会員の声

全体最適を実現する人財戦略―持続可能な物流を築くための挑戦

日本を代表する食品メーカー、株式会社 明治。同社は独自の経営指標「明治ROESG」を旗印に、社会価値と経済価値を高度に両立させる大胆な物流改革を推進しています。その司令塔として2021年に発足したのが、かつては分離されがちだった「生産」と「物流」を統合した「生産物流プロセス戦略本部」です。

今回は、同本部で物流企画グループ長を務める小倉氏にインタビュー。13年前の「物流技術管理士」取得から、2024年に挑んだ「ロジスティクス経営士」まで、日本ロジスティクスシステム協会(JILS)の教育事業をいかに活用し、組織の「人財」育成や他社との「共同配送」へとつなげてきたのか、その軌跡を伺いました。

株式会社明治
生産物流プロセス戦略本部物流部物流企画グループ グループ長 小倉 一彰
業種
製造業
入会
2011年入会

株式会社明治

「おいしさ・楽しさ・健康・安心」をテーマに、幅広いカテゴリーでトップシェアを誇る日本を代表する食品メーカー。2021年、生産と物流を統合した「生産物流プロセス戦略本部」を設立。「明治グループ2026中長期経営計画」に基づき、利益成長(ROE)とサステナビリティ(ESG)を融合させた「明治ROESG」を推進。環境負荷低減に向けたモーダルシフトや共同配送の強化など、持続可能な物流体制の構築に注力している。

明治の独自指標「ROESG」と物流が果たすべき使命

──本日は貴重なお時間をいただきありがとうございます。「明治ROESG」の実現において、生産物流プロセス戦略本部はどのような使命を担っているのでしょうか。また、「生産」と統合された現在、どのような視点で全体最適を追求されているのかお聞かせください。

「明治ROESG」は、利益創出(ROE)を基盤に、環境(E)・社会(S)・ガバナンス(G)の各側面で社会に価値を生み出し、すべてのステークホルダーからの信頼獲得を目指す私たちの指針です。

かつては「生産」と「物流」の部門最適を優先するあまり、生産側の論理が物流に負担を生じさせる場面もありました。しかし現在は、同じ組織として全体最適を追求するガバナンスが機能しています。

物流の使命は、生み出された価値を損なうことなく確実に届けることです。在庫の最適化や無駄な運行の削減は、ROE向上と同時にCO₂削減にもつながります。一方で、持続可能な物流の実現には適正なコストが不可欠です。「2024年問題」への対応も含め、原価構造を踏まえた対価を支払うことが、パートナーシップを守る前提となります。

「コストの最適化」と「持続可能な関係性」の両立。それが私たちの最大のミッションです。

──生産と物流の統合によって、部分最適から全体最適へと視点が引き上げられたのですね。その変革には現場を動かす「人」の力が不可欠ですが、貴社が推進される「人財」育成において、JILSの講座を活用することは、具体的にどのような変化をもたらしていますか。

当社には「学びの自立」を重んじる風土がありますが、物流は専門性が高く領域も広いため、社内研修だけで体系的に網羅するのは容易ではありません。その点、JILSの講座は最新トレンドから古典的な理論までを体系的に学べるため、プロとしての土台づくりに欠かせない存在です。

私自身、2011年に「物流技術管理士」、2024年に「ロジスティクス経営士」を受講しました。キャリアの節目で必要な知識をアップデートできたことは大きな自信につながっています。講座を通じて「自ら答えを導く力」が養われ、改善を提案し変革をリードする姿勢が育まれました。この「個の自立」こそが、JILS受講の最大の価値だと感じています。

JILSの資格講座で挑んだ全体最適の追求

──小倉様のご経験を振り返ると、「物流技術管理士」受講が一つの大きなターニングポイントだったと伺いました。当時の論文作成や演習は、その後の実務にどう生かされたのでしょうか。

当時は入社10年目で、現場から本社へ異動した直後でした。実務経験はあるものの、体系的な理論に基づいた判断にはまだ自信を持ちきれない時期でした。特に印象深いのは、試験論文で取り組んだ「瀬戸内海航路を活用したモーダルシフト」の実現案です。九州―関西間の輸送を一部フェリーへ切り替える構想で、運用の段取りを徹底的に考え抜いた経験は、まさに実務そのものでした。実はこの瀬戸内海航路は、現在も継続しています。

当時いただいた「別の視点はないか」という講師の助言や、論文作成を通じた思考の整理が、今の実務の礎になっています。専門知識を武器に、受け身ではなく主体的に動けるようになった。それがこの講座で得た大きな変化です。

