ガラパゴス化しない組織づくりの実践
1967年の創業以来、茨城県を拠点に「食」と「職」を支える物流インフラとして成長してきた十和運送株式会社。運送業にとどまらず、車両整備や人材サービス、観光事業まで多角的に展開し、グループ全体で物流の「川上から川下まで」を担う独自の体制を築いています。
その同社が、なぜ日本ロジスティクスシステム協会(JILS)に参画し、専門教育に力を注ぐのか。そこには、現場の「ガラパゴス化」を防ぎ、変化の時代に新たな価値を生み出し続けるための戦略があります。今回は執行役員本部長の結束 洋 氏に、JILSでの学びがもたらした変化と今後の展望を伺いました。
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十和運送株式会社
執行役員本部長 結束 洋
- 業種
- 物流業
- 入会
- 2020年入会
十和運送株式会社
茨城県を中心に、関東・静岡などへネットワークを広げる物流企業。運送事業を核としながら、自社グループ内に整備工場や人材派遣会社を持つことで、車両トラブルへの即応や柔軟な人員配置を可能にする「自己完結能力」を最大の強みとする。荷物を選ばない柔軟な対応力と、地域に根ざしたインフラとしての責任感を併せ持つ。2027年には創業60周年を迎える。
現場の「自己完結能力」が、地域インフラを支える揺るぎない地盤になる
──本日は貴重なお時間をいただきありがとうございます。十和運送は1967年の創業以来、茨城県を拠点に幅広く事業を展開されています。御社ならではの強みと、現在の拠点展開に至った経緯について教えてください。
弊社の最大の強みは、物流の川上から川下までをグループ内で内製化していることによる「現場の解決力」です。グループ内に整備会社や人材サービス会社を持っているため、車両トラブルが発生しても即座に対応でき、急な物量増にも人員を柔軟に手配できます。特殊な荷物にも専門技術で応えることができる。この自己完結能力こそが、地域の物流インフラを支えていると自負しています。
拠点の拡大についても、基本はお客様のご要望にお応えしてきた結果です。「この地域でも対応してほしい」という声に応え、時にはご縁のあった企業の事業を引き継ぐ形で拠点を広げてきました。今後もニーズがあれば、柔軟に展開していきたいと考えています。

社員の「共通言語」を作り、現場のガラパゴス化を防ぐ
──JILSの会員として、様々なサービスを活用されています。入会や講座の受講が、経営やマネジメントに寄与していると感じる点はありますか?
具体的な数字として出すのは難しいですが、最も大きな価値は「社員教育の場」としての機能です。自社だけで業務を行っていると、どうしてもやり方が「ガラパゴス化」してしまいます。JILSの講座やセミナーに参加することは、自分たちの業務が世の中の標準からズレていないか、客観的に確かめる貴重な機会になっています。
他社の事例を知ることで、顧客との折衝や社内ミーティングの場でも「他社ではこうしています」と根拠を持って話せるようになりました。これは大きな変化です。
──他社の事例から刺激を受けて、実際に社内で改善に繋がった事例などはありますか。
例えば「多能工化」ですね。一人の人間が特定の作業しかできないという属人化を防ぎ、効率的に現場を回す。この「マルチな人材を作る」という取り組みを全社的に展開するきっかけの一つは、他社の成功事例を学んだことや、お客様からの示唆でした。JILSでの学びが、その背中を押してくれたと感じています。
「何でもできる」からこそ、専門特化企業の強みを学び、自社の個性を再認識する
──ご自身も「物流技術管理士」や「ロジスティクス基礎講座」を受講されています。多くの同業他社が集まる講座の中で、特に印象に残っていることはありますか?
講座にはメーカーさんや物流会社さんなど、本当に多様な方々がいらっしゃいます。そこで感じたのは「地域による物流文化の違い」と「専門特化企業の強さ」です。
弊社は何でも運ぶ、いわゆる「荷物を選ばない」スタイルを得意としていますが、世の中で伸びている会社には、冷凍物流やキャリアカーなど、特定の分野に驚くほど特化しているケースが多い。その設備投資や専門性の深さを目の当たりにして、正直「羨ましいな」と感じる部分もありました。
──専門特化型のメリットを、どのように分析されていますか?
専門業者はその分野の設備が圧倒的に整っています。例えば冷凍倉庫一つとっても、弊社では数百坪規模ですが、専門業者は数千坪単位で持ち、どんどん荷物を受け入れる。特化しているからこそ顧客ニーズを深く捉え、安定した実績を築いているのです。
一方、弊社は何でも対応できる反面、分野ごとの設備力では及ばない部分もあります。しかし受講を通じて、私たちの価値は「ニッチな困りごとにも応えられる総合力」にあると再認識できました。それが大きな収穫でした。

正しい「物流用語」が、顧客への提案力を劇的に変える
──「言葉遣いの正しさを学ぶ機会になった」とありますが、これは具体的にどういうことでしょうか。
現場には、その会社独自の「現場言葉」が必ずあります。しかし、それをそのままお客様や他社さんに使ってしまうと、認識の食い違いが起きるリスクがあるんです。
例えば「荷役」という言葉一つとっても、荷揃え、積み込み、積み下ろし、仕分けなど、似たような言葉が乱立しています。これらを正しい物流用語として理解し、定義を共有することで、お客様への提案に正確性が生まれます。
──言葉の定義が揃うことで、コミュニケーションが円滑になるのですね。
その通りです。お客様はこう思っていたのに、こちらが勝手に違う解釈をしてしまった、というミスは絶対に許されません。基礎的な知識を身につけ、正しい言葉を使うことで、お客様との「積み上げ」ができるようになります。
実際、受講した社員たちはみんな「こんな言葉知らなかった」「こういう意味だったのか」と正しい知識を身に付けてきます。特にシステムの担当者が受講した際は、現場の動きと物流用語がリンクしたことで、システム構築の質が格段に上がったという事例もありました。
ロジスティクスは「兵站」。本質を知ることで見える、ボトルネックの解消
──「物流技術管理士」の資格取得前後で、仕事への向き合い方に変化はありますか?
受講前は、正直なところ目の前の日々の業務をこなすことで精一杯でした。しかし、講座を通じてSCM(サプライチェーンマネジメント)の考え方を学んだことで、物流をどう活かすか、どこにボトルネックがあるのかを俯瞰して考えられるようになりました。
「ロジスティクス」の語源は、軍隊の「兵站」にあります。物資をどう運び、前線をどう支えるか。その本質を学ぶことで、単に「物を運ぶ」だけではない、効率的な現場運営や、顧客への付加価値提案ができるようになったと実感しています。
──講座での交流も、刺激になったのではないでしょうか。
私が受講した十数年前は、今ほどネットで何でも調べられる時代ではなかったので、実際に目で見て、人に聞くことが全てでした。講座の後にグループの仲間と飲みに行き、大手企業さんの取り組みや失敗談を聞く「飲みニケーション」は、本当に貴重な情報収集の場でしたね(笑)。
自分の会社、自分の見える範囲だけでは限界があります。異なる視点を持つ仲間との繋がりが、自分の物の見方や考え方を広げてくれました。

DX・AIを「当たり前」に取り入れる柔軟性を
──今後の物流業界は、共同配送やDX、人材不足など多くの課題に直面しています。十和運送として、どのような未来を目指されていますか?
今、物流業界は大きな転換期にあります。人材不足は弊社にとっても他人事ではなくAIやDXをどう取り入れ、現場の効率化につなげるかが重要です。
しかし、今や「効率化」は前提条件。かつて画期的だった共同配送やモーダルシフトも標準となり、その先に何を描くべきか、明確な正解は見えていません。
だからこそ私たちは、「変化し続けること」自体を答えの一つと考えています。各事業所からメンバーを集めた1年間のリスキリング講座を実施し、成果発表会も開催しました。慣習にとらわれず学びを重ね、その時々の最適な物流を探り続ける。その積み重ねこそが、次の100年へとつながる道だと考えています。
──最後に、JILSへの入会や講座の受講を検討している企業へメッセージをお願いします。
物流、そしてロジスティクスを本当の意味で理解したいのであれば、これ以上の場所はありません。自社の中だけで完結せず、様々な物流の形を知ることは、顧客や協力会社との一体的なネットワークを考える素晴らしい機会になります。
今の時代、物流を取り巻く環境の変化は非常に早いです。知識を得て、それを価値創造に繋げるために、迷っている時間はありません。ぜひ一歩踏み出してみることをお勧めします。
まとめ
十和運送株式会社から感じたのは、自らの強みを自覚し、さらに磨き続けようとする姿勢でした。地域物流を支える確かな土台を持ちながら、自社のやり方だけに頼らず、外で学び続けている。その象徴がJILSでの取り組みです。学びは知識の習得にとどまらず、日々の仕事を見つめ直す機会にもなっていました。
「外を知ることで自社の価値を再認識した」という言葉の通り、専門特化企業に触れながら、自社の強みは「幅広く応えられること」にあると再確認している。正解が一つではない時代だからこそ、学び続けること自体が企業の力になる。そう感じさせるインタビューとなりました。