物流業界の「常識」を俯瞰し、次の一手を共創する
物流業界が大きな転換期を迎える今、ドライバー不足、コスト上昇、環境対応―課題は複雑化し、従来のやり方だけでは立ち行かない局面も増えてきました。こうした時代だからこそ、自社の立ち位置を客観的に見つめ、変化を恐れず素早く動く姿勢が求められています。
今回は、IT活用や共同配送の推進に積極的に取り組むクボタロジスティクス株式会社の深井社長にインタビュー。日本ロジスティクスシステム協会(JILS)での活動を通じて得ている「外の視点」の価値、そして物流業界の未来に向けた共創への想いを伺いました。
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クボタロジスティクス株式会社
代表取締役社長 深井 誠
- 業種
- 物流子会社
- 入会
- 2014年入会
クボタロジスティクス株式会社
クボタグループの物流を支えるベースカーゴを核に、グループ内外へ高付加価値なロジスティクスサービスを展開。従業員330名のうち10名のIT専門メンバーを抱え、社長直轄のSAIS(サステナブル アンド イノベーティブ ソリューション)プロジェクトの中に設置した「LDA(ロジスティクスDXアクション)チーム」が現場の課題に対して即断・即実行でITソリューションを導入するなど、業界屈指の機動力と技術力を誇る。
「自前のITチーム」がもたらす圧倒的なスピード感
──JILSでの活動も踏まえながら、御社のお取り組みについてお話を伺えればと思います。まず、御社の事業において「ここが一番の強みだ」と自負されている点について教えていただけますか?
まずベースにあるのは、クボタグループという強固なビジネス基盤があることです。そこで培われた圧倒的な物量とノウハウ、長年かけて整備してきたインフラを活用することで、グループ外のお客様に対しても高水準のサービスを短いリードタイムで立ち上げることができます。これが当社の土台となる強みです。
そして、その土台を加速させているのが『ITによる機動力』です。当社には、一般的なシステム部門とは別に、社長直轄の8名で構成されるプロジェクトの中に『LDA(ロジスティクスDXアクション)チーム』を置いています。あえて『DX』の後に『アクション』を入れているのは、構想だけで終わらせず、即実行するという意思表示なんです。
──10名もの専任ITメンバーが現場と近い距離で動いているというのは、物流業界では珍しい体制ですね。
多くの企業では、新システム導入の前段階である要件定義の時点で疲弊し、結局頓挫してしまうことも少なくありません。しかし当社では、現場から『こんなことをやりたい』という声が上がれば、LDAチームがすぐにトライアルを開始します。社長直轄プロジェクトの組織ですから、意思決定から実装までのスピードが圧倒的に早い。この『まずやってみる』文化と体制が、他社にはない大きな競争力になっていると感じています。

JILSという「場」が、井の中の蛙になるのを防いでくれる
──現場に根ざしたスピーディーな実行力が御社の強みだと感じました。そのような御社が、JILSの活動に参加されている目的について教えてください。
一言で言えば、自社のビジネス戦略を常に『俯瞰』し、アップデートし続けるためです。社内だけで仕事をしていると、どうしても『自分たちのやり方が一番だ』という思い込みや、逆に自信のなさから来る迷いにとらわれ、客観性を失いがちです。いわば『井の中の蛙』になっていないか、常に自問しています。
──JILSの活動で「よかった」と思える瞬間はどんな時ですか?
業界全体の潮流や社会が求めている方向性を肌で感じられることですね。特に我々のような物流子会社はどうしても親会社の方針に影響を受けやすい立場ですが、外の世界を知っていれば『それは世の中の流れと違います』と根拠を持って提言できます。『社会の常識』と『会社の常識』のバランスを取る判断材料を得られる点が、JILSの大きな価値です。
若手社員が見せた劇的な成長と、葛藤の記録
──印象に残っているJILSの活動を教えてください。
ロジスティクス・ユースフォーラムと物流子会社懇話会ですね。ロジスティクス・ユースフォーラムでは、当社からは若手社員を2年連続で各2名を派遣し、彼らは1年間のプログラムを通じて見違えるほど大きく成長しました。同業他社の同世代と交流する機会は普段ほとんどありませんから、外の世界で初めて自分の立ち位置を知ることになったのです。
参加した社員からは毎月詳細なレポートが上がってきて、そこには外で揉まれて成長していく彼らのリアルな『葛藤』が綴られていました。

「物流子会社懇話会」で見えた、オープンな情報交換の価値
──JILSでの活動を通じて社外とのつながりを広げてこられたのですね。ご自身は「物流子会社懇話会」に参加されているようですが、参加してみて印象的だったことは?
想像以上に皆さんオープンだったことです。困りごとや失敗談まで率直に話せる関係性があって、驚きましたね。月1回の研修会では各社の拠点を訪れ、『うちはこんな工夫をしています』と実際の現場を隠さず見せ合っています。親会社同士が競合するケースでは配慮も必要ですが、現場レベルでは共通の課題が山ほどありますからね。
例えば、当社が実施している安全対策の見学会を行った際、同業のプロの方々から『これは素晴らしい、ぜひ教えてほしい』と高い評価をいただき、現場社員の自信につながったこともありました。上司に褒められるのとはまた違う、『同業に認められた』という経験は、何よりの励みになります。
──企業同士がオープンに学び合える関係が築かれているのですね。懇話会をきっかけに実現した取り組みはありますか?
共同配送やコンテナのマッチングなど、企業の枠を超えた連携を実際に運用しています。帰り便の有効活用や中間プール拠点の共有により、CO2削減やコスト抑制にもつながっています。ドライバー不足が深刻化する中、もはや一社で解決できる時代ではありません。こうしてオープンに協力関係を築けていることは大きな強みです。
──物流業界の価値観の変革についてもお考えがあるとか。
私は常々、社員に『荷主の顔色を見て仕事をするな』と言っています。これは少し突飛に聞こえるかもしれませんが、見るべきは、その商品を待っている『最後のお客様』であるべきだからです。物流は単なるコストではなく、価値を完成させる仕事。荷主と同じ目線で消費者に価値を届けるパートナーであるべきです。
また、日本の“送料無料が当たり前”という文化も見直す必要があります。物流の努力とコストが正当に評価される社会をつくることも、業界の使命だと思っています。

共に悩み、共に答えを出す「戦友」を求めて
──最後に、JILSへの入会を検討されている企業の皆様へメッセージをお願いします。
業界の悩みはどこも共通です。ノウハウを隠したまま情報だけ得ようとしても、良い出会いはありません。お互いのカードを見せ合い、率直に語り合うことで初めて答えが見えてきます。JILSはそんな『戦友』と出会える場所。受け身ではなく、自ら発信し業界を動かす仲間が増えることを期待しています。
まとめ
今回のインタビューで印象的だったのは、深井社長が繰り返し語った「俯瞰」という言葉でした。社内や親会社の常識にとらわれず、外の視点を取り入れる姿勢が、組織の健全な成長と危機感を生み出しています。
若手社員が外部で揉まれ、他社と手を取り合って共同配送を実現する。こうした「一社ではできないこと」への挑戦こそが、これからの物流業界を生き抜く鍵となります。
「手の内をオープンにし、共に悩み、共に答えを出す」。その起点としてのJILSの価値を、改めて実感する機会となりました。クボタロジスティクス株式会社が目指す“消費者視点の物流”の実現に、今後も注目していきたいと思います。