物流は「DXの宝の山」。総合商社が多様なパートナーと拓く未来
さまざまな商材を扱い、多角的に事業を展開する三井物産株式会社。同社は、「モノが動く」という物流の普遍的な価値を大切にしながら、「2024年問題」をはじめとする社会課題に対し、物流現場の完全オートメーション化や自動運転トラックの開発支援など、大胆な課題解決を推進しています。
今回は、同社のロジスティクス戦略を牽引する奥村氏にインタビュー。アナログな管理が残る物流領域を「DXの宝の山」と語る真意や、日本ロジスティクスシステム協会(JILS)という「多様性」あふれるプラットフォームをいかに活用し、異業種との交流や人材育成を通じて未来のロジスティクスを描いていくのか、その想いの軌跡を伺いました。
-
三井物産株式会社
ロジスティクス戦略部 理事 ロジスティクス戦略部長 奥村 隆
- 業種
- 総合商社
- 入会
- 2024年入会
※所属・役職は取材当時のものです。
三井物産株式会社
世界60か国120拠点のネットワークを有する総合商社。トレーディングから事業投資まで多角的に展開。あらゆる産業と接点を持てる特性を活かして多様なパートナー企業と協業し、グローバルなサプライチェーンとロジスティクスの最適化・進化を牽引している。
事業の根幹を担うロジスティクスと、変化への追随
──本日は貴重なお時間をいただきありがとうございます。まず、三井物産におけるロジスティクスの役割について教えてください。グローバルな事業展開において、どのような機能を果たしているのでしょうか。
総合商社である私たちのビジネスは、かつては「ラーメンからロケットまで」と言われたように、あらゆる商材を扱うトレーディングが中心でした。現在ではそれにとどまらず、海外の工場への出資や、鉄鉱石やLNG(液化天然ガス)などの資源開発事業への投資といった「事業運営」も非常に大きな柱となっています。
時代が変わり、ビジネスの形態がどのように進化しても、モノの売り買いがある以上、必ず「モノが動く」という事実は変わりません。例えば、LNGを開発すれば専用船で運ぶ必要がありますし、穀物やコーヒーを輸入する際にも当然輸送網が必要です。つまり、ロジスティクスはトレーディングや事業運営と一体であり、モノをお客さまに届けるために必要不可欠な機能です。この根幹となる役割は、歴史的に見ても普遍的なものだと捉えています。
──ロジスティクスの根幹となる役割は普遍的とのことですが、一方で「2024年問題」など、物流を取り巻く環境は大きく変化しています。そうした中で、御社の取り組みに変化はありましたか?
ロジスティクスの歴史的な役割は不変ですが、ロジスティクス機能そのものの進化にはしっかりと追随していく必要があります。
例えば、私たちのグループ会社が物流を任せて頂いているリテールに近い領域のお客さまの物流現場では、従来のフォークリフトが行き交う世界から、ロボットや自動倉庫を導入した完全オートメーション化へと劇的に変化しています。こうした最新の技術や変化の潮流に対しては、常にアンテナを張り、先頭集団であり続けるという姿勢で取り組んでいます。
一方で、私たち三井物産として自前で大量のトラックや倉庫などの大きなアセットを保有しているわけではありません。モノを運ぶ際には船会社様や物流会社様など、さまざまなパートナー企業にご協力をいただいています。自分たちだけで全てを賄うのではなく、多様な業界の方々とパートナーシップを組み、共に知恵を出し合って課題解決にあたっていくというのが、当社の基本的なスタンスです。

JILSへの再入会と、産官学連携による課題解決
──御社は近年、JILSに再入会されました。その背景や、物流という機能に対する価値観の変化についてお聞かせください。
もともとはJILSに入会していましたが、その後、物流センターを運営する会社や、物流ロボットを扱う「プラスオートメーション」といった私たちのグループ会社が個別にJILSに入会して活動を広げていたこともあり、三井物産としては一度退会していました。
再入会の直接のきっかけはお声がけをいただいたことですが、タイミングとしてちょうど「2024年問題」が社会的な課題として大きくクローズアップされてきた時期でもありました。三井物産としてもJILSの活動を通して世の中の物流の大きな動きをしっかりと捉え、情報収集をしていく必要があると判断したのが大きな理由です。
「2024年問題」を通じて、これまで当たり前だと思われていた物流が、実は当たり前ではなく、社会を支える重要な機能であるという認知が世間に広がったことは、業界にとって良いことだと考えています。私たちも改めて自社の立ち位置を見つめ直し、我々の商品の物流をお願いしているパートナー企業の皆様とどう協力していくべきか、同じ目的を持って考える良い契機となっています。
──JILSの「先端ロジスティクス研究センター」の委員としても活動されていますが、そこではどのような議論や交流が行われているのでしょうか。
研究センターでは、JILSが実施したアンケート調査の結果をもとに意見交換を行ったり、各委員が自社の先進的な取り組みについて話題提供を行ったりしています。
ここには、日頃接することのない他業界の方々や大学の先生、シンクタンクの方など、非常に多様で鋭い視点を持つ方々が集まっています。AIや自動化など最新動向や先進事例を伺うことは大きな刺激となり、得られた知見は社内にも積極的にフィードバックしています。また、研究センターでの出会いをきっかけに、先進的な取り組みをされている荷主企業の方と情報交換を行うなど、新たなネットワークも生まれています。
以前の会合では、当社が筆頭株主として出資している株式会社T2(自動運転トラックの開発と幹線輸送サービスを提供するスタートアップ)の取り組みを紹介しました。自動運転技術は大きく進歩していますが、社会実装にはインフラ整備や法規制など、一企業だけでは解決できない課題も多くあります。
ドライバー不足解消という目標を共有し、産官学で議論を重ねながら社会的な合意形成を進めていく。研究センターは、そのために課題の解像度を高める重要な場となっています。

