輸送能力が減少する時代に不可欠な共同物流の取り組み

物流の2024年問題で世間の耳目を集めた輸送能力の不足。国土交通省の試算では、2030年に国内輸送能力が約34%不足すると予測される中、2025年4月から改正物流効率化法が施行されました。企業に一層の課題解決が求められる一方で、個社単位での対応にも限界が見えています。課題解決策の1つとして推進される「共同物流」について、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社の清水裕久氏(スペシャリストディレクター ロジスティクス&トランスポーテーション)にお話を伺いました。

スペシャリストディレクター ロジスティクス&トランスポーテーション 清水 裕久 氏 Hirohisa Shimizu

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社(以下、DTC)は、国際的なデロイト ネットワークの一員として、5,000名超のコンサルタントを擁し、戦略策定から実行まで一貫した支援を提供している。日本の物流・ロジスティクス業界の変革を牽引してきた同社は、人口減少時代の社会課題でもある物流領域において戦略立案・DXから組織・人材、オペレーションまで包括的なサービスを展開している。

スペシャリストディレクター ロジスティクス&トランスポーテーション 清水 裕久 氏 Hirohisa Shimizu

物流業/流通業におけるサプライチェーン変革プロジェクトを多数経験した後、グローバル物流企業での要職を経て、DTCのスペシャリストディレクター ロジスティクス&トランスポーテーションに就任(現職)。

「AIO」を目指すDTC

――御社についてご紹介ください。

デロイト トーマツ グループは、私が所属するコンサルティングに、監査・税務・ファイナンシャルアドバイザリー・リスクアドバイザリーを加えた5大機能のほか、弁護士法人、行政書士法人、貿易・関税を専門とする法人など、包括的にプロフェッショナルサービスを提供しています。

近年は様々なデジタルプレイヤーともアライアンスを組み、「AIO」と呼ぶアプローチを推進しています。AIOとはアドバイザリー、インプリメンテーション、オペレーションをあわせた造語です。これによりアドバイザリー業務に加えて、業務やデジタルの実装を行うインプリメンテーションの際に、クライアントに常駐する伴走支援も行っています。また実装後のオペレーションにおいても同様の支援を提供しています。

――物流・ロジスティクス領域の取り組みについてはいかがでしょうか。

大きく2つの取り組みを行っています。1つ目は戦略、設計、供給計画、購買・調達、製造、物流というサプライチェーンを構成する機能ごとのチーム編成で、企業の物流改善・改革などを支援しています。ただし、企業ごとの物流改善・改革が何よりも大事な一方で、物流業界全体を俯瞰的に捉えた場合に、それは当社における活動の一部となります。

2つ目が「政策および業界連携」で、社会課題としての物流課題の解決をテーマとした新たなエコシステム形成への取り組みです。産官学連携で行うこの活動は業界全体への波及効果を期待できます。当社がこうした取り組みを行う理由は、国内の物流状況に大変な危機感を抱いているからであり、そのためJILS様と同様に、経営資源としての物流の大切さを問う活動が必要だと考えています。私はこれらの2つの部門を兼務しています。

生産性の向上が不可欠な現状と物流法改正による意識の変化

――物流・ロジスティクス領域における課題の全体感について教えてください。

グローバル最大手の物流企業での勤務経験や、これまで企業物流の改革を数多く支援してきた観点から申し上げると、日本の物流の実行水準は高いと言えますが、それは現場力によるものであり、荷主における物流統制力や物流事業者が有するDX力については、さらなる引き上げが必要だと考えています。特に物流子会社の多くは「かかったコストに数%のマージンを乗せて請求すればよい」といった慣習が残っています。そのためプロセスごとの生産性を測定し、改善機会を特定し、効率化を図るなどの科学的なアプローチがとれていないケースが散見されます。

例えば、ある現場におけるクロスドックでは、1つの荷物に対して入荷から出荷まで、ハンディターミナルで5回以上も検品していました。軽作業員による荷物への接触回数が増えるほど作業時間が増えてコストも増加しますから、「かかったコストにマージンを乗せて請求していれば問題ない」という認識ではいけません。労働力不足の中、これまでの当たり前から脱却し、自らを変革していく必要性があると感じます。

――近年の動向や変化についてはいかがですか。

物流法改正という国からの「規制の矢」が投入されたことで、状況は劇的に変化しつつあります。荷主企業の経営層にも物流危機が認識されるようになり、これまで注目されることが少なかった物流の地位向上への取り組みが明確に見られるようになりました。特に年間取扱貨物重量が9万トン以上の国内約3,200社が該当する特定荷主に対する報告義務・罰則や、トラック・物流Gメンによる監視というプレッシャーが荷主企業の経営層の意識変革を促しています。以前は、物流子会社のトップが本社に設備投資を要求しても予算が通らないケースが多くありましたが、今日では親会社から物流子会社へ「我が社の物流を持続的に行うためにはどういう戦略や投資が必要か」と投げかけられるまでに変化してきています。

一方で荷主と物流事業者の関係性も変化しています。誤解を恐れずに言うならば「荷主が物流事業者を選ぶ時代から、荷主が物流事業者から選ばれる時代」への転換です。荷主が往路輸送のチケットだけ渡して、復路は「自分たちで帰り荷を探してください」の発想では、物流事業者は離れていきます。そうした力関係に依存する荷主企業は、最終的に往路さえも運べず「物流難民」になるリスクがあるのです。

私は荷主企業に「往路輸送のみを委託して復路は保証しない要求で、いつまでも物流会社がついてくると思いますか。代わりの事業者を見つけるのは難しい時代になっていますよ」と問いかけます。経営層が物流を自分ごととして考えるトリガーになればと考えています。

スペシャリストディレクター
ロジスティクス&トランスポーテーション
清水 裕久 氏 Hirohisa Shimizu

輸送力減少時代の選択肢が「共同物流」

――担い手の減少による輸送力不足が進む中、共同物流が推進されています。

人口減が進むよりも早く、トラックドライバーは成り手不足も相まって枯渇が進んでいます。2024年からはじまった特定技能制度による外国人ドライバーの受入れは1つの緩和策ですが、抜本的な解決策にはなりません。

こうした中、解決策として有効な手段が、業界全体で商慣行を改善して企業間の壁を越えて輸送手段を共用する「共同物流」ですが、一筋縄には進みません。例えば、ある企業が1日に100便の往路を運行した場合復路の100便それぞれに貨物をマッチングできるのか…非常に困難です。そのため発地・着地をあわせた異業種連携による共同物流が求められます。そして共同物流の実現に不可欠なキーワードこそが「標準化とデジタル」です。

――共同物流実現のための「標準化」について具体的に教えてください。

当社はこれまで幾つかの共同物流を支援させていただきましたが、共同物流には多くの課題があります。例えばA社の貨物がB社の物流拠点に搬入された際に、受入側が現物を見て「どれをどこに配送すればよいのか」が識別できないという問題があります。これは1つの貨物を異なる物流事業者がリレー輸送するときに「共通言語」がないことが原因です。そのため現場では人による読み合わせ作業が発生します。企業間、ましてや異業種連携による共同物流では、荷姿、パレット、積込・積降しに関わる諸条件やオペレーションも含めて様々な標準化が求められます。

数社での共同物流では共通言語化も比較的容易ですが、数十~数百社や異業種による共同物流ともなると全国区の取り組みになり複雑度は飛躍的にあがります。

物流における標準化を実現するためには翻訳機能が必要です。英語で「グッドモーニング」、韓国語で「アニョハセヨ」と異なる言葉で話しても、翻訳機能があれば『おはようございます』と訳してくれます。

共同物流においてはこうした標準化やデジタルを使った翻訳機能を実現しないと、誰もが運べるという状態にはなりません。アナログ対応ではわずかな貨物量しか共同で運べませんが、コミュニケーションがデジタル化されて、デジタル利用で大量の翻訳処理を実現できれば、共同物流による輸送量の大幅な増加の一助になります。

――共同物流を推進する上で必要な企業のマインドセットは何でしょうか。

競争戦略と協調戦略のハイブリッドです。例えば食品物流のF-LINEが実現したように商品で競争し、物流では協調するということです。ただし、企業の規模とポジションによって役割が異なります。荷量が多い荷主企業や物流企業は、一次請け事業者としてEnd to Endで確実に輸送を担う必要があると考えています。特に荷主企業は共同物流の仲間づくりに加えて、リーダーシップを担う企業とフォロワーシップを担う企業の役割分担も重要と考えています。