──現役で機能しているスキームを構築されたというのは、まさに、実践に生きる学びであったことの証ですね。2024年に管理職という立場で改めて「ロジスティクス経営士」に挑戦されていますが、どのような思いからだったのでしょうか。

きっかけは、当時の上司からの勧めでした。正直なところ、この講座が非常にハードルの高いものであることは聞いていたので、最初は躊躇する気持ちもありました。日々の業務との両立は並大抵のことではないと考えていました。しかし、自分の中で「財務諸表を分析する力」や、よりマクロな「経営的視点」が不足していることは痛いほど自覚していました。物流を取り巻く環境がこれほどまでに激変する中で、将来、物流のプロフェッショナルとして経営に関わっていくのであれば、今このタイミングでどれほど苦労してでも学んでおくべきだと決断しました。

──受講を通じて、ご自身の視野や提案の在り方にはどのような変化がありましたか。

実際に受講してみると、想像以上にハードでした(笑)。それでも「最もためになる研修だった」と感じています。特に財務分析の講義では、数字を処理するのではなく、物流の動きや車両稼働、在庫回転と結びつけて考えることで、「物流が経営にどう貢献しているか」を自分の言葉で語れるようになりました。

論文や演習では、「答えが一つではない問い」に向き合い、多くの指摘を受けながら思考を深めました。その結果、経営を立体的に捉えられるようになり、提案前の準備の質も大きく向上しました。経営層の視点を想定し、会社全体の損益やキャッシュフローまで踏まえて考える習慣が身についたことは、大きな収穫です。また、他社の受講生とのつながりも、今も続く大切な財産となっています。

JILSの資格講座で挑んだ全体最適の追求

「競争」から「共創」へ ― JILSで得た社外ネットワークの価値

──他社との交流の重要性を感じられていると思いますが、JILSという場で得たつながりは、現在の実務にどのように活かされていますか?

今や物流は「自社だけで完結する」時代ではありません。一社単独の効率化には限界があり、これからは「競争」から「共創」へと移っています。JILSのセミナーや研究会で出会った他社の方々と、利害を超えて共同配送の可能性を議論できる関係性を築けたことは、大きな財産です。

私の上司や部下も「食品ロジスティクス研究会」などを通じて他社とつながり、「持続可能な物流のために何ができるか」を模索しています。繁忙期の車両融通や共同輸送といった具体的な議論も生まれています。もちろん、すぐに実現することは容易ではありません。しかし、同じ志と共通言語を持つプロ同士が本音で議論できる場があること自体が、未来の物流を形づくる大きな力になっています。

変革期におけるメーカー物流の課題と「主体的な役割」

──業界全体で「持続可能な物流」を模索する起点にJILSがあるのですね。メーカーとしてプロフェッショナル育成に力を入れている中で、「2024年問題」や法改正などの変革期をどのように捉えていますか。また、その中でメーカーが果たすべき役割についてお聞かせください。

物流を取り巻く環境は大きく変化しており、メーカーにとっては「商品を届け続ける体制を維持すること」自体が最大の課題となっています。従来の自社努力による効率化だけでは、すでに限界が見えています。

だからこそ他社と協力し、延長線上ではない高いレベルでの効率化を模索する必要があります。そのためには「全体最適」の視点に立ち、自社グループを含めた役割を再定義し、主体的に行動していく姿勢が求められていると考えています。

変革期におけるメーカー物流の課題と「主体的な役割」

──変革期を迎える今、「学び続けること」の意義と、JILSの講座を検討している企業や物流担当者へのメッセージをお願いします。

私が入社した20数年前と比べても、物流環境は劇的に変化しました。過去の成功体験だけでは通用しません。学びを止めた瞬間に、プロとしての成長も止まってしまうのだと感じています。持続可能な物流を実現するには、現場に立つ「人」が学び続け、思考をアップデートすることが不可欠です。JILSには体系的な知識だけでなく、他社と議論できる「つながり」があります。この環境は企業にとって大きな価値を持つはずです。

「この年齢だから」と守りに入るのは惜しいことです。私自身、ロジスティクス経営士への挑戦で自分に足りない視点を再確認しました。現場経験に経営視点を掛け合わせれば、改革の可能性はさらに広がります。

一歩踏み出せば、視界は確実に広がります。ぜひJILSの場で、共に未来の物流を議論しましょう。

まとめ

「物流技術管理士」から「ロジスティクス経営士」へ。小倉氏の歩みは、現場の知見と経営の視点を融合させるプロセスそのものでした。「明治ROESG」という高い志を、物流の実務で具現化していくその挑戦の裏には、学び続けることへの誠実さと、社外の仲間との強い絆がありました。これからの食品物流の新たなスタンダードを予感させるインタビューとなりました。

2026.03.03 製造業