物流は「DXの宝の山」スタートアップの新しい発想に期待
──お聞きしたところ、スタートアップ企業へのJILS入会を勧められております。ロジスティクスとスタートアップが交わることで、どのような「化学反応」を期待されていますか。
特に貿易のプロセスなどには、いまだに紙の書類やExcelでのアナログな管理が多く残っています。社内でもデジタル技術を活用した自動化などを積極的に進めてはいますが、この領域はAIやDXを活用する余地が非常に大きい「宝の山」だと思っています。
だからこそ、旧来の業界常識にとらわれない、若い世代や異業種のスタートアップの方々が持つ発想力に期待しています。「こうすればもっと効率化できるはずだ」という新しい視点が業界に注入されることで、面白い世界が開けるのではないでしょうか。
私は時々、若い社員に「ドラえもんの『どこでもドア』や『タケコプター』みたいなものはつくれないの?」と冗談めかして聞くことがあります。どこでもドアは究極の物流ですよね。もしそんな時代が来たとしても、「物を手渡しで届ける」という根本のニーズはなくなりません。技術の進化や若い力が交わることで、未来のロジスティクスがどのように変わっていくのか、私自身とても楽しみにしています。
「多様性」という最大のメリットを活かし、社会全体の最適化へ
──JILSの会員として得られるメリットや、人材育成の観点での活用を教えてください。
一番のメリットは、やはり「多様性」です。JILSには、物流事業者だけでなく、荷主企業やサービスプロバイダーなど、本当に多種多様な業界の方々が「ロジスティクス」や「サプライチェーン」という機能を軸に集まっている、非常にユニークな団体です。高い視座と志を持って「物流を良くしたい」という強い想いを持った方々から、多くの気づきを得ることができます。
人材育成の面でも活用させていただいています。事業の現場を通じたOJTに加え、視野を広げ視座を高めるためのOff-JTの機会も重要視しています。JILSが提供するセミナーへの参加や他業種との交流は、現場だけでは得られない学びの場として機能しています。グループ会社も含め、今後も積極的に若手などを派遣し、知見を深めていきたいと考えています。

──多様な人材との交流から得た知見を活かし、今後JILSと共に成し遂げたいことや、入会を検討している企業へのメッセージを最後にお願いします。
JILSが掲げる理念には大変共感しています。私たちは総合商社として、お客さまや社会に対して現実的な「解」を提供することが責務です。さらに、JILSの活動から得た知見を参考にしながら、自らのビジネスを通じて社会課題の解決に貢献できればと考えています。
これから入会を検討される企業の方にお伝えしたいのは、ロジスティクスという機能がいかに多様な業界で重要視されているか、この場に来れば実感できるということです。自社の利益を超えて、社会全体の最適化に向けて語り合える仲間がたくさんいます。さまざまな気づきが得られる貴重なプラットフォームですので、ぜひこの多様なネットワークを活用していただきたいと思います。
まとめ
総合商社というマクロな視点から物流業界を俯瞰しつつも、現場のリアルな変化を敏感に捉え、テクノロジーの進化に大きな期待を寄せる奥村氏のお話は大変示唆に富むものでした。「どこでもドアは究極の物流」というユーモアを交えたユニークな発想や、若い世代やスタートアップの力で業界の「宝の山」を発掘してほしいという熱いメッセージが深く印象に残っています。
多様なパートナーとの協業を重んじ、JILSという場から学ぼうとする姿勢に触れ、これからのロジスティクスがダイナミックに進化していくと予感する取材となりました。
※取材は2026年3月16日に行われました。