共同物流に必要なステップ 同業種連携と異業種連携

――まず、共同物流の同業種連携の取り組みについてお聞かせください。

現在、国が主導する「フィジカルインターネット実現会議」では、複数業界のワーキンググループが立ち上がっており、業界や地域における共同物流への取り組みが進んでいます。これらは企業同士や地域内連携による座組をもとに発地・着地における貨物の融通や輸送ルート最適などに積極的に取り組んでいます。

特にトラックドライバーの減少が著しい幹線輸送では、往路の便数・荷量に対する復路の荷物確保と積載量の最大化が肝要です。今日では、様々なところでトラックドライバー不足や物流法改正の動向を受けて、協調政策への舵取りがはじまっています。

なお、同業界での共同物流の場合は出荷ピークが重なりやすくあるので、異業種による連携を視野に入れることが望まれます。

共同物流が川上・川中・川下のどこに位置しているかに関わらず、“物が流れる”と書いて“物流”ですから、トラックドライバーの枯渇が著しい幹線輸送の停滞は、様々な経済活動の停滞を招くだけでなく、私たちの生活にも大きく影響してきます。そのため持続可能な物流に向けて企業、業界、地域を横断した物流連携が不可欠なのです。

――続いて異業種連携について伺えますか。

人口減の加速によって、国内の輸送需要は減少していきますが、それよりも速いスピードで輸送力の不足が進んでいます。

同業種連携だけでは限界を迎え、異業種連携が不可欠となった際に必要になるのが、貨物の3辺サイズ(縦・横・奥行)の容積データと重量データです。例えば、重量勝ちの貨物を満載した場合、トラック荷室の上部空間の容積はどのくらい残っているのか、そのスペースに容積勝ちの軽量貨物のカートンをどれだけ積めるのか。こうしたデータを異業種間で相互に共有するのです。

一方で、バーコードによる製品管理をしていない業界もあります。こちらの業界には品番やロケーション情報があるが、あちらにはないということがあるため、そうした課題の解決も求められます。

――物流事業者側で必要な視点も教えてください。

個社ごとの改善には限界がありますから、「物流効率化の創出による持続性の提供」という御旗の下、各社が自主行動宣言を通じて企業規模や利害関係を超えた協調政策を推進することが必要です。ただ、企業同士のみの協調は一筋縄ではいかないため、当社のような中立的なコンサルティング会社や政府・業界団体とも連携した動きが大事になってきます。

また、業界だけでなく、地域間の協調も必要ではないでしょうか。日本の各地域には製造業や流通業など様々な企業が分散していますし、産業集積地もあります。そうした場合は、地場に強い企業が中心となって業界や地域の垣根を越えた保管や輸送を担うことが期待されます。さらに地域同士のネットワークの結合によって全国規模での共同物流網が形成されていくと考えます。

国が推進しているフィジカルインターネット実現会議の取り組みにも期待します。これらの取り組みは、物流業界における新たな常識を作り上げ、持続可能な物流システムの確立に貢献するでしょう。

今後の展望 物流の未来に向けた取り組み

――未来の物流の人材育成について伺えますか。

目先の改善や効率化だけでなく、中長期的な物流変革の実現には、高度物流人材の育成が不可欠です。これからの物流はデジタルの活用なくして立ち行きません。既存システムの安定的な保守・運用の枠組みだけでは、新規物流事業のITをデザインするにも限界があるのではないでしょうか。私もJILS様と共に「物流のためのIT企画&計数管理強化セミナー」という教育プログラムを毎年春に実施し、講義を続けています。様々な荷主企業、物流企業の方が受講されていますが、やはりみなさん物流IT企画に大変興味を持たれています。今後もこうした人材育成に資する活動を続けていきたいと思います。

――JILSとの今後の取り組みをお聞かせください。

これからも共同活動や業界横断的な政策提言活動、いわゆる啓発活動を続けていく考えです。当社ではそれらをソートリーダーシップ(*)と呼びますが、物流の担い手がますます減少していく中、経済を支える重要インフラである物流を持続可能なものにするため、誰かが伝道師にならなければいけないという想いがあります。

* ソートリーダーシップ(Thought Leadership):特定の分野において革新的なアイデアや解決策を提示し、その分野のリーダーとして市場をリードする活動のこと