイムひいては物流コストを最適化できる「強い物流」を実現するカギとなり、それは企業の競争優位にも大きく影響していくでしょう。
また、AIは今後も進化を続け、社会にとってますます不可欠なものになっていくでしょう。AIが最適な物流の手配を自動で行ってくれるような未来になっていくのではないかと思いますし、そうなってほしいと期待しています。
――今後に向けた目標をお聞かせください。
今後も、AIなどの最新テクノロジーからお客様にとってベストなものを見極め、効果的に活用しながら国際物流のDXに取り組み、課題解決に貢献していきたいと考えています。
『Harbitt』の機能面では、お客様からのご要望にお応えして新しい機能をどんどんリリースしていく予定です。トラッキング機能を提供している中で、お客様から「普段使っているルートの遅延は可視化できたが、使ったことのないルートの遅延はわからないのでルートを切り替える判断が難しい」というお声を多数いただきました。こういったお声にお応えして、使ったことのないルートでも遅延状況がわかるツールを直近リリース予定です。こうした機能は他のツールにはないものだと思いますので、ぜひご期待ください。
そしてその先には「国際物流業務の一連の流れを自動で最適実行するAI」へと進化させていきたいと考えています